深津絵里の眉毛

映画「悪人」のネタバレしかしない。

正月早々悪人を見た。正月早々の深夜だ。
おそらく、安い枠に安く借りた映画を流し込んだのだろう。
2008年作品なので、最近の話題作ということでもないのだろう。

知らない人のために簡単に説明すると

北部九州三県を舞台にした吉田修一の小説を基にした2009年公開の映画で、
wikiによると
保険外交員女性・石橋佳乃が土木作業員・清水祐一に殺された。清水は別の女性・馬込光代を連れ、逃避行をする。
なぜ、事件が起きたのか?事件当初、容疑者は裕福な大学生・増尾圭吾だったが、拘束された増尾の供述と新たな証言者から、容疑の焦点は清水に絞られる事になる。 

以上、ウィキより引用

という、超分かりやすい簡素な説明が書かれている。
というか、これがこの話のすべてなんだよな。
強いてキャッチコピーをつけるなら

「不幸の逃避行」

ボニーとクライドのあの明るい逃避行とは違って、終わりが分かり切っている暗い逃避行。ブルーカラーと、地元を出ることもなく一生を終える女性のやはり地元を出ることができない逃避行。二人は何か月も逃亡するわけでもなく、佐賀と長崎の身近なところから抜け出せず、物語は終わる。

映画を見た率直な感想としては、結局、満島ひかりが悪いじゃんという印象がザラリと残る。ちょっとクズな演技させた満島ひかりは非常によかった。薄情女って感じがした。多分、いるよああいう女って思わせる演技ってやっぱり天才なんだろうなぁ。個人的には妻夫木も「渇き。」の時のクズっぽさの印象が強くて、「妻夫木は、いつへらへら笑い始めるんだろう」とも思ってしまった。さすがにこれはなかったけど。

閑話休題

さて、この映画のラストシーン直前で灯台で隠れて生活していた祐一と光代が警察に見つかり、悲しき逃亡生活が終わってしまうのだが、このシーンで祐一は「俺は、お前が思ってるような男じゃなか」と光代に言い放って、首を絞めるシーンが出てくる。その直後警察が突入して二人は引きはがされる。そして、映画はラストシーンに入り、タクシーの中で光代がポツリと
「世間で言われとる通りの人なんですよね…あの人は…悪人なんですよね」
とタクシー運転手に語り掛ける。

普通に考えれば、ラストシーンで光代の首を絞めたのは、自分が一緒に逃げたいと言った光代の罪悪感を払しょくするため、また、収監される自分のことを待ち続ける光代のことを不憫に思って、思いを断ち切るために悪人を演じなければならなかった。という見方。警察も突入した際に犯人が人質を殺そうとしているように見せかけることで、光代は被害者であると見せることができる。事実、事件後に光代は無断欠席したにもかかわらず、職場に復帰したシーンも描かれている。それであれば、ラストシーンの光代の悪人なんですよねというのは、タクシーの運転手に対して、世間では悪人なんであるという問いかけを発し、その裏、自分だけしか知らない祐一の表情を思い出すように、最後の夕日のシーンそして、スタッフロールへと進んでいく。

ただ、この「悪人なんですよね」という問いかけ、光代の声に抑揚がない。
聞きようによっては、光代が祐一を悪人であったと再認識するシーンともとらえられないだろうか。

そもそも、祐一は出会い系で出会った佳乃の事後の写真をケータイに残すようなリテラシー的な部分に欠ける印象にある。(佳乃は顔はやめろって言い続けてたのに…)他にも動画が携帯に保存されているが、それは何かは明かされていないが、佳乃だけ思い付きで動画を撮るとは考えづらい。

そして、最大の疑問だが、なぜ、祐一は佳乃を殺してしまった際に証拠隠滅を図ろうとしてしまったのか。

単純に考えれば、祖父が入院してしまって、一人だけ取り残される祖母を不憫に思ってしまったと考えるのが普通か。しかし、それであれば、ばれた後の逃避行に理由がつかない。祖母ではなく、昨日おととい会ったばかりの女性と逃避行か。その後のマスコミバッシングの中一人で耐える樹木希林の不憫さよ。そのあたりに関して、祐一が逃避行中に思い出すシーンはなかったと思っている(原作にはあったりするのか?)祖母の思いだけが一方通行していたように感じた。

また、話は変わるが、祐一はカッとなって佳乃の首を絞めて最終的に殺してしまったが、光代のときも警察が突入が遅かったら殺してたのだろうか。
もう一つ疑問なのは最後の最後に祐一が引きはがされて、それでもなお光代に近づこうとする際に光代は祐一を見ていない。放心状態で上をずっと見ている。心がここにないといったような感じだ。もしかしたら、この瞬間光代は心を閉じてしまったとも考えられる。そのくらい本気で殺そうとしたのが光代には分かったのかもしれない。祐一も警察が近づいてきたから、旅を終えようとしてただけだったのかもしれない。もともと、自首して旅を終わらせようとしていた男が女の一言で旅をつづけたのだ。「私が悪かった」と泣きじゃくる女性を哀れに思い、自首という形ではなく旅を終わらせる。
祐一もそのような気持ちに一瞬なったのではないだろうか。そのような解釈も出来なくはないだろうか。仮にこの選択をした祐一は善人だろうか。人を殺そうとしたのである。独善というべきだろう。そして、それは悪人だろう。だから最後に光代が「悪人なんですよね」って言ったとも考えられないか。

見ていて、ここら辺が腑に落ちなかった。

まあ、どう考えても、祐一の機転を利かせたやさしさが光代の首を絞めたのだろうが、本当に祐一が悪人ではないのかはもはや誰もわからない。

映像では荒天が多かったが、佐賀はそこまで雨が降る地域ではない。
人々の感情を天気が表していたのかもしれない。
このあたりを加味してもう一度みんな「悪人」を見てほしい。
アマゾンプライムに上がってるし、なんなら凶悪も見てほしい。
ピエール瀧がやばい。

閑話休題

10年遅れくらいで見たのだが、とても質の良い映画だった。

翌日、ラーメン屋で深津絵里と同じような眉毛を書いている女性店員がいた。
もしかしたら、深津絵里眉毛が長崎で流行ったのかもしれない。
というか、30後半から40代の妙齢の方って結構あんな眉毛してません?
気のせいですか?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?