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「ちょうどよく作る」適量生産の未来。 ─Chain&co.ワークショップレポート

「ちょうどいい」で果たせる責任

 ものづくりには往々にして、作る責任が伴う。人体に害のない製造プロセスか、世界の誰かが不幸になっていないか、地球に優しい素材かどうか、その責任の種類は多様だ。環境的にも人道的にもヘルシーな制作過程が踏まれているものづくりを、皆が共有できるようになれば、世界はもう少しずついい感じにできる。例えば大量生産や大量消費に頼らない方法を探して、ちょうどいい量を必要な分だけ作る、みたいなこともぼくらが責任を果たすために打てるひとつの手かもしれない。

手と目の届く範囲のものづくりを

 2022年2月18日、19日、25日、26日の4日間、クリエイティブユニットChain&co.によるワークショップ、週末クリエイト 未知の素材で作ってみよう! – だれだって、みんなクリエイターが開催された。アクリルや身近な素材を用いてオリジナルのプロダクトやデザインをポップに発信し続けている彼ら。今回FabCafe Kyotoにて開催されたワークショップには、冒頭に述べた適量生産に関するヒントが散りばめられていた。
 彼らのFabCafe Kyotoでのこれまでの活動やワークショップの内容に触れながら、手の届く範囲で生まれるローカルなものづくりのあり方を見つめてみたい。

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 元々、FabCafe KyotoのユーザーだったChain&co.の二人は、自分たちでレーザーカッターやUVプリンターを使いキーホルダー等のグッズを制作していた。FabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTER POINT」でのジェスモナイトを用いた制作を経て、ワークショップ開催に至った。
 今回ワークショップで「未知の素材」として使用されるジェスモナイトは、有機溶剤フリーで人体にも安心な、樹脂ベースの造形素材のこと。レーザーカットや研磨など幅広い仕上げに対応でき、造形の素材としてはもちろん、様々な素材のつなぎとして使用しても硬度に影響が出にくい性質を持つ。

 当時レジデンスプログラム内で制作した、サウナで用いられる葉っぱ(=ヴィヒタ)をジェスモナイトと樹脂で固めたコースターは、素材の入手元であるヴィヒタJPから発注を受け50個を納品。その後、新宿サウナ館でのポップアップ販売を経て、直近ではBtoB向け大型展示会への委託販売も予定されている。アイデアを発表するにとどまらず販路が確立されているものの、「メーカーには発注を取らず、今は自分たちの手仕事の範囲でできる仕事に挑戦したい」とChain&coの牛島さんは語る。

だれだって、クリエイター。

 今回のワークショップでは、ジェスモナイトの流し込みからレーザーカッターでの刻印までを行う。

 型を選ぶ→ジェスモナイトを流し込む→絵を描く→レーザー加工する→墨付け......の工程を、2歳の女の子からそのおばあさん、ジェスモナイトを用いて制作をしているアーティストの方まで、幅広い層のWS受講者が体験した。会場の気温によって固まるのに時間がかかったり、割れてしまう場面も見られた。自分の力の及ばない力に出来が左右される点も、手仕事の醍醐味であろう。また、ジェスモナイトには有機溶剤が含まれず、人体に触れても害がない。「だれだって、みんなクリエイター」という名前の通り、対象年齢には縛りがなく、誰でも扱える素材で誰でもものづくりの当事者になれるという設計だ。

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 ここまでを通して、彼らの制作にはローカルで誰にでも開かれた空気感を感じた。その背景には、彼らのものづくりを支えているデジタルファブリケーションの性質があるだろう。


プロトタイピングと強度がもたらす適量生産の未来

 今回彼らの使用したレーザーカッターには、試作を重ねながらアイデアを精査できる「スピード感」と、高いクオリティを実現できる「強度」がある。大学等の教育機関にも導入されているように、前者はアイデアを推進するためには欠かせないデジタルファブリケーションのもつ大きな役割の一つである。例えばアクリルキーホルダーの製作ひとつとっても、専門のアクリルカット業者に発注すれば入稿から納品までにはある程度の時間がかかる。一週間後に納品された試作品を見て、修正データを入稿してまた一週間...。製品を作るためには致し方ない工程が、レーザー加工を用いれば一日で検討できる。もちろん速さを選びとる代わりに、専門業者による製品としてのクオリティには追いつかない部分もある。しかし機材の扱い方次第では、販売や日常使用にも耐える強度を造形物に付与することもできる。今回の彼らのワークショップ中にも、レーザーカットのためのガイド(治具)があらかじめ制作されている場面があった。ガイドによって位置合わせの手間やミスのリスクが軽減され、安定したクオリティでバッジに彫刻を施すことができる。

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 1000個単位の受注に応えることは難しくとも、適量生産の仕組みを自分の目に届く範囲で確立することができれば、体制に依存しないものづくりが可能になる。
 また、この適量生産を叶える速度と強度は、今回二人が用いた素材ジェスモナイトにもなぞらえて語ることができる。
 一般的なポリエステル樹脂やウレタン樹脂は、加工が容易で軽く丈夫だが、樹脂に含まれるVOCは大気汚染への影響や、使用者にとっては健康被害が懸念される。ジェスモナイトは、他の樹脂同様の操作性のよさをもちながらVOCが一切含まれていない。そのため、場所や人を問うことなく、思いついたアイデアを必要な分だけ形にできるのだ。もちろん、硬化した後のジェスモナイトは分解されず産業廃棄物としての処理が必要になるため、再利用の方法が模索されている段階である。扱う人、作るものに必要な強度、予算、作りたいものの様々な条件に応じてなるべくクリーンな素材・技術を選択することが、ものづくりを行う人には求められる態度だろう。

 流通のための販路を確立することだけがあらゆるクリエイティブの到達点ではないが、自分の生み出すものが広く他者の手に渡る体験は捨て難く、その心の明滅は時に創造性を打ち震えさせてくれる制作の友となる。メーカーや専門の業者に依頼する以外にも、作りたいものや人、環境に適した素材と加工方法を検討することで、需要に対し適正な量を自分たちで作ることができる。Chain&co.の二人の活動が、そんなローカルな方法による「ちょうどいい」生産の輪を広げるひとつのきっかけになれば幸いである。


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