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花粉と歴史ロマン その10 柿との出会い

柿の花粉

柿(Diospyros Kaki Thunb.)の花粉です。初めて標本を作成した時、柿の果実を見たようでした。

 柿の花粉(現生種):溝は太く、長く極域に達している。孔は赤道軸にそって長い楕円形。3溝孔型(左:極面観 右:赤道観)

 房総半島南部、内陸地域は複雑な地形環境の中で、県内でも平均気温の最も低い地点があるなど、南部でありながら温暖な植物世界だけではない植物相があります。君津市久留里町で、花粉分析を実施しました。その際に出会ったのがこのカキ属の花粉でした。花粉でありながら、果実を思わせる形状には、驚きました。
また、自宅の柿には雄花がついていないことなど、調べました。

・柿の名称について 

 この発見を通して、日本やこの地域の柿栽培の歴史、柿の花について調べました。まずは、学名から、属名 ( Diospyros )は、ギリシア語起源の女性名詞です。
Dios(神、Jupiter )+pyros(穀物)。“神のたべもの”の意で美味な果実をたたえたもの、カキ科とありました。種小名 Kakiはもちろん日本名です。

日本名は「和名類聚集」を原典とするものであり、2種類の「賀岐」および「夜末加岐」が記されています。

和名類聚抄 第17、承平年間(931年―938年)国立国会図書館ウェブサイトから転載

 以下、久留里城趾資料館の布施さんに解読していただきました。
 柿(柹)は、音が「市(シ)」、和名は「賀岐(かき)」である。後漢の漢字字典『説文解字』※1には、「赤實菓也」(赤い果物の意)と説明されている。 鹿心柿は、和名「夜末加岐(やまがき)」である。『兼名苑注』※2には「柿之小而長也」(柿の小さく長いものの意)と説明されている。 ※1 許慎(キョシン)撰になる字書30巻で100年ごろ成立。 ※2 唐代の語彙集『兼名苑』の注文。

久留里城址資料館:布施恵子氏より

・カキとヤマガキの2種類について

 柿(Diospyros kaki Thunb.)は、リュウキュウマメガキ(D.japonica Siebold et Zucc.)やヤマガキ(D.kaki var. sylvestris)など数種が日本に分布するが、
果樹としての起源は、『中国原産の温帯性落葉果樹とされ、中国、朝鮮半島、日本など東アジアで古くから栽培され、品種も多様化したため柿の成立過程には不明な点が多い』:神崎真哉(2016):柿の起源と品種分化.(http://www.jsfst.or.jp)より

中国原産の老爺がき(ツクバネガキ)Diospyros rhombifolia昨年、盆栽を購入しました。種小名は「菱形の」と「二葉の」を意味します。

・有史以前の存在について

 有史以前における西日本各地のカキ属花粉の検出例は、照葉樹林域の自生種としての存在を示すものであり、照葉樹林の東端に位置する君津地域においても同様に存在していた可能性があります。

両性花であっても自家受粉を避ける仕組みとして、雄性先熟が認められます。枝先の大きな花(雌花)はまだ開花していません。

 西日本各地の5箇所の遺跡からは、縄文後期(約4,000年前)から古墳時代(1,500年前頃)にかけて、カキ属の花粉は産出しています。ただし、その出現率は一様に低いのですが、複数地点からの産出は、少なくとも縄文後期の段階で小規模ながら、広範囲に植栽されていた可能性を示しています(千葉経済論叢 第65号参照)。
 植物遺体に関しては、『古代人の生活と環境』(直良信夫(1974):「古代人の生活と環境」校倉書房、270p)によれば、縄文期の植物リストにカキノキが含まれており、静岡県小笠郡菊川町白岩泥炭遺跡(初期弥生文化期)からの出土も含めて、花粉だけでなく種子の産出からも、その起源は有史以前に遡ることは確実だと思います。

・柿栽培の主要な産地

 花粉分析を実施した君津市の(坂畑)は甲府市(勝沼)や美濃加茂市同様、最寒月の平均気温は5℃以下になるが、WI(暖かさの指数)は、108.5〜119.4℃・月、CI(寒さの指数)が、−2.6〜−3.6℃・月の範囲にあり、常緑広葉樹林が成立するが、冷温帯域に移行する中間温帯域にあり、落葉広葉樹や温帯性針葉樹も分布する。また、いわゆる雑木林(コナラ林、シイ・カシ萌芽林)やスギ・ヒノキ・サワラの植林が広く分布しているが、君津地域は自然度の高い森林も多く分布しています。その中で、暖温帯上部に分布域を持つクロモジが楊枝の材料になったことは、地場産業の典型と言えるでしょう。
 

・主要な産地の植生と柿の生態

 主要な産地は、常緑広葉樹林が成立する太平洋側の温暖地にありながら、干し柿生産には内陸地の寒冷・乾燥気候が必要であり、君津地域においては、複雑な谷地形を背景とする比較的冷涼な気温環境や、河岸段丘の平坦地など地理的条件が産業化の背景にあった。さらに、自然度の高い森林資源は、開発されにくい複雑な地形によって維持されてきたものと考えられました。
 柿の葉は、常緑樹のように厚みと艶があり、温暖な気候に適応した形質をもつ一方、落葉性は冬の寒さにも適応した形質を併せ持ちます。おそらく、こうした柿の特性が、各地の気候環境の影響を受けつつ、脱渋性を獲得したものと思われます。

・柿栽培の主要な産地

 花粉分析を実施した君津市の(坂畑)は甲府市(勝沼)や美濃加茂市同様、最寒月の平均気温は5℃以下になるが、WI(暖かさの指数)は、108.5〜119.4℃・月、CI(寒さの指数)が、−2.6〜−3.6℃・月の範囲にあり、常緑広葉樹林が成立するが、冷温帯域に移行する中間温帯域にあり、落葉広葉樹や温帯性針葉樹も分布する。また、いわゆる雑木林(コナラ林、シイ・カシ萌芽林)やスギ・ヒノキ・サワラの植林が広く分布しているが、君津地域は自然度の高い森林も多く分布しています。その中で、暖温帯上部に分布域を持つクロモジが楊枝の材料になったことは、地場産業の典型と言えるでしょう。

久留里伝統 黒文字楊枝

柿の主要な分布域と産地

 主要な産地は、常緑広葉樹林が成立する太平洋側の温暖地にありながら、干し柿生産には内陸地の寒冷・乾燥気候が必要であり、君津地域においては、複雑な谷地形を背景とする比較的冷涼な気温環境や、河岸段丘の平坦地など地理的条件が産業化の背景にあった。さらに、自然度の高い森林資源は、開発されにくい複雑な地形によって維持されてきたものと考えられました。
 柿の葉は、常緑樹のように厚みと艶があり、温暖な気候に適応した形質をもつ一方、落葉性は冬の寒さにも適応した形質を併せ持ちます。おそらく、こうした柿の特性が、各地の気候環境の影響を受けつつ、脱渋性を獲得したものと思われます。

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