2024年、人々が結婚しなくなった理由を記録しておく

記録しておきたいこと

第二次世界大戦の研究が2024年現在も存在する。これらの研究では当時の人々が「どのように世界を捉えていたのか」、「どう感じていたのか」、というものはおおよそ予想できても、肌感や雰囲気というものは当時の人にしかわからない。また正式な学術論文や統計データにはそうした人々の感情は含まれないため、日々失われていく。

遠い将来、たとえば2104年にも「日本人はかつて1億3千万人もいたのに、何故ここまで人口が減るに至ったのか」を調査する日本人がおそらくいよう。もしその時も日本にインターネットがあれば、もしかしたらどこかにこの文章がアーカイブされていて、その者たちに役立つかもしれない。

当時、人々は減少の一途を辿る人口をどう捉えていたのか?何故このような結果を招いたのか?統計データにはそうした感情は含まれない。後の世において、「ここまで人口が減るまで、当時の人は何を考えていたのか」、それを知ることができる文書となることを祈って、ここに書き記しておく。

したがって以下の文章は、基本的に2024年を生きる私が感じることであって、具体的な根拠や科学的な解析はないこと、また個人的な経験や自分の主観が含まれていることをご了承頂きたい。

何故、日本人は結婚しなくなったのか?

先に結論を述べると以下の理由がある。

  • 親として求められるレベルが非常に高くなった

  • 中間層が子育てを躊躇するようになった

  • 普通の基準が暴騰し、その格差が可視化された

親に求められることが急激に増加した

経済的負担の増加 
2023年の大学進学率は57.7%であるという。つまり半数を超える高校生が大学進学を選ぶ時代になった。本人と親が、より高い学歴を求めるようになったと言える。

大学進学が当たり前の時代になった現代においては、逆に大学に進学しないことがリスクになりつつある。親の立場からすると、自分の子供の大学進学を前提にして、年少期から貯蓄をする必要があるということでもある。難関大学受験の場合、予備校への入学が必須となるし、私立大学や遠方の大学への進学を希望した場合、さらなる経済的負担となるだろう。

平成25年の保健の教科書には、子ども一人を育て上げるのに3000〜5000万円が必要だと記載がある(私立大学に通わせた場合と注記がある)が、物価や学費が上昇した今では、学費が安い国公立でこの水準に達している。

中間層が子育てを躊躇するようになった

子供の学費の問題だけならば、過去の日本でも同様であった。特に戦前の大学進学率は低く、経済的な問題で優秀な生徒が大学進学できないことは多々あった。

しかし大学進学費用は戦後増加の一途を辿った。要するに「経済的な理由から、自分は大卒であっても、自分が子供を大卒にできないかもしれない」と考える親が増えた。簡潔に言えば、世代間で豊かさを継承する難易度が上がった。これが少子高齢化の一因といえる。

この影響を受けないのは、もともと高所得でその心配がないか、そもそも大学進学を重要視していない家庭である。いずれもその数が少ないが、それらの家庭では生まれる子供の数は減っていないはずである。

誤解を恐れずに言えば、学歴や文化資本の重要性を十分認識し、子供にかかる費用と収入を十分考慮して、将来を予測した一般的な家庭は、子供を持つことを悲観的に考えるようになった。

普通の基準が暴騰し、その格差が可視化された

先に前提を述べるが、幸せとは相対的なものである。「絶対的に幸せを感じる」、「私は家族と居られれば幸せなのだ」という種類の幸せもあるかと思うが、その場合も、必ず過去の自分や、そうでない選択をした場合の自分と比較している。

相対的なものには必ず基準が存在する。その基準が戦後の日本では上昇し続けた。例えば高卒より大卒、大卒より大学院卒、というようにより社会的に優れた方向に基準が上昇し続けた。そのためそれらの基準の価値を重んじなかったり、追従する能力がない人々は、この上昇傾向に乗ることができなかった。つまり競争に敗北した。

一般的に今の世代は戦後3世代目か4世代目になる。戦後の混沌の中、富を発展させ子供に十分な資産を継承することができた家庭と、親が自分の生活で精一杯の貧しい家庭があった家庭があったろうと思うが、その差が3世代も続けばその差は簡単には埋まらないものになる。社会の発展と共に、貧富が完全に固定化された。

高学歴な親は教育の重要性を認識しているため、自分の子供にも十分な教育環境を準備する。逆もまた然りだが、学歴の高さと収入の高さには一般的に比例関係があり、結果的にその差が埋まりにくい。今の世代において、その「普通」はその所得によって大きく異なる結果になった。

またSNSの登場もこの議題には欠かすことができない。SNSの登場は述べたような所得や環境の格差を明らかに可視化した。世の中には、望まない仕事をしながら学費を稼ぐ優秀な学生がいる一方で、恵まれた家庭に生まれたために留年を続ける愚鈍な学生がいるが、このような不条理をSNSが悉く可視化した。見えない方が良かった不条理、出会ってはいけない人達同士をSNSが繋いだ。

