0298:印紙税の話
実務上の必要に迫られ、泥縄で印紙税について調べてみた。覚え書きとして以下に記載する。
1)私たちの経済生活と印紙税
一定の社会経験のある人は、郵便局などで収入印紙を購入して文書に貼り付け消印したことがあるだろう。これが印紙税だ。
税金には必ず法律上の根拠がある(租税法律主義)。印紙税を定めているのはその名もズバリ「印紙税法」、明治三十二年法律第五十四号と歴史のある法律だ。これに基づき、一定の条件に当てはまる経済取引に関する文書、例えば1万円以上の契約書や5万円以上の領収書を作成した者は、印紙税を納めなければならない。)
その納め方が独特だ。収入印紙を購入して、文書に貼り、消印することで納付する(印紙税法8条各項)。消印までしないと納付したことにならないので注意が必要だ。
文書を作成する毎に納税が必要になるということは、例えば同じ契約書を2通作成して当事者がそれぞれ1通を持つ場合、2通とも収入印紙を貼付しなければならない。これはお互いに「一方が作成して他方に渡すもの」と解釈して、双方が1通分ずつ負担することが多いようだ。
2)自治体は印紙税非課税
私は長年の公務員(自治体職員)経験で数え切れない契約書を作成してきた。しかし、その際に収入印紙を貼付したことがない。契約書の中に「契約にかかる費用は乙の負担とする」との一文を入れ、契約書2通のうち1通に相手方(乙)に収入印紙を貼ってもらい役所に保管し、相手方が保管する1通には貼らない、という運用だ。
もちろん脱税ではない。印紙税法第五条(非課税文書)第二号により、「国、地方公共団体又は別表第二に掲げる者が作成した文書」は印紙税が課税されないのだ。なので、自治体が作成し相手に渡す契約書には収入印紙を貼付する必要がなく、逆は課税されるわけだ。
でも、なぜ? 民間と同じ立場で経済行為をする際、自治体も消費税は払っている。印紙税はなぜ課税されないのか。
3)そもそも印紙税ってなんだろう
税金は、国や自治体が活動するための経費を、広く住民(個人・法人)に負担してもらうものだ。
その際、能力に応じた「応能負担」、利益を受ける見返りとしての「応益負担」の二つの考え方がある。例えば所得税は個人の、法人税は法人の、それぞれ収入規模に応じて課税される。固定資産税であれば資産に応じた応能負担ということになる。負担能力のある人に多く負担してもらい、国民みんなのために使うという点で、所得再分配機能を担っている。応益負担の代表は消費税で、買い物をしたらその「益」に課税される。利益に応じた負担ということで、公平な課税制度だ(違う視点はあるが今は触れない)。
これに対して、契約書や領収書といった文書を作成しただけでそこに課税されるという印紙税の設計は、とても分かりにくい。応能負担ではあり得ないし、応益負担としても、果たしてどのような「益」に注目しているのだろう。
歴史を紐解くと、印紙税は17世紀前半のオランダで八十年戦争の戦費調達のために創案されたものだという。それが各国に広まり、日本では上述のとおり明治後期に導入されている(それに先立つ別の法律もあるようだ)。
少しググった範囲では、この印紙税の仕組みは国民にあまり負担感を抱かせずに税収増を見込めたことから広まった、という説も見受けられた。
応益負担としての印紙税の論理については、小泉首相時代の平成17年の国会答弁で、政府見解が示されている。
「印紙税は、経済取引に伴い作成される文書の背後には経済的利益があると推定されること及び文書を作成することによって取引事実が明確化し法律関係が安定化することに着目して広範な文書に軽度の負担を求めるものである」
経済的利益の推定、取引事実の明確化、法律関係の安定化。うーん、なんだか苦しい。経済的利益に関する課税は消費税が担っている筈だし、取引事実の明確化・法律関係の安定化って、それは経済的利益が生じる際に民法が定めるルールに沿った民間活動であって、同じひとつの契約でも文書を作成する度に課税する根拠として理屈になるのかなあ。
ともあれ、こうした理屈から、国や自治体などの行政機関は課税に馴染まず、非課税とされているわけだ。(と一応は書いたものの、消費税は自治体も払ってるわけで、もやもや)
4)電子的な文書は印紙税非課税
今回の「実務上の必要」は、電子領収書に関するものだった。当初私は、紙文書であろうと電子領収書であろうと印紙税は課税されるのではないかと予想していた。ところが、領収書の電子的発行、そしてFAXですら、課税されない運用であった。
問2の答
「請求書や領収書をファクシミリや電子メールにより貸付人に対して提出する場合には、実際に文書が交付されませんから、課税物件は存在しないこととなり、印紙税の課税原因は発生しません。
また、ファクシミリや電子メールを受信した貸付人がプリントアウトした文書は、コピーした文書と同様のものと認められることから、課税文書としては取り扱われません。」
えー、なんで? 電子領収書が有効に成立するなら、経済的利益の推定、取引事実の明確化、法律関係の安定化、いずれも紙文書と変わりない筈。それでも、運用はそうなのだ。明治期に創設された印紙税法の構成に基づく以上そう解釈せざるを得ない、それが国税当局の理解だ。
5)ペーパーレス化時代と印紙税
だとすれば、印紙税を節税するためには、どんどん文書の電子化を進めればいい。電子帳簿保存法に基づき、一定の体制を整備して税務署長の承認を受けなければならないため、ハードルはそれなりに高いが、取引件数の多い企業ではそれに見合う節税効果があるだろう。
けれども。
同じ領収書でも紙なら課税され電子なら非課税という「筋の通らなさ」は残る。そもそも3で見たように、印紙税法の課税対象となる「益」自体につかみ所がないのに、ますますおかしな感じがする。今はまだ世の中の電子化を進めるためのインセンティブとしてこの運用がなされているが、多くの人が電子に移行して印紙税収入が大きく下がった時、税収を補うための制度改正により電子文書にも課税されることはあり得るだろう。
例えば税務大学校の教授が、私見として電子文書の課税化を論じている。
草間久雄(税務大学校研究部教授)/最近における印紙税の課税回避等の動きと今後の課税の在り方
緻密な法学論文で内容をきちんと追ったわけではないが、印紙税法が課税対象の益とする「証明する目的と効力」が電子文書にも認められることを論じ、紙文書との公平・中立の観点から電子文書にも課税すべきとしている。その点は、筋の通った論と思えた。
でも、そもそもの話として、ひとつの契約の中で文書を作る度に幾度でも課税される印紙税の仕組みは、やっぱり釈然としないんだなあ。
--------(以下noteの平常日記要素)
■【累積18h50m】本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
実績100分。演習問題の解説を全部入力して、解説動画を視聴。まだまだ知識は定着してないけど、民法で足踏みを続けるより前へ進もう。明日から不動産登記法だ。
■本日摂取したオタク成分(オタキングログ)
『桜trick』第1~2話、ガチ百合ですかあ。あんまり需要はないけど、もうちょい観てみよう。『迷宮ブラックカンパニー』第2話、あんまちゃんと観てなかった。『俺、つしま』第2話、初回は荒天で電波状態が悪く実質2話から。Twitterでその濃い絵柄を知ってたのだけれど、アニメも濃い。『はめフラX』第3話、これそもそも1期もちゃんと観てないんだよな。なので話追えてない。『探偵はもう、死んでいる。』第3話、これもBGV的。『うらみちお兄さん』第2話、もう全然観てないので切ることにする。
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