まどろみ

膝の上の猫は不思議な質量を持つ。ずっしりとした具体的な重さを持ち、それでいて表面にふわふわな柔らかさを持つ。

今日、岡山を発った。最後の日はいつも猫が甘えてくるような気がする。しばらくの別れを悟るのだろうか。今日も出かける直前、膝の上を猫に占領された。仕方ないと思いつつ、手でゆっくりとなで回しているうちに眠くなる。ごろごろ。はっいかん、そろそろ行かねば。予備校に寄り受験生に最後のアドバイスをし、出発。気になっていたハンバーガー屋さんにも寄り道しお弁当にと思いアボガドバーガーとポテトを買う。

新幹線は何度乗ってもどうにも慣れない。車内が混む前にハンバーガーを食べ、後はずっと外の風景を眺めていた。栄えているところを走ってるときの風景は、あまり面白くないんだな。田舎の、田んぼと、森や林や山や、あと川のある風景が好き。日本の都会はあまり綺麗ではないけれど、田舎は美しいと思う。いつだって田舎は美しいというわけではないけれど。おおむね、日本の田舎は美しいと言える。特に、自然の中に瓦屋根の家がぽつぽつと点在する様はたまらない。日本美学に通ずる「仮設性」を感じる。日本において人工物は、自然を排除しない。むしろ遠慮すらするのだ。

だんだんと瞼が重くなって、風景を見るのをやめて音楽を聴くことにする。もう1000回以上は聴いたKeith Jarrettの"God bless the child"。15分あるけど、自分はこの曲の大部分のピアノとベースとドラムの旋律を思い浮かべることができる。モノクロの涼しげで温かな、そして柔らかく叫ぶような音楽だ。この曲にはいつも安らかな死を連想させられる。なんとなく数時間前に私の膝の上にいた猫を思い出した。それらに包まれて、すこし眠った。

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