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0357:寄り道深掘り面白い

 司法書士試験の学習をする上で、講師が折りに触れて言うのが「深掘り厳禁」という言葉だ。

 これは主にマイナー科目で言われる。司法書士試験対策講座の最終目的は「試験合格」、そのために必要な知識を網羅した独自のテキストを編成している。逆にいえば、試験でまず問われない知識は省いているわけだ。そこが気になり出して重箱の隅をつつき出すと、限られた期間で試験に対応できる総合力の蓄積が叶わない本末転倒が起こりかねない。だから、深掘り厳禁、ということになる。

 数十万円の学費と膨大な勉強時間を投資して司法書士試験の受験を志す人は、今後の人生を賭けている。だから試験合格の最短距離を突っ走るのが正解だ。

 でも、たまにいるんだ。寄り道しちゃう人。深掘りしちゃう人。現実世界と法律の条文をどのように重ね合わせて紛争の解決をするのか、それを考えることを「楽しい」と感じてしまい、探求しないとむずむずしちゃう人。

 どうやら私もそっちの人らしい。

 元々法律なんて大の苦手で、大学の専攻は全然違うし、公務員試験も通信講座のテキストを一回読んで課題出したくらいで後は山勘で乗り切った。入庁後も法律からできるだけ逃げ回ってきた。大学院内地留学に選ばれた時も本当は法律以外の切り口がやりたかったのだけれど、諸状況から止むなく行政法を専攻した。学部の基礎がないので教官からは「民法は全ての基礎だから履修した方がいいよ」と言われ、あははそうですねえと笑って無視した(おい)。それでも修士論文執筆のために特定のテーマに深く深く沈潜して先行研究の穴をほじくり自分なりの理論を構築する過程で、法律の面白さが実感できるようになってきた。留学を終え職務に戻ると、行政救済制度担当者としていくつかの事案を審理し、消費者行政部門では民法の契約法部分とその特例法である消費者法、そして悪質業者への行政処分を、給付行政部門では受給権を確認するための家族法を、それぞれ経験した。それらは全て、現実世界と法律の条文を重ね合わせて紛争を解決する業務だった。

 試験講座が入門(ステップアップ編)から本論講義に入り、難しいけど面白くなったということは、先日書いた通りだ。なぜ面白いか、それは「その規定は何のために設けられているか」「どのように解釈するのか」の解説が増え、だからこその例外も触れられるようになってきたからだ。判例や学説は「条文の現実への適用」というまさに解釈学の世界、読むにつけ聴くにつけ「ははあ、なるほど」と実に面白い。

 試験対策には「暗記」と「理解」が必要だ。理解は暗記の助けになるし(理解したら全部覚えられるというほど単純ではないけどね)、暗記しなくても応用が利くようになる。その上面白い、ときたら、理解したくなるじゃないか。

 それが、寄り道・深掘りの沼だ。

 私の場合、今はまだ本論編テキストに入ったばかりで、まずはその一周を目指すべきだ。分かってる。分かってるんだ。でも、ポチってしまったんだ。これを。

 内田民法全四巻(今回は三巻まで買った、四巻は手元にあった、読んだことないけど)。この厚みが寄り道深掘りの面白度を保証していると見た。難解な学術論文ではなく、あくまで大学生向けの講義のような平易な語り口で綴られている。きっと著者の東大時代の教養学部講義がこんな感じだったんだろう。昨日入手し、今日から少しずつ読み始めた。今日は50頁くらい。すらすら読めるし、期待どおりの面白さだ。

 直近の民法改正には、債権法を扱う三巻は改訂対応しているが、一巻は残念ながら未対応だ。ひとつ例を挙げよう。

 今回読んだ範囲に、意思表示到達主義の例外である「承諾の発信主義」があり、以前消費者部門にいた時にそんなことも勉強したなと思い出した(ちなみに特定商取引法のクーリングオフも消費者保護のために例外的に発信主義を取る、9条2項ほか)。しかし最新の六法を参照すると、今回の改正で該当条文が落ちている。違う形に改正されたのではなく、丸ごと削除されたのだ。

 これは何を意味するんだろう、本書に「承諾の発信主義には合理性が乏しく改正が課題」との趣旨が記されていたけど、もしかして? そう思ってネットで検索するとまさにその通り、今回の民法改正で承諾の特例発信主義はなくなり、到達主義に統一されていた。その改正に至る問題点は今の版にも触れられているので、うんうんなるほどなるほど、と思った。

 試験対策講座では「改正の経緯には触れない」と宣言されている。まさに寄り道&深掘りの知識だ。でも、そこが面白い。これで「承諾の発信主義は消えた」という事は記憶に刻まれた。

 なお著者・内田貴は、東大退官後に法務省参与として今回の民法改正に深く関わった立役者の一人で、その経緯は次の本にまとめられているようだ。

 これを読めば、未改訂の1巻の補足になるかなー。でも読んでるヒマがあったら本論編進めた方がいいんだよなー。受験生だしなー。来年合格したいしなー。……あ、指が勝手にポチった。

--------(以下noteの平常日記要素)

■本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
【累積95h02m/合格目安3,000時間まであと2,905時間】
実績173分、内田民法の読書時間も含めてる。試験勉強の趣旨を大きく外れてなければ含めるという方針で。実家に置きっぱだった六法をようやく回収、やっぱ紙の方がめくるのは早い。電子版も目次と本文が別枠で連動してれば早いんだろうけどね。

■本日摂取したオタク成分(オタキングログ)
『転スラ』第47話、ほぼ予想(実質的に予告)されていたとおりの展開、なのだが最後で転回。ここからが本番か。『ジャヒー様はくじけない』第6話、大家さんと仲良し。『ウィザード・バリスターズ 弁魔士セシル』第1~2話、本放送時に面白く観てた。今回はガリレイドンナの流れで再視聴、内容はすっかり忘れてるので新鮮に愉しめる。こっちの法廷シーンは悪くない感じ、まあその場で処刑しちゃうんだけど。『明日をまもるナビ 徹底検証 富士山噴火』、大きな噴火があったら首都機能喪失だなあ。まあ阿蘇がカルデラ噴火したら日本終わる。

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