一部の若者は、自分と同じ国に住む人間でありながら、生まれた家庭が違うというだけで、自分よりも遥かに恵まれた家庭環境や経済的な支援を受ける人々がいるということに、SNSの発展とともに気付かされた。その考え方は、自分の苦労は不要なものであったという無力感に繋がり、ひいては世の中の不条理・不公平に対する不満になった。

貧富の固定化は文化資本の固定化も招いた。一般的な家庭は春はお花見に、夏は海に、秋は紅葉狩りに、冬はスキーに行くのに対して、貧困家庭は経済的困窮と時間的な余裕のなさから子供と外出する機会がない。結果として成人になったとき、文化水準が全く異なる人間に育つことが多くなった。文化水準が違えば物事の感じ方や価値観も異なるため、当人同士は会話が合わない。日本では経済的に困窮する家庭のほうが少数派であるため、困窮する家庭で生育した人間は孤立する結果を招いた。

競争を諦める人々が増えた

今後埋まらないであろう格差、生まれ持った文化資本の差に絶望する人々が増えた。要するに「この競争社会で生きていく力を子供に与えられない」と判断する人々が増えた。そうした夫婦は子供を持たない選択肢を選ぶようになった。

また子供時代には薄々気づいていたが、経済的に非常に困窮していたという事実を大人になってはっきり認識し、「自分が経験したあのような辛い事を子供に経験させたくない」「私が親になっても、子供に同じ経験をさせるかもしれない」と思う人々が増えた。そうした人々はそもそも結婚しない道を選ぶようになった。

また同性との競争に勝つためにはある程度の自己肯定感や安定感が必要になるが、経済的に困窮する家庭では両親に安定感がなく、経済的な不安は両親
から子供に伝播し、自己肯定感の発育を阻害する。

そうした環境で生育した子供は、社会に出た後も周りの人間とのギャップに戸惑う。その結果、そもそも異性を巡る競争に参加しない、異性に興味が湧かない、人々が増えた。そうした人々も結婚しない道を選ぶようになった。

解決策はない

生き物の老化を止めることが出来ないように、日本という巨大な生き物の老化を解決する方法はないと思われる。言ってしまえば、日本の経済規模に見合わないほど人口が増え過ぎたことがそもそもの原因であり、これから抱えられる程度の人口まで緩やかに減少し続けると思われる。

国が貧しくなる環境下では、数多の悲劇や地獄が展開されることは歴史が証明している。経済が悪化するとき、格差は増大する方向に動く。現に今日本では親の経済力に物を言わせた大学受験が展開され始めている。

これから子供たちが生きる世界は、あまりにも過酷だろうなと思う。

あとがき

グラフで見る未婚率

日本が少子高齢社会と言われるようになって久しい。20年ほど前は少子高齢対策の必要性がメディアや書籍で盛んに叫ばれ、有識者らが警鐘を鳴らし、議論が重ねられたらしいが、それらも虚しく、遂に日本は少子高齢社会と呼ばれるに至った。

少子高齢化社会に至るプロセスは複雑であり一因に限ることはできないが、結局原因としては、前の世代よりも今の世代の方が誕生する子供が少ないために発生する。

厚生労働省が発表する「令和5年(2023)の人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると結婚(婚姻)の数について

昭和 50 年代以降は 増加と減少を繰り返しながら推移している。平成 25 年からは、令和元年に7年ぶり、令和4 年に3年ぶりの増加があったが、減少傾向が続いている。

厚生労働省「令和5年(2023)の人口動態統計月報年計(概数)の概況」P.16
 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai23/dl/gaikyouR5.pdf  2024/07/01閲覧

(5)婚姻件数は減少 婚姻件数は 47 万 4717 組で、前年の 50 万 4930 組より 3 万 213 組減少し、婚姻率(人口千 対)は 3.9 で、前年の 4.1 より低下している。 平均初婚年齢は夫 31.1 歳、妻は 29.7 歳で、夫婦ともに前年と同年齢となっている。

厚生労働省「令和5年(2023)の人口動態統計月報年計(概数)の概況」P.2
 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai23/dl/gaikyouR5.pdf  2024/07/01閲覧

要するに「増減を繰り返しつつ、減り続けています。」ということである。
「人口が減っているのだから、婚姻数が減るのは当然なのでは」と思われるのも理解できる。以下の図は年齢ごとの未婚率を表したものだ。数ではなく割合も全年代で未婚率が上昇している。特に25-29歳の赤い折れ線を見ると、2020年は1980年と比較して約2.5倍である。また経済的に安定し始め、マイホームや子供を持つことを考える時期の30-34歳も同比較で4倍以上の値となっている。

このデータから見ても、日本人は結婚しない選択をする人の数が増えたということができよう。それも20-34歳という若者に分類される者たち、特に女性にその傾向が顕著に見られる。

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