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私のお気に入り4 済州島その3 榧の森

 済州島3泊4日の旅を振り返りながら、気ままに思いついたこと記します。 
民俗自然史博物館(Natural Heritage and Folklore of Jeju Island、「榧の森」、海女博物館、城邑民俗村、サンヒョンウォン樹木園、溶岩海水産業化支援センター、済州大学農経研究所、市内デパートを見てきました。

 博物館の運営は、日本でも集客能力など多くの課題を抱えているようですが、設立者の理念が大切であろうと考えました。空港から程近い場所に、民俗自然史博物館があります。民俗と自然史(遺産)を複合させた博物館の名称、素晴らしい!自然史と共に私たちの生活の基盤である民俗を複合させ、博物館の名称にしたことに国民主体の姿勢を感じました。民俗とか自然史から学を除いた響き、私のお気に入りです。

 さて今回は、済州島の榧子林(ビジャリム)について、高先生とお会いした際のメモから、考えたこと記します。

1 榧子林(ピジャリム):「千年の森」

 森の変遷や歴史を、学んできた身にとって、「千年の森」は何としても出かけたい場所でした。済州島の東部、旧左邑にある榧(かや・ピ)の(ジャ)林(はやし・リム)は、二つの寄生火山(標高260mのトドルムと標高340mのタランシオルム)に間に挟まれた標高160mの平地にあり、その神秘的な名前の森が、観光地の一つになっています。レンガを砕いたような赤い小石の遊歩道が林の中に敷かれていました。

カヤの森
ピジャリム(榧子林)入り口 カヤの実がデザインされています。

 日本のような人手が入りにくい深山の自然ではなく、人里に近い場所の自然として古くから保護されてきたのではないか?と思いました。伊勢神宮の森は、ヒノキの供給を目的とした伐採を含む保護が1000年以上も続いてきましたが、ここはどのように保全されてきたのでしょうか。それにしても、韓国の山はマツやコナラばかりの二次林という先入観は間違っていたようです。

案内板(日本語表記)。一千年のカヤの樹齢は813年と読めます。
カヤの樹高は7mから15m、胸高直径は50cmから140cmまで、2,878本の中には大径木を支える後継樹も豊富にありそうです。全体の樹木数は120種、草本類140余種など豊な森林の様相が
示されています。

 榧(カヤ)の学名: Torreya nucifera (属名はアメリカの植物学者、種小名堅果の意)の種小名には堅果の意味(ナッツ)が含まれていますね、種子の周りの果肉から油脂が取れ、食用や薬用にもなるカヤの実、昔から有用樹木として意識されていたようです。
それにしても、案内板に「500年〜800年生の榧の木が2,780本あまりが密集して自生している」とのこと、更新する潜在力もありそうです。平地にこのような立派な自然林?があったことが驚きでした。

カヤの針葉の中に堅果が実っています。nuciナッツなんだ!隣の広葉樹は?
自然林の様子、針葉樹林内にはこもれびが多いのかな。後継樹もありそうです。

この古い森について、高先生から、
『「千年の森」という記載は1700年代の文献には無いこと、「森」は岩が多い場所、石が多い場所を意味する。シャーマンの先祖の像?はカヤの材で作られる。』との聞き取りのメモがありました。
 おそらく、カヤは岩だらけの浅い土壌にも耐性があり、他の樹木や人が侵入しにくい、非日常的な神聖な場所に自生する樹木だったかもしれません。ただし、榧の実は食用であっても、ドングリを多量に生産するナラやカシに比べて、食料としての魅力は低かったのではないかとも思えます。しかし、岩だらけの土地とは?

 この地のカヤの木の由来については不明ですが、半島内の全羅北道の内蔵山(763m)の白羊寺を北限として分布しているそうです。分布域からすると温帯性のモミやツガなどの中間温帯性の針葉樹ですね。(全羅北道の内蔵山:https://www.trippose.com/tour/naejangsan-national-park)

 岩だらけの場所の由来です。済州島の溶岩流の分布図(自然史民俗博物館 ガイドブックp.51 )には、この森が分布する東部の旧左邑と城山邑(Gujwa and seongsan )以外にもGotjawalがあります。

2 곶자왈:コジャッワル(Gotjawal)とは?

 韓国語を知らない私にとって、この言葉は「榧の森」を理解するキーワードに思えました。何とか解読したい!高先生の手書きのメモは、筆記されたため、正確な部首の形状が掴めません!どうしようか?(コマッタ)
 う〜ん、Google翻訳に頼ろう!しかし、表音文字(ハングルや英語)の日本語への翻訳は、カタカナになっただけです。ならば、ハングルを音節に分解してみてはどうか?(困難は分割せよ!)。二分割されたのが자왈(Goj-jawal)です。
まず、곶の英訳から幸いにも→headlandという意訳が出てきました。
すると→岬角(中)→岬(日)となり、「곶は岬」を意味することに落ち着きました。곶の中国語への変換も意訳になっていました。
一方、자왈(jawalジャワル)は→贾瓦尔?(中)→ジャワル(日)、jawar(英)音だけの表記の連続、うーん詰まった!(困った)
ならば、ならば、자왈(jawal)を→にさらに分割してみよう!
자→ruler(英)→統治者(中?)、자→今(日?)こりゃダメだ!
왈→ワル→沃尔(中)→wall→壁(日)、これなら、いいかなと思いきや、表音のワルがwallになっただけで、「壁」ではありません!
こじつければ、「岬の岸壁の岩の多い場所」と調和しますが、ダメだこりゃ。
 何と、以下のブログには、済州島の方言に及ぶ意味が解説されていました。(コマスミダ!ありがとう!)

