散ってるなあ

桜の花びらの手触りはいつも心地よい。
京大の本部キャンパスには桜が植わっている道があり、両側にベンチが並んでいる。お昼休みや昼下がりにはご飯を食べたり眠ったりする人をみかける。
今日は晴れていた。陽光で膝が暖かい。
本を読んでいるとページの上にひとひら舞い降りてきた。目を瞑って指先で撫でると優しい気持ちになれる。起き上がった産毛をゆっくりと宥めるようで、新しい年度にまだ馴染めず凝り固まった神経が解きほぐされる感覚に安堵する。ここ最近では最も美しいものの一つだ。
このまま栞にしても良いし、なんなら挟んだまま返却してしまってもよい。次に借りた誰かが見つけて面白がってくれたらよい。

春を渡るというのは命懸けなのだから。気を付けていないと追いつけなかった心が乗り遅れてしまう。
あるいは春を迎えるというのは命懸けなのだから。強くあろうとしなければ心はすぐに閉じてしまう。
冬を乗り越えるのがつらいのではなく、雪の下から這い出して春を生き延びるのが苦しいのだ。本当は僕はもう早々に疲れてしまって桜に身体を預けて眠ってしまいたい。でもあっという間に散ってしまうから、許された休息はほんの一時で、それでも代えがたい優しさだ。桜は美しい。

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