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社内での企画設計の徹底が 製品の質と速度を一段上げる

紀元前2000年からあると言われている“鍵”の歴史を変えようと、スマートロックを展開する株式会社フォトシンス。2014年に設立してから6年間で、 累計4,500社に導入された 「Akerun」 はバージョンを更新し続け、日本中の鍵 の 形 を 変 え て い こうとし て い る 。 友 人 4 人 で は じ め た ハ ード ウ ェ ア ベ ン チ ャ ー が “ 製 品 ” を つ くり 、 世 の 中 に 広 げ て い くま でにどのような変遷があったのか。社内外と喧々諤々作り上げていった現場を、代表取締役社長河瀬航大氏に聞いた。(本記事は、リバネス創業応援Vol.20 2020年12月発刊に掲載した内容の再掲となります。)


試作品の開発室は “五反田のマンションの一室”

 世界初の後付けスマートロックが 誕生したのは、ちょっとしたきっか けであった。「友人 4 人と飲み会をしていた時に、1 人が鍵を無くして しまった話から、鍵への様々な不満 話で盛り上がりました。そして、スマホで鍵を開けられると便利ではないかという発想に至り、集まっていたメンバーに大手企業のエンジニアだった人間がいたので、翌日に秋葉原で買い物をして、当時、開発拠点 にしていた五反田のマンションで実際に作ってみたんです」。最初はビジネス化は考えず、便利ツールとして興味ある人が使ってくれればよい想定だったが、2014 年 7月に日本経済新聞に取り上げられ、News Picks のニューストップにもなり注目されたことで起業を決意した。そ して、9 月のリバネス主催の第 2 回 テックプラングランプリの数日前に会社を登記し、スタートを切ったのだ。テックプラングランプリでは会場賞で 1 位を獲得し、多くの人に支 持をもらっている手応えを感じた。 しかし、本格的に“製品”として量産をするとなると、今まで 3D プリ ンタなどで試作をつくるのとは全く話が異なる。そこで、河瀬氏たちは 秋葉原界隈などのものづくりに詳しい方々に相談し、誰に何をお願いす ればいいかを学ぶ日々を送った。そして、ある時、縮小していく“ガラケー ” 事業の次の事業を探していた量産事業を営む会社の社長と出会い、理念と目指す方向性に共感してもらうことができた結果、実績がなく、十分 な資金もないベンチャー企業であっ たが協力いただけることになった。

通い学びの繰り返しで 初期量産の技術を蓄える

スマートロックは機械的な構造に加え、電子回路、通信技術など様々な技術を組み合わせた IoT 機器である。初号期を一緒に作ったガラケーの量産会社は、同様な複合技術で構成される “ ガラケー ” でそのノウハ ウを保有していた。そこで、元々、学生時代から機械設計やソフトウェ ア開発を手掛け、大手メーカーでの IoT システムの開発を経験してきた創業メンバーで、現在は取締役兼開発部部長の熊谷悠哉氏が、その会社に通い詰めるアプローチを取った。 先方は設計図の書き方、回路の最適な配置、コストメリットの出し方な ど、手取り足取り教えてくれた。先 方が東京の会社で距離が近く、コミ ュニケーションがしやすかった点はとてもラッキーだった。 その会社に通い詰めた結果、会社設立から1 年を待たずに家庭用の初号機「Akerun Smart Lock Robot」 を市場に出すことができた。ここで重要な点は、量産の開発を相手側に丸投げするのではなく、社内で学びながらも設計を全てできるようにしたことだ。その結果、フォトシンスはコア技術を蓄積することができた。 さらに製品が出来上がって多くの人に使われるようになると、そこから のフィードバックへの対応が必要になるが、自社内にメカ設計、電子回路設計、アプリエンジニア、Web エンジニアなどのフルスタックの開発メンバーがいるので、迅速に改良を実現することができたという。

リスペクトしあう エンジニア同士の 議論が製品を昇華させる

初号機の市場投入から 2 ヶ月後、 三井不動産と日本ユニシスとの実証実験が発表され、以降はオフィス向けの可能性に拍車がかかる。オフィスでの利用となると、圧倒的に高い品質が求められる。そこで、大きく設計を見直してモデルチェンジを行 い、さらにコストメリットも出すために、大規模な量産が可能な製造パ ートナーとの連携を選択した。「最近、ものづくりベンチャーで設計すら自社で行わずに、ものづくりを全 て外注するところもあるが、そのようなベンチャーは失敗する」と河瀬氏は断言する。本気でメーカーにな るつもりなら、社内で企画、設計は行い、製造パートナーと、お互いリスペクトしながら対等に付き合うことが重要である。実際、フォトシンスでは熊谷氏を中心に、社内で回路設計やメカ、組み込みソフトウェア 等で構成されるハードウェアから、 iOS/AndroidアプリやWebアプリ、インフラ等のクラウドサービス まで全て自社でできるようなエンジニアを抱えている。これによって、 設計、製造、コストについて製造パ ートナーと厳しい意見交換ができ、質の高いものができる。「Akerun はおかげさまで、圧倒的な品質で多くのお客様を獲得できている」と自信を見せる。実際、東京都の 7.4% のオフィスワーカーはいまや「Akerun」でオフィスを入退室しているのだ。

社内エンジニアと突き進む 1,400万ドアのキーレス計画

「目標は日本にある 1,400 万のドアを置き換えたい」と、日本のドアを革新しようとしている。エンジニアを抱えるものづくりベンチャーとして必要なことを聞くと「ものづくりをする人はものづくりに力を入れがち。自分がいいとおもうだけでは売れない。誰の何の課題を解決する か、マーケットをしっかり見よ」と、 ものづくりベンチャーに警鐘をならす。どんな未来を届けるために、自分たちが何をできるのかを、エンジニア自身が常に考えると共に、ワクワクしながら開発を進めていくこと が、社内の文化として大切にしている点だ。そのために、見た目は最初の量産機から変わっていないが、内部の基板や機構、Web管理ツール や UX のアップデートは今も頻繁に行われ続けている。「鍵ってなに?」 と自分の孫がいう、そんな時代が本当にやってくる、未来を創るものづくりの現場を感じた。

フォトシンス年表


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