コッチャワルとは、【森】を意味する【곶 :コッ】と
【木や蔓(つる)や岩などが雑然と絡み合う原生林のような場所】を
意味する【자왈 (チャワル)】を合成した、済州方言。

http://kagami0927.blog14.fc2.com/blog-entry-2343.html

 溶岩流の形跡が残る場所、そこに成立した森林地域を示す言葉が、コジャッワル(Gotjawal)に定着したのだと、考えました。蔓が絡み合うのは、林縁が多い溶岩流の流路跡が背景ではないか!な?

3 照葉樹林要素だけではない

 済州島は温暖な照葉樹林域にあります。暖かさの指数(2011年発行の資料*をもとにした場合)は、済州島の南半分の西帰浦市で130°c・月となり、長崎県壱岐市南部と同じです。そこで現地で撮影したいくつかの植物について記します。

ホルトノキ(Elaeocarpus  sylvestris var.ellipticus)
の実生でしょうか?日韓海峡域の植物としては南方要素です。
日本では千葉県以西太平洋側に分布します。
ハマボウ・ナタオレノキも南方要素です。(サンヒョンウォン樹木園)
これはハマゴウ(Vitex rotundifolia シソ科ハマゴウ属)、北海道を除く
本州・四国・九州・琉球に広く分布する。海岸地で撮影しました。
『属名は「結ぶ」に由来する。この属の植物の茎でカゴを編んだため、』
(牧野植物図鑑:学名の意味)。
ハマビシ(Tribulus terrestris L.)『属名は棘の多い果実の形』に由来する』。
(牧野植物図鑑:学名の意味)
温帯地域から熱帯地域に広く分布する。
林内にムサシアブミArisaema ringens(サトイモ科)?関東以西、四国・九州・沖縄に分布する。
「長崎県では.低地の照葉樹林の林床に普通」、「対馬ではタブノキームサシアブミ群集が見られない」(長崎県植物誌)ことから、ハマオモト線に限定された分布を示すと考えられます。

4 まさかのハルニレ?冷温帯性の植物

 済州島のハルラ山(1,950m)は韓国の最高峰でもあり、東西に長い楕円形のほぼ中央に位置する孤立峰で、島のあちこちから望むことができます。低地では亜熱帯性の植物が育ち、標高700m位までが常緑広葉樹林域です(済州大学の構内はシラカシやスダジイが植栽されていました)。さらに上部には常緑の針葉樹を含む落葉広葉樹林域になりますが、下部がコナラ林にシデ類を含み、上部にモンゴリナラ(ミズナラ)が、さらに、頂上付近にはサイシュウシラベ(Abies koreana)などの寒帯林が分布するそうです。
 気候が寒冷化した時代には、冷温帯性樹木の分布域が低地にまで下がり、その後の温暖化の中でもコジャッワルのような場に残存できたのではないかな?樹木園の写真は、植栽されたものですが、現在の気候条件でも球果をつけています。

サイシュウシラベ(サンヒョンウォン樹木園) 

 サンヒョンウォン樹木園は、自然林ではなくて観光地化された公園で、多様な植物が植栽された施設でした。杉の林縁には、シダ植物のウラジロが旺盛な生育を示していました。植物の知識が曖昧だと、混乱してしまいます。

ウラジロ(お正月にお馴染みの)

 温暖な植物と混在するような樹木園の中で、ハルニレの表記がありました。日本のハルニレは、北海道・本州・四国・九州、アキニレは本州(中部以西)・四国・九州・琉球とあって、このプレートを見たときは、うーん、ほんとかな?

Ulmus davidiana var. japonicaとは?ハルニレ?葉の形状は次の写真
(サンヒョンウォン樹木園他)
上のプレートの樹木の葉はアキニレ(Ulmus parvifolia )のようでした。
種小名は「小型の葉の」です(牧野植物図鑑:学名の意味)。

 葉の形状からは、アキニレと判断しました。ハルニレは、北海道や東北の樹木と思い込んでいましたので、アキニレだろうと思ったのです(多分OK)。
 ところが、『関東では神社に巨樹が見られることがある。』『千葉県内では、千葉市、茂原市、袖ケ浦市などで記録されている』(千葉県植物誌 別編4)とあり、樹木園内には、ハルニレも植栽されていたかもしれませんし、済州島の標高の高い場所ならば分布しているかもしれません。いずれにしても、不正確な知識は、知識ではないこと!先入観を正すきっかけになりました。

付け足しとして、城邑民俗村では丁寧な説明を受けた後で、チョウセンゴミシ(マツブサ科:冷温帯落葉樹の林縁に自生する)の果実を加工した五味子茶の購入が強く勧められ、、、購入しました。

今回はここまで、
文中の*は2011年発行の資料Climatological normal of Korea, Korea Meteological Administration 678をもとに計算しました。


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