とにかく自分のことを隠しておきたい

引きこもってた頃、人との接触を絶っていた。というか、誰からの接触の試みもなかった。当時一緒に暮らしていたはずの父からも。父は私が学校に行かず部屋に篭ってることを、ずいぶん経ってから学校からの電話で知ったはずだ。彼が家の電話をとったならば。一度はとっただろう。それ以外は私が鳴り続けて死んだ受話器を耳で確認した。父が部屋へ来そうな気配を2度 察知したことがあって、一度は窓から屋根へ出て、一度は押入れで息を潜めた。その時の気持ちを覚えている。誰からも忘れられていることによる安心感。誰にも思い出さられたくない。だから、私もみんなのことを忘れるんだろうか。いつまでも憶えておくことはかわいそうだから、忘れる。というのは嘘。ほんとはみんなのこと憶えてる。実は自分は恐ろしいほど記憶力がいい。誰のことも忘れたことがない。でも物覚えが悪いフリをしてる。とっさに思い出せないこともあるからただしい。

発見されたくない。埋もれていたい。死ぬのなら溺れたいと思う。土に溺れるのがいい。火の鳥で、王様と一緒に生き埋めにされた少年と少女、土の中で生きたまま即身仏になったお師匠さま、美しい。存在を消して土に返ろう。私が受け取ってきた炭素も水素も酸素も窒素も、土へ返してやろう。

本当のことなんてなんにも知らないで欲しい。私の浅はかさを見透かさないでほしい。ほんとうは何も持っていない。すっからかんなんだ。虚勢を張って生きている。ぺらぺらのハリボテで足を支えている。今にも倒れてしまいそうで困った。あとどれくらい歩けるんだろうか。しょっちゅううんざりしてしまっている。とにかく自分は何かを終わらせたがっている。何も続けていたくない。絶えず忘れて、絶えず辞め、絶えず殺す。自分の生にうまく焦点を合わせられない。

私の本当のことはお墓の中に。

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