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1999年から2003年までの阪神タイガース その㉘

灼熱の太陽が今日も野球場を照らす。
2000年の夏休み。

暑くて暑くて、とろけそうな夏の日。

少年はJRから阪神電車に飛び乗り甲子園へ。
直通特急に乗って25分、色んな事を考える。
停車駅から法被を着たファンが駆け込む。

今日タイガースが勝てば二次会でこれを叫ぼう。
このスリーコールはいいな。
デーゲームだから長時間二次会が出来る。
あの人は今日、来てるだろうか。

いつかサテンのロングハッピを作るなら、
バックプリントは誰にしよう。

駅を降りる。
小腹が空いた。
駅構内にある駅そばへ駆け込む。

おばちゃん、ざるそば!
ここのざるそばは280円と破格だ。
水はセルフ。
出汁はキンキンに冷えている。
急いで喉へ掻き入れる。

立ち食いそばは繁盛だ。
次から次へと人が流れ込む。

真夏なのに長袖を身に纏い、
ポケットラジオを持ったおじさんが話しかけてくる。よく見ると指の数が足りない。

なあ、今日の先発は、誰かなあ。

ざるそばに鮭のおにぎり。
美味しそうに頬張る額には確かに労働者の汗があった。

横断歩道を渡りアンスリー前へ。
電車が停車する度、人が降りてくる。

いつもいるダフ屋のおばちゃんと話す。
余ってたら買うよ。ライトあるよ。
お兄ちゃん、よく見る子だね。余ってない?

タイガースが強くないと商売があがったりだ。
そりゃそうだよね。

待ち合わせをしていた軍団と合流。
チケットを割り振る。
今日はデーゲーム。
チケットはライト外野指定席だ。

高架下を抜け
三塁側から21号門前へ向かう。

公衆トイレが左手にある。
壁に向かって用を足すあの便所。
小便している姿が丸出しの便所。

ラジオを大音量で流した予想屋が
大きな旗を立てた自転車を停め、
アイスを食べている。
まるで紙芝居でも始まるかのように。
やんやん、一本いるか?
クーラーボックスからアイスを出す。
麦わら帽子の似合う、色黒のおじさんだ。

少し歩く。自由席売場には多少の行列があった。
ダンボールを敷き、炎天下の中眠る。
メガホンにシールを貼る。
ビジターのファンの姿もあった。

この時代は巨人戦を除きライトには当日券で座れる時代。
好んでレフト自由席を選ぶファンは「通」であり、より熱い。

レフトの入口にはビジターの「プロ」が集団でいた。
互いのファンが牽制するように目を合わせずに行き交う。

バックスクリーン裏を横切り、
21号門前へ。

まだ開門までは時間がある。

カタギとは思えない人間がダンボールを敷き
タバコを吹かしながら茶碗にサイコロを二つ振る。
千円札が行き交う。

炎天下の中、プロが開門を待つ。
ペットにポール、そして大きな旗。
物凄い用具の数だ。

その場の緊張感が増す。
汗が吹き出る。
喉の渇きが早くなる。麦茶を飲んだ。

おいアイパー。
久し振りやんけ。
ガラの悪い素人が話しかけてくる。

開門だ。
さぁ、ダッシュ。

通路を抜け左手へ。
階段を登ると、グラウンドが見える。

今日の指定席は38段あたり。

プロが持ち場へ駆け込む。
ライトの中段に横断幕が張られ、
ポールに旗を通す。
ペットの鳴り声かチラホラと聞こえ出す。

通路では炭火の焼き鳥が焼かれ、
次第に通路は煙と香ばしい香りで充満する。

カレー売場には行列が出来た。
ご飯が炊かれる。
湯せんしてあるカレーの封を開け、かける。
俊敏だ。
いつもいるおばちゃんは大ベテランだ。

皆早口でカレーをかけ込む。
額から汗が流れ落ちる。

ビールいかがっすか。
売り子が威勢のいい声が球場に響き渡る。

クーラーボックスを持ち込んだ素人がビールを取り出し、通路で宴会が始まる。
人が増える。ピリピリとした雰囲気だ。
乾杯というより、献杯に近いかもしれない。

サテン生地の素人。
猛者の周りには、
いつも人がいた。
二次会にいつもいる常連だ。

通路で人だかりが出来ていた。
乱闘騒ぎだ。
罵声が飛び交う。
警備員と警察官が羽交い締めにする。
こういった光景は
野球場では日常だ。

アイパーが言った。
「やっぱり野球場ってええよな。
 こういうの、いつまでも続けばええな」

プレイボールが近付く。
「レッツゴートラッキー」
「野球場へ行こう」
スタメンが発表され、1-9のヒッティングマーチが流れる。

試合が始まる。
さぁ、みんな。
何もかも忘れろ。
全力で声を出せ!
腹の底から!
リミッターを振り切ってもいい。

勝った?
負けた?

そうか、勝ったか。
この時代は貴重な勝利だ。

場外へ行きな!

二次会が始まる。

プロ野球場外二次会。
この時間は生きる上で唯一、
ほんの少し羽目を外せる「許された時間」だ。


続く

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