閼伽2

閼伽水は「あか」


 「あか」と言えば、木造船の船底や船の側面の舷板から少しずつ漏れ出した水のことを漁師は「アカ」と呼ぶ。舟底や両舷のクラックからチョロチョロと漏れ出した水を「アカ」と呼ぶが、いわゆる「水垢」とは別物。漁師は「アカ取り」という道具を持って「漏れ出たアカ」をすくい取ってかき出す。

 【 舟のあかをすくい取って舟外にかき出す2種のあか取り=千葉県君津市漁業資料館展示品 】
少しずつ漏れ出した「アカ」でも、そのままにして放っておけば水がたまって、船が不用意に傾いたり、船足が遅くなって、風が強い時や波が高い時など天候が悪化した時は水没して命取りになる心配もある。
 なぜ、閼伽から小舟と小舟の水漏れ「アカ」を連想したかというと、下鴨神社の御手洗(みたらし)の手水場が舟形の磐座(いわくら)石であること、この磐座石をすっぽり小舟に入れてあり、小舟の中に磐座石がすっぽり収まっていることから、舟と関係があるかもしれないと思った。小舟のクラックからチョロチョロと水が漏れる「アカ」を閼伽水と思ったのは、閼伽水が掘った井戸からチョロチョロと湧き出している状況と似通っているからだ。

下賀茂神社の舟の磐座・手水場



【 磐座石の御手洗の手水場。石の下に小舟がある 】

   【 小舟の上に乗る磐座石の手水場 】
 

あか」を恐れ、穴守稲荷を信仰


東京湾の漁師、特に近くの品川、大森、羽田の漁師たちは東京・羽田にある「穴守稲荷」を信仰してきた。水漏れの穴を守るという信仰だ。小舟を修繕する際、舟揚げ場に引き揚げて底を上にして修理する。少し大きな船は人が腹ばいになって底に潜れるくらいの隙間を空け、水漏れする小さなクラック箇所にヒノキの皮で作ったマキハダを木製のノミで打ち込み、アカ漏れの箇所を埋める修理をした。小型舟のほとんどがグラスファイバー製となり、木造船はほとんど姿を消した。あか漏れもマキハダも漁師の世界では死語になってしまった。マキハダは酒・醤油造りのタルの補修にも使われる水漏れ防止用材で、木造船が多かったころは舟のひび割れ修繕の必需品だった。

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