見出し画像

クラプトン2006 来日公演

 ザ・ローリングストーンズのドラムはスティーブ・ジョーダンが叩いている。
 チャーリー・ワッツのシンプルかつストレートなドラムにパワーが加わったリズムが想像できる。
 僕はスティーブ・ジョーダンのドラムが好きだ。その初見は24thストリート・バンドでもジョン・メイヤーのトリオでも無く、クラプトンだった。
2024年6月


 どういう経緯でバンドメンバーが編成されたかわからないが、とにかく2006年のクラプトンのバンドはすごかった。
 僕は1979年以降、毎回欠かさずクラプトンの来日公演を観覧しているが、今回は時が経つのも忘れる位興奮してしまった。あっという間の2時間だった。
 ここ10年くらいのクラプトンバンドは少しAORがかった音楽とともに、ベテランのビッグネームがバックを固めていた。そして、ライヴの内容も落ち着いて観ることができるショーだったように思う。
 ジョー・サンプルやスティーヴ・ガッド、ネイザン・イーストなど、どちらかというとジャズ・フュージョンの畑のミュージシャンであったり、『アンプラグド』(1991)以来のパートナーであるギターのアンディー・フェアウェザ・ローは、サポートに徹する地味なプレイヤーだったり。みんなミュージシャンとして超一流だとは思うが、クラプトンのバックとして考えた時、僕の中ではマンネリ化してきていたのも事実だ。

 今回のワールドツアーのメンバーは、キーボードのクリス・ステイントンを除くと初顔ばっかり。ニュースとしては、2人のギタリストを擁したことが挙げられる。特にオールマン・ブラザースバンドにも所属している若干27歳のデレク・トラックスのスライド奏法は目を見張るものがあった。確実にクラプトンを喰っていた。そしてもう1人のギタリスト、ドイル・ブラムホールⅡとのヴォーカルの掛け合いも新鮮だった。
特にデレクとクラプトンのギターバトルは、デレク&ドミノスの再現であり、名盤『レイラ』(1970)そのものだった。つまり、クラプトンと故デュアン・オールマンということだ。

デレクとエリック

 僕はもちろんデレク&ザ・ドミノスのステージを観たことは無いので『イン・コンサート』(1971)の音源から推測するしかないのだが、活き活きとしたバトルが繰り広げられていたことは間違いない。そのせいか、デレク&ドミノス時代のナンバーが半分を占めていた。クラプトンが回帰したのだった。

 しかし、ただの回帰で終わらないところが、クラプトンだ。大将は、すさまじいリズム隊をもってきた。単純に元に戻る回帰ではなく、パワーアップして戻ってきたという印象が伝わる。
ドラム・・・スティーブ・ジョーダン(元24thストリート・バンド~多数のセッション・・・ボブ・ディラン、スティービー・ワンダー、キース・リチャ―ズなど)
ベース・・・ウィリー・ウィークス(ダニー・ハザウェイ、アレサ・フランクリン、スライ・ストーンなどのバックを務め、ドゥービー・ブラザースにも在籍)
この2人のグルーヴがクラプトンの作品に刺激を与え、ロック色がより強くなったからだ。
尖ったビートは、今までの大人のロック(というかAORといってもいい)を一新し、非常に若々しくロックしていた。

 特にスティーブの渾身のビートは、見ていて爽快だ。オーバーアクションのスティックさばきだが、テクは抜群。バンドのコアとなり、全員を引っ張っていく。
曲が終わると、さっさと自分のスネアを換え(ほとんどの曲でスネアをつけ換えていた)、自分の準備が完了するとでかい声で曲のカウントをする。みんなの準備なんかおかまいなし・・・。鋭いビートが武道館に響き渡る。抱腹絶倒。僕はアリーナ・センターブロックの前から3列目で観ていたので、彼の表情まではっきり見えたのだが、やんちゃ坊主が暴れまくっている感じで、とにかく面白い。目をギラギラさせ、たまに笑うと白目と白い歯がくっきりと浮かび上がり、ファンキーになる。
 ウィリー・ウィークスが兄貴のようにずっと横に寄り添い、リズムをキープしている姿が印象的だった。僕はクラプトンよりもこの2人をずっと見ていた。たまにスティービーがクラプトンの影になると、ちょっと邪魔だよ、なんて思ったりして・・・。

 クラプトンは、相変わらず元気だ。あごのラインがだいぶ無くなり、おじいさんの顔に近づいたが、声はまだまだ十分出るし、ステージに取り組む姿勢もとっても真面目。ギターも相変わらずの上手さ。特に今回は若手ギタリストの登用で刺激になったのではないか。
エリック、デレク、ドイルが「マザーレス・チルドレン」のスライドを同時にプレイしたときは腰が抜けそうになった。そこまでやるか、と。

 但し、残念だったことは、アリーナのノリがいまいちだったこと。特に僕のブロックは最初から最後まで総立ちだったのに対し、隣のブロックは外人さんが立っているだけでほとんどの人が座っていた。きっとスポンサーが用意した席だったのだろうが、非常に見ていて白けた。これだから大人の事情の席は見ていてつらい。
そういえば、そこのブロックの立っていた外人さん・・・。
遅れてきた長身の美女(こちらも外人さん)に熱いキスでお出迎え。ほんの5m先の舞台上ではクラプトンが哀しいブルーズを歌っているのに、外人さんかまわずスタンディングで長いキス。目立ちました。でも、良い風景になっていたなぁ。日本人じゃ絵にならないかも。

とにかく満足できたクラプトンナイトでありました。

2006年11月30日
花形

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?