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お役所民族誌 第一話 インターミッション 日記2

○月○日

 吐き気は、自分を守るために異物を排除する、生理的な反射だ。他人は異物だ。他人の体臭に吐き気を催すのは、自分を守る正常な反射だ。誰も私に近づくな。私は一人で生きていく。それが無理なら、死ぬ。

○月○日

 不良を描いた漫画やドラマはいくつも読んだし観た。自分の人生と交わることはない、遠い世界のファンタジーだと思っていた。
 そうじゃない、と東京に来て知った。平凡な暮らしのすぐ隣に、犯罪の世界はある。
 少し、ドキドキする。

○月○日

 子供の頃から私の周囲にいた、私を見下す者、いたぶる者。私は想像の中で、何度奴らを嗤ったろう。何度奴らを泣かせたろう。何度奴らを罵り、殴り、刺し、切り裂き、潰したろう。
 想像の中でだけ、私は圧倒的な強者だ。
 現実の世界では、私は押し黙る弱者だ。
 犯罪は、ファンタジーで現実を侵食するための魔術かもしれない。人生の地獄を抜け出す道。可能性。
 一歩を踏み出す勇気が欲しい。


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