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0511:(GaWatch書評編011)大島義則『新人弁護士カエデ、行政法に挑む』

 小説形式で何事かを解説するスタイルは、筒井康隆『文学部唯野教授』やヨースタイン・ゴルデル『ソフィーの世界』がベストセラーとして思い浮かぶ(昭和人なので例示が古いのはご容赦)。小説だけでなく、量的にはむしろコミック形式のものが相当に多く、私の子供の頃から日本史・世界史の漫画版はあったし、ベストセラーとなった石ノ森章太郎『マンガ日本経済入門』(昭和人なので以下略)は大人の学習マンガを確立したといえるかも知れない。

 小説であれコミックであれ、物語に学習知識を載せることにはメリットとディメリットがある。まず、読者が登場人物の心情の動きに共感しながら、ストーリーに組み込まれた「知識」を自然に学び取れるのはメリットだ。ディメリットは、物語に厚みを持たせるほど、紙数制限の中で盛り込める「知識」は限られてくる。なのでこの形式は自然と入門書的な色彩を帯びる。

 法律分野でこの形式の小説といえば『行政法ガール』が著名だが、私はまだ読んだことがなく、いつか読みたいと思いながら今に至る。しかし、同じ著者による新著『新人弁護士カエデ、行政法に挑む』は、即座に購入し、本日一気に読了した。

新人弁護士カエデ、行政法に挑む
著:大島義則
発行:学陽書房

 なぜ私が旧著を差し置いて本書を手にしたのか。その理由は、本書が「特定商取引法の行政処分の取消訴訟」をテーマにしているからだ。

 私は2年間、某県の特定商取引法担当を勤めた。行政処分も複数件執行した。執筆中の小説「やくみん! お役所民族誌」のメインストーリーである深網社との対決は特商法に依ることになる。となれば、先行作品として本書を踏まえて置かねばなるまい。

 著者・大島義則の履歴を奥付から確認すると、弁護士を主軸としながらロースクールの教官を務め、消費者庁にも勤務経験がある。消費者庁はいくつかのポストに弁護士を任期付きで採用し、その専門性を政策立案・法執行に活かしている。著者は公益通報者保護法・個人情報保護法担当課長補佐として2年間を過ごし、その経験から第1~3章の特定商取引法、第4章の破産者マップ事件が作品の素材として選ばれたのだろう。

 主人公は弁護士登録をしたばかりの篠宮楓(しのみや・かえで)、なんと未成年という設定だ。彼女とボス弁・鬼道政義(きどう・せいぎ)の対話が本書の大半を占める。「対話」というところでピンと来た人も少なくないだろう。ソクラテスメソッド、質問者の問いかけが当人の思考を深めていく対話式教授法だ。それが本書の物語の側面と知識の側面の双方を支える舞台装置となる。

 本書の主軸である第1~3章は、電話勧誘販売を行っていた宝石商が特定商取引法違反により行政調査を受け、行政処分に先立つ弁明の機会が付与された(分からない人は読み流してね)ことから、対抗を求めて主人公のもとに相談に来たことから始まる。弁護士として依頼人の利益を実現するために行政とどう戦うか。細かな顛末は、どうぞ直接本書を手に取って確認して欲しい。

 本書の物語の側面は魅力的だ。未成年のまま司法試験に合格し弁護士登録をした才女であり、膨大な書類をザラッと眺めて必要な情報をピックアップするフラッシュリーディングを使いこなし、事務能力も超優秀。なのにボス弁とは不当な労働契約を結ばされ、知識も経験も敵わない。なんともラノベ的なキャラ立ちだ。他にも幾人かのキャラが登場するが、行政法学者の名前が理波多律澄(りばた・りずむ)なのは特筆しとこう。

 では、本書は小説として物語作品を求める人をうんと愉しませてくれるのかといえば、さにあらず。本書はあくまで小説の体裁を取った行政法の解説書、それもロースクールなど法実務家を目指す人に向けて書かれた硬派なものだ。行政法に関心のない人には本書はお勧めできない(冒頭で「こうした形式は入門書的な色彩を帯びる」と書いたが、本書は門の前に立つ時点で一定のレベルが想定される)。逆に言えば、行政法に関心のある人──とりわけ行政職員を含む実務家には自信を持ってお勧めできる内容といえる。

 前述のとおり私は特商法担当者として複数の行政処分に関わったし、別の部署ではあるが行政不服審査制度担当者として行政救済法実務にもみっちり関わった。いわば行政側の実務経験だ。これに対して本書は、依頼人の利益のために行政と戦う側の視点から描かれている。自分の知る世界を逆から見た世界は、もちろん、同じ事の裏表だ。しかし、見え方や思考のアプローチが違うから、とても新鮮に映った。

 弁護士の立場で行政活動の穴をついて処分を覆す、という物語の構図から、行政活動にいささか不自然な設定はあった。最初に物語形式で事案の概要が語られるのを読みながら、「え、誘導尋問?」「え、一週間?」といくつか引っかかるところがあった。「そんなこたあ、せんよなあ」と。ただし、これは物語の展開に備えて作者が意図的に設定した隙であり、読み進めれば「だよねー」と落着する。特商法担当に着任するとみっちり研修で「裁判になっても勝てる/負けない」という視点で準備・調査・判定・手続の委細を身につけていくから、ここまで見え見えの隙は作らない筈なのだよね(人のやることなので現実には得てして隙が生まれるのだけれど)。

 さて。

 本書はとても読み応えがあった。それと同時に、あくまで学習主体の物語であり、物語主体の公務員小説「やくみん! お役所民族誌」とバッティングするものではなく、その意味では安心した。物語におけるキャラ立ちや親しみやすい表現などはむしろつい重厚長大になってしまう自分の反省点を照らし出してくれるものだった。やくみん第2話の前半、もしかすると第1話の終わりの方で、澄舞県職員OBの行政書士が行政不服審査請求を申し立てる場面が登場する。自分の頭の中だけでは行政側の発想しかなく、その意味では描写が不自然(それこそ行政経験者の私が「そんなことせんよなあ」と感じたように法実務家が読むとおかしなもの)になる恐れはある。「知らないことを、知っている範囲だけで書く」のは、そういう恐さがあるんだ。もっとも、そこを上手く飾るのも物書きの手練というもの。申立側の発想を学ぶために、少し時間をおいて本書を再読したい。

--------(以下noteの平常日記要素)

■本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
【累積214h11m/合格目安3,000時間まであと2,786時間】
今日は上記のとおり読書と書評に時間を費やしたのでノー勉強デー。

■本日摂取したオタク成分(オタキングログ)
『機神大戦 ギガンティック・フォーミュラ』第2~5話、あーそうそう、こういう話だったっけ。『陰謀論のおしごと』第7話、まあなんというか、日本の感覚から遠い異文化アニメなのだけれど、癖になってきた。『真の仲間』第11~最終話、ふむ。それなりに盛り上がったけど、基本はユルい。

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