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好きな作家の手書きメモを眺めた

作家フリッツ・ライバーの遺品のうち紙ものを、ヒューストン大学が電子化して公開してくださっている。

なにがうれしいって、ライバー本人の手書きメモ(あるいは差出人によるメモ)から、メモが書かれた瞬間における作家の身体動作や思考が垣間見えることだ。

【御礼】手書きという主題にあったイラストをお借りしました。この場を借りて御礼申し上げます。

以下のURLを使うと、いわゆるギャラリー表示可能
https://digitalcollections.lib.uh.edu/catalog?f%5Bprovenance_sim%5D%5B%5D=Fritz+Leiber+Papers&locale=en&page=1&per_page=100&view=gallery

電子化されている資料の性格や、まだ電子化されてない資料にはどんなものがあるのか、ということは、、、リンク先をDeepLにかければ分かるので、ここに書くこともありますまい。

このフリッツ・ライバーゆかりの品々がヒューストン大学にある、という話は、日本語圏でも既知のこと(グーグル検索が拾えない媒体や、ファン同士の飲み会とかで話題になったこと)だと思うけれども、感動した勢いであれこれと書いてみた。

インディアナ大学にも、書簡(レックス・スタウトの名前もある)、断簡、アイデアを書きつけた日誌、写真、インタビューのカセットテープ、などなどが保管されているらしいが、いまのところ電子化されてない。リンク先によれば1974, 1982年と、生前に大学が購入したとのことだが、経緯は書いてない。

気になって手書きメモ

見出しは筆者が勝手に付けた名前であって、ライバーがそう名付けたり、ヒューストン大学が名付けたものではないので、その点ご容赦のほどよろしくお願いします。

その1、朗読会の案内の裏面にある台本らしいもの

https://id.lib.uh.edu/ark:/84475/do1433dz53d

表面はフリッツ・ライバーと友人たちが朗読会をするという案内で、裏面におそらくがライバー本人の手書きメモがある。たぶん、こう書いてある。

(□ Roy A Squires is not here for his award, TIM POWERS is to accept the award for him)
Finally, the nominees of THE Clark Ashton Smith Poetry Award for 1980 were Ray Bradbury, Stanton A. Coblentz and D.M. Thomas, and the winners is ―― D.M Thomas, of England who could not make it him today but “wishes all the members of Fantasy Faire his best and the honor”
(end - say whatever you wish and ask Frederick J. Mayor up to make closing words)

(□ Roy A Squiresは来れないので、ティム・パワーズが代理で賞を受け取る)
さあ、1980年のクラーク・アシュトン・スミス・ポエトリー賞の候補者はレイ・ブラッドベリ、スタントン・A・コブレンツ、D・M・トーマス、そして受賞者は――D.Mトーマス。イングランドにいるので今日は来れませんが「Fantasy Faireのみなさんによろしくとお伝え下さい、光栄です」とのことです。
(閉会、何か言って、Frederick J. Mayorに閉会の言葉を頼む)

推測だけど、授賞式の司会をつとめるために、ライバーは自分向けに台本を書いたのだろうか?

その2、政治家の名前があるメモ

こちらはリングノートから破り取って書いた、あるいは書いてから破り取ったらしいメモだ。いつ、どこで書かれたものか不明。

https://id.lib.uh.edu/ark:/84475/do2593tv25h

London Anthony Greenwood. Lord Greenwood of Rossendale. House of Lords. Paris- Claude Bourdet Friend of Maya, Femer Brochcon Movement for Colonal Freedom

Anthony Greenwood, →, en_wikipedia
Claude Bourdet Friend of Maya, →, fr_wikipedia

どちらも政治家らしいのだけど、なにか小説のアイデアとしてメモをとったのかしら。

その3、人名の脇にある書き込み

1976年第9回のGENCON案内の5ページ目、活字で印刷されたTSR社の人名の横に、手書きでなにか書き込んである。

https://id.lib.uh.edu/ark:/84475/do08537114n

Dave Arneson [    ]
Brian Blume 5 [    ]
Mike Carr V.P.
Ernie Gygax [    ]
Gary Gygax
Tim Kask --Ed. The Dragon(引注:この行だけ黒インク、ほかは青インク
Rob Kuntz □/2 [    ]
Terry Kuntz
Dave Megarry TREASURER
Dave Sutherland ARTIST, CO
Neil Topolnicki [    ]
Skip Williams [    ]

いったいどういう基準で読み難い筆記体と、読みやすい大文字を使い分けているのか。。。インクの使い分けも謎だ(書いた時間帯が違うのかな?)インクの色と文字の読みやすさから想像をたくましくすると、ライバーはDragon誌に関心を寄せてたのかなあ?

