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川辺と屋上とお笑いと

人生で2度、消えてしまおうと考えたことがある。

1度目は、小学3年生だった頃。
幼い頃から夫婦喧嘩が絶えない家庭で育ったせいか、自己肯定感がじわじわと捻じ曲げられていた時期だ。

「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」なんて言葉を知る由もなく、「私がこの世に生まれたから家族は不幸なのだ」と思い込んで大きくなった。「子どもさえいなかったらとっくに離婚していた」と言われて育っているだもの、そりゃそうなりますわな。

自宅の裏側には小さな川が流れていて、その川沿を10分ほど歩くと祖母の家があった。小さい頃から夫婦喧嘩に巻き込まれる孫を不憫に思うのか、「いつでも逃げておいでよ」といつもこっそりと耳打ちされていた。

あの日。
夕方からまたいつものように夫婦喧嘩がはじまり、そっと家を抜け出した。夜になれば、また母の愚痴を聞かなくてはいけない。いつ始まるかわからない怒鳴り合いに怯えながらまた今日も眠るのか。幼心に、もう限界だと思った。私が全部終わらせよう。私さえいなければいい。もうあの家には帰りたくない。

誰に訴えいいのかわからない感情を抱えて、夕陽に照らされた川面を橋の上から身を乗り出して眺めた。

2度目は、大学4年生の頃。
いつもより早く帰宅した日の夕方。当時住んでいたマンションの屋上に、ふと登ってみたくなった。

車が行き来する環状8号線を見下ろしていたら、急にこれからの人生が怖くなってしまった。決定的なトリガーがあったわけでもなく、ただ何となくだ。いまここから飛び降りたとしても、この下を通り過ぎる人たちの人生には、1ミリの影響もない。だとしたら、生きても生きなくても同じなのではないか。もういい。これまでよくがんばった。

絶望感で胸が張り裂けたあの日。
テレビをつけると、お笑い番組が映っていた。

だから、今日も生きている。



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