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1999年から2003年までの阪神タイガース その㉔

2001年。とある試合。
ルーキーの赤星が試合を決めた。

「走れ!走れ!赤星!!」

人でごった返す外野席から21号門前までの通路でヒッティングマーチの大合唱。

野村克也がプロ入りさせた赤星。
あの盗塁の姿は今でもファンの脳裏に焼き付いているだろう。

赤星は一年目から活躍。
この頃からホームの二次会では「盗塁ごっこ」が流行したんだ。

僕は俊足の選手が好きだ。
「亀山ごっこ」が好きだった。
何十人もの二次会参加者が阪神甲子園駅の改札をヘッドスライディングで潜り抜ける。
初めて見た時は腹筋が崩壊する位笑った。
この光景は水道橋でも定期的に行われていた。

阪神電車の駅員も
「ああ、またか」
「勝ったね。良かったね」

後から静かに切符を改札に通す阪神ファンはいい子だった。

話を戻そう。
「盗塁ごっこ」
阪神甲子園球場駅前猛虎像前。

300人以上のタイガースファンが円陣を作り囲む。
円陣の中にはベース代わりのダンボールが四枚。
これは当日券売場に列ぶ際使用した汚いダンボールだ。
そして、内野手とランナー、バッターを含め8人。

ランナーはやんやん。
バッターは外村。
ピッチャーはアイパー。
キャッチャーはこだま。

やんやん以外は住所不定無職の様な顔つきをしている。特にアイパーが酷い。

さあ!盗塁ごっこスタートだ。
やんやんはファーストからスタート。
リードを取る。
盗塁を阻止する為にアイパーがしばしば牽制球を投げる。

300人以上のタイガースファンは真剣な眼差しだ。
「アイパー!!ビビんなよ!!」
「牽制ばっか投げてんじゃねえ!!」

そして地響きが起こるぐらいの大歓声だ。
「走れ!走れ!赤星!!!」

アイパーが速球を投げる。
外村のバットは風を切る。
ランナーが走った!!!
こだまが慌ててセカンドへ送球だ!!
滑り込むやんやん!!!
セカンドがタッチ!!
さぁ、判定はどうか!??

「セーーーーーーフ!!!!!」

300人以上のタイガースファンがメガホンを使い叫ぶ。
全員大爆笑。
既に周りは人だかり。
試合を観てない通行人や野次馬まで笑っている。

繰り返し。
ランナーは遂に三塁を盗んだ。
まさかのホームスチールか!?

アイパーはこの回、
絶対にホームスチールだけは阻止したい。
そんな事を許すと二次会の対応の顔に泥を塗られる事になる。
牽制球を三回繰り返した。

「セーーーーーーフ!!!!!」

牽制球でもこの盛り上がりだ。
飛び交うヤジ。アイパーはそのヤジに動揺する事なく真剣だ。

「走れ!走れ!赤星!!!」

アイパーが大きく振りかぶった瞬間に
やんやんがホームへ突っ走る。
ヘッドスライディング、砂埃が起こる中こだまがタッチ!!

判定はどうか!?

視界がスローモーションになる。
鼓動が早くなり、遂に時空列が止まる。
走馬灯のように過去の出来事がフラッシュバックし、白鶴のジャイ子の醜い笑顔が空に消える。

「セーーーーーーフ!!!!!!!!!!!」

大歓声が沸き起こる。
抱き合う阪神ファン。
紙吹雪が飛び交う。
野次馬のババアが泣いている。

頭からビールをかけられる。
知らないおっさんに抱き抱えられ頭を撫でられた。
「ようやった!!やんやん!!」

みんなでやんやんの胴上げだ。
バンザーイ!!バンザーイ!!

その後、ヒーローインタビューが執り行われ甲子園駅を一周する事となった。

「走れ!走れ!赤星!!!」
そして赤星のヒッティングマーチ。

二次会参加者が帰路に着くまで
いつまでもいつまでもヒッティングマーチが鳴り響いた。

人生で胴上げされたのは甲子園が初めて。
これ以降、胴上げされる事は無かったかもしれない。

毎試合のように行われた赤星の盗塁ごっこ。
ホーム二次会の風物詩。
参加出来た事を誇りに思う。

この年の盗塁王は赤星。
そして、球場外での盗塁王はやんやん。
最も盗塁を許したピッチャーはアイパーだ。

あの時、あの瞬間。あの二次会。
僕が赤星になれた事は紛れもない事実だ。

ゴーゴーレッツゴー赤星
バックスクリーンめざして 
火を噴く一撃 俺達のヒーロー

かっとばせ!赤星!


続く

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