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お役所民族誌 第一話 香守茂乃は詐欺に遭い、香守みなもは卒論の題材を決める/プロローグ 日記1

note創作大賞2023 お仕事小説部門 応募作品

■あらすじ(260字)

文化人類学専攻の大学生・香守みなもは、彼氏の勤務する澄舞県庁で三日間のインターンシップに臨む。現場は消費生活センター、悪質商法と対峙する部署だ。初日に独り暮らしの祖母・茂乃の悪質商法被害が発覚、センターが解決に乗り出す。その頃東京では、世を呪い自死を考える青年・押井がデート商法の罠に陥っていた。詐欺組織・深網社に絡め取られる押井。県のゆるキャラ・すまいぬを巡る謎。暴走する放送局員。県庁内部の人間関係力学。センターの仕事とそこで働く公務員たちに興味を持ったみなもは、卒論で澄舞県庁に潜入調査し民族誌を書くことに決めた。

■本文/プロローグ 日記1

○月○日
あの時に死ねていたなら、こんなにも苦しまずに済んだのに。そう思うと、止めた両親が恨めしい。

○月○日
中学高校時代に、いい思い出はほとんどない。心の底から笑った時も、暖かく満たされたことも、あった筈だ。でもその気配は薄ぼやけて像を結ぶことがない。嫌なこと、憎悪すること、消えてしまいたくなることになら、すぐに記憶のピントが合う。それほど苦しい毎日だった。誰もそんな私の苦しみに気づいていない。気づかれてたまるか、そんなの、死んだ方がマシだ。

○月○日
地獄から逃れたくて、故郷のしがらみを全部捨ててしまいたくて、新しい自分になれると思って、明るい日々が待っていると思って、東京に出てきた。でも、ここも同じだ。結局、環境に適応できないのは私自身の生まれ持った資質の問題。どこにも逃げ場なんかなかったんだ。夢を見た分だけ、つらい。つらいつらいつらいつらいつらいつらいつらい。生まれて来なければ良かった。

○月○日
今日はいい日だ。

○月○日
くそっ。くそっ。こんなのありか。デート商法? 完全な詐欺、それとも恐喝。そんなことできる奴は人の心を持ってないだろ。

■目次リンク

本文文字数合計 137,704字

プロローグ 日記1(本記事/本文473字)

第一章 香守みなもと彼女を取り巻く人々(19,859字)

(1)恋人たちの朝
(2)澄舞大学文化人類学講座
(3)馴れ初め
(4)香守家呼称規則
(5)インターンシップの行き先
(6)老いの予感

第二章 澄舞県庁インターンシップ(16,194字)

(7)はじまりのセレモニー
(8)澄舞県消費生活センター
(9)撮影の舞台裏
(10)管理する者の視点
(11)消費者行政入門講座 序

第三章 青年と詐欺師たち(前編14,649字、後編10,189字)

(12)魚信(アタリ)
(13)法学と文化人類学
(14)おばあちゃん
(15)押井と呼ばれる男
(16)魔術師・龍神ズメウ

(17)圧迫面接
(18)どたばたハニートラップ
(19)デート商法
(20)見込み違い
(21)倉庫へ

第四章 おばあちゃんの危機(前編11,614字、後編14,750字)

(22)刈り込み開始
(23)エシカル論争
(24)六十点の行政
(25)救難信号と出動許可
(26)走れロシナンテ
(27)コウモリ君

(28)振込阻止
(29)一難去って
(30)また一難
(31)人称問題
(32)「生まれて来なければ良かった」
(33)候補者の発見
(34)夫婦じゃなきゃできないこと
(35)親子の形

インターミッション 日記2(400字)

第五章 澄舞と東京、姉と弟(前編18,315字、後編11,008字)

(36)消費者法と行政の役割
(37)管理職たる者は
(38)東京の風景
(39)作戦会議
(40)反社会的交渉技術

(41)犯罪への招待
(42)偏りが生む個性
(43)戦略的撤退

第六章 インターンシップの終わりと次のステップ(19,514字)

(44)恋人たちの夜
(45)ラジオ収録見学
(46)柳楽と二階堂
(47)「練蔵じいさんの、わしゃダマされんぞう!」
(48)総括の時間
(49)彼女が師匠と呼ぶ人
(50)心を定める

エピローグ 日記3(739字)


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