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0488:(GaWatch映像編009)『シルクロード.COM 史上最大の闇サイト』

 通常の手段ではアクセスできず匿名性の極めて高いダークウェブ。そこでは薬物・武器・殺人・児ポルなどの犯罪取引が行われ、技術的問題から当局の捜査の手も及びにくいという。そのダークネット・マーケットのビジネスモデルを作り上げ、2011年から2年半の隆盛の後に摘発されたサイト「シルクロード」の実話に基づく顛末を描いた映画を観てきた。最近のGaWatchの定型句になりつつあるが、当然これも「やくみん! お役所民族誌」の参考として、だ。

『シルクロード.COM 史上最大の闇サイト』2021年/アメリカ
監督:ティラー・ラッセル
主演:ジェイソン・クラーク、ニック・ロビンソン

 主演欄に二人の俳優の名前を挙げているように、この作品には主人公が二人いる。一人はシルクロード創設者で無期懲役(仮釈放なし)受刑中のロス・ウルブリヒト。もう一人は、彼を追い詰めるネットオンチの捜査官リック・ボーデンだ。前者は実名、後者は複数の実在の捜査官の事績をミックスしフィクションとして仕立てた存在だ。作品は、二人の身辺を交互に描きながら、一世を風靡した闇サイトの誕生から閉鎖までを描いている。

 面白かった。ただ、観る前に予想していた方向とは少し違った。シルクロードという舞台の上で行われる様々な犯罪・非倫理的行為がエンタメ風味をまとって描かれるものと思っていたのだけれど(『ハスリンボーイ』読んだ直後なのでね)、そうではなかった。犯罪については、テレビ報道や友人からのロスへの忠告など、間接的にしか描かれない。映画の焦点はあくまでロスとリックそれぞれの感情と行動に当てられ、二人がどのように闇に魅入られ破滅していくのか(そう、捜査官リックもまた墜ちるのだ)、その過程を克明に描いている。その意味で、予想よりは地味、という印象をもった。もちろんそれは非難ではない。こういう物語作りをしてきたか、という良い意味での驚きだ。

 冒頭、図書館で秘密裏にロスを包囲し逮捕のタイミングを待つ警官隊が描かれる。その時、ロスに一本の電話が入る。「一体誰が電話を」と焦燥する捜査官。そこから場面は3年前に遡り、シルクロードの着想、実行、成功、退廃を描いて、終盤に再び同じ場面に回帰する。電話を掛けた者の正体と、その心の内。そして最後の面会場面。構成が上手いなあ。

 物語はロスに対して終始リックの方が上手で捜査が(途中からは捜査とは別のリックの思惑どおりに)進んでいく。俳優の名前としてリック役のジェイソン・クラークが先にクレジットされているが、物語の視点としてやはりリックの側に重きを置いていると感じた。リックが偽名でロスにコンタクトを取り、彼の信頼を得、やがては彼をコントロールするようになる。なぜ彼がそのような行動をとるのか(とらねばならないのか)も、映画を見ていると自然に伝わる。こうした展開は心理サスペンスとして見応えがあった。

 「やくみん!」の参考という点で特に注目したのは、序盤でロスがシルクロード構想を友人に話す際に「政府に管理されないビジネスが市場を強力にする(それに続く言葉を忘れた、なんだっけ)」というリバタリアニズムを語っている点だ。サイト名「シルクロード」が人々の自由な交易路という意味を担っている点からも、この思想をバックボーンにしたものであったことが分かる。映画パンフレットでダークウェブに詳しい作家・木澤佐登志は「リバタリアニズムとは、他者に危害を加えないという条件のもとでの自由の行使権を最大限に重視する思想」であり、ドラッグの自由意思による摂取は認められても他者に危害を加える銃器や児童ポルノは禁止されるというシルクロードの運営方針(それは「自由」の中で次第に崩壊していく)の裏付けであったと指摘している。

 実は私は、公的医療保険などの社会主義的政策への根強い反感や銃規制反対に窺える、アメリカ人の「自由」観がよく分からない。なぜ政府の保護よりも危険な自由を選ぶのか、共感できないのだ。まあ戦後生まれの日本人だから、なのだろう。それでも、「そのような考え方に立ったときに、こうした仕組みが生まれる」という流れは理解できるし、とても刺激的だ。

 総評として、必ずしも「素晴らしいからみんな観ろ!」とまでは、いわない。ただ、センセーショナルな舞台の上で着実な人間ドラマを描いている点で、観る価値は十分にある作品だ。

 ちなみに、やくみんの敵の大ボス「哲さん」は、暗黒啓蒙や反出生主義の思想に立って、通常の特殊詐欺グループとは違った組織運営をしているという設定だ。その細部はまだ固まっていない。ここで彼の思想と言動の間に説得力のある関連を生み出せるかどうかが、作品全体の成否の鍵となる。やはり「知らない世界」についての勉強が必要だ。闇の思想も、ダークウェブも。ダークウェブは「やくみん!」物語後半の展開で鍵となる。主要敵である深網社とはまったく違う、サブストーリー絡みだ。ある種の取材はしておきたいが、さすがにリスク(当局チェックとかウィルスとか)が大きすぎて自分でダークウェブに接続してみる気は皆無なので、ルポやフィクションで描かれたものを読んでいくしかない。

--------(以下noteの平常日記要素)
■本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
【累積198h02m/合格目安3,000時間まであと2,801時間】
今日もGaWatch書いてるうちに23時を過ぎてしまった。明日から頑張る……。

■本日摂取したオタク成分(オタキングログ)
『桜蘭高校ホスト部』第23話、そうかボサノバ君の続きか。今回も勢いが素敵。『暗殺貴族』第11~最終話、盛り上がったなあ。当然第2クールがあるだろう、愉しみに待つ。

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