ライバーは余白に書き込む人(マルジナリアン)でもあった、と言いたくなったけど、何も書いてない頁のほうが多い。

その4、プログラムの赤い印

1976年のSF大会のプログラムには、ライバーの名前が書いてあるところに赤ペンの印があり、また大会の主催者からライバーにあてた手書きメッセージを見つけた。

https://id.lib.uh.edu/ark:/84475/do2730bw60j

赤ペンの印がライバー自筆なら、自分の出番を忘れないよう備えていた、と解釈できる。

もし、大会関係者がつけた印なら、出番忘れないでね、というお願いだろう。私が知る限り、遅刻とか、忘れ物の逸話はライバーには無いから、前者だろうか。

手書き部分にはたぶん、こう書いてある。

Dear Sir,
Thank you for agreeing to the our own program. I’ ve reserved a room on your name & will reinforce you for the 2 nights of the con. If you have a particular story or item in mind for your reading, drop me a card or call collect with its title.
(右寄せで)Pax,
From Anderson

拙訳
親愛なる貴兄へ
参加をご快諾いただきありがとうございます。お部屋を貴兄の名前でとっておりますので、会期中の二晩も英気を養えるでしょう。もし朗読のための作品をきめてらっしゃるのであれば、わたしあてに伝言か電話をして、題名も教えて下さい。
敬具
アンダースンより

活字部分を見ると、Sword and Sorcery Panelのところに、ライバーの名前がない。より下の世代に遠慮なく自由に話してもらおう、という主催者の考えが見て取れるような気がする。

1976年だから、もしもSword and Sorcery Panelにライバーが参加してたら、みな萎縮して話せなくなってしまったんじゃないだろうか(いや、案外そうでもないのかな、ファンジンの投書欄とかを見たら答えがつかめそう)。

その5、ホテルのメモ用紙に書きつけた天体観測記録

解説によると見慣れない星を見かけた旨が書いてあるとのことだが、手書き文字が読めなかったし、英語としてもからきし読めない(天文学の調べ物しないと...)。

https://id.lib.uh.edu/ark:/84475/do5221tg34q

(右揃えで)6 HOAM Oct 14
at 520 to 635 AM today, it saw what looked like a [     ] 4 1/2 mag. star about 20 minutes away [見せ消ち] from γ Leonis and at an angle of 100° from it in binoculars Nova Leonis □.□.(行間に小さな文字) 1978? Fritz Leiber
P.S [     ] noted it at 650. [     ] thing it can be □□ Leonis ([     ]) [     ]

写真を見ると、基本は黒インクで書いてるのに、Nova Leonisだけ青緑のインクで書いてある。旅のときの持ち歩くのは二色ないし三色ボールペンだったのかも。それか、インク色違いの万年筆を2、3本持ち歩いていたか?

20 minute awayに続く部分をみると、(少なくともこのメモのときは)ライバーは打ち消し線を引くとき、一方通行で線を引くのではなく、ペンを往復させて引いていたことがわかる。日頃の仕草がわかってうれしい。

その6、コンベンションのチラシ裏の筆算

1992年(ライバー最晩年)のコンベンションのチラシの裏に、6000*12の筆算が書いてある。

https://id.lib.uh.edu/ark:/84475/do50515p074

なんの計算かしら。6000ドル*12ヶ月ということはなさそうだし、語数の計算?

それと、一の位のゼロを省略してる。ライバーは、いい意味で大雑把な性格だった、すくなくともそのときは、大雑把な気分だったのかもしれない。

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