見出し画像

金子眼鏡を買いました

 眼鏡を取ると美少女になります(挨拶)。

 ◆

 性別も変わるの!?
 まあ今は自認さえすれば性別の転換など容易ですからね。美かどうかはともかく、少であるかはさておき、男が女になるのは簡単になりました。いい時代になりましたね。バ美肉とかもありますし。
 ともあれ。
 えー……眼鏡を買いました。
 なんで眼鏡なんか買ってるんだ、という話になってきますけれども、うーん……元々は「レーシックでもするか」みたいな気持ちを持っていたんですね。「眼鏡持ち歩くのって面倒だし、裸眼の方が楽じゃねえか」みたいな。で、結構真面目に——今年の前半くらいで色々調べたり、自分がもしレーシックを受けたあとの人生について考えたり、まあ準備をしていたんです。で、レーシック経験者から色々話を聞いたりして、「レーシックしても回復するのは視力だけで、老眼とかは普通に発生する。であれば、若いうちにレーシックを受けて裸眼生活をした方が良いよ。どうせ眼鏡を掛けることになるんだから」みたいな助言をいただいたんです。
 なるほど、と。
 なんか、理に適っているぞと、その時は思ったんですよ。「確かに、将来どうせ眼鏡を掛けるなら、眼鏡を掛けていない時代を長引かせるのもアリだな」みたいな感じで。だから裸眼を治療して、眼鏡オフの生活をしよう! と、もう半ば決めていたんです。俺は眼鏡を卒業する! もう美少女になれなくてもいい! 眼鏡人生リフトオフ! くらいに、思っていたんです。

 ただ、ちょっと待てよと。
 将来どうせ眼鏡を掛けるなら、生涯どうせ眼鏡を使うなら、
 まだ若いうちに、自分にとっての最適なフレームを見つけておくべきでは……?
 そもそも僕は眼鏡に対して興味があまりなくて、「どこの店で、どんな眼鏡を買ったか」みたいなことはほとんど記憶していないくらい興味がありませんでした。Zoffとか、Jinsとか、そういうところで安いフレームを買って、あまり気にせず掛けてきていた。フレームもボロボロだし……そもそも普段使いで掛けている黒縁眼鏡なんか、5,000円くらいで買って、かれこれ9年近く掛けている。フレームもボロボロだし、レンズもくすんでいる。でもまあ、見えるしいいだろう、くらいの感覚だったんですよ。コンタクトレンズをする日もあるし、裸眼でも生活出来ないほどでもないし、仕事用にはブルーライトカットの眼鏡を使う日もあれば、そのままボロボロの黒縁を使う日もあって、まあそこに意識を割いていなかった。
 なんですけれど、上記のように「そろそろ、逸品を、一生物を買っても良いのではないか」という想いに至ったわけです。眼鏡のフレームを一生物とするのが一般的かどうかは分かっていないんですが、それでもこう、「この会社のこの型番を使う」というような意識が欲しくなったのです。
 レーシックをやめて、
 良い眼鏡を買おう、と。

 そんなような気持ちになって眼鏡について調べるわけですけれども、昨今のインターネットは(20年くらい前からですが)企業広告であったり、資本の大きい会社への誘導であったりと、とにかく専門的な知識を見つけるのに苦労する環境になっています。まあ悪いことじゃないんですが、なかなかどうして辿り着けない。「一生物 眼鏡 フレーム ブランド 黒縁」とかで検索してみても、僕が欲しい知識は手に入らない。知識は一朝一夕で身に付かないという教訓なのかもしれませんが——とにかく僕は試行錯誤をしていたわけです。
 で、そんなことをTwitter(当時)に呟いたんですね。2023年7月15日のことです。

 あまりに雑然としていて自分でもびっくりするような呟きですが、これに反応をくださった方がいて、どうやら知人に眼鏡博士がいるらしいと。なので、反応をくださった方経由で「とにかく黒縁眼鏡だ!」と思えるような眼鏡のブランドについて教えていただいたんですね。
 すぐにご連絡があって、「TART OPTICAL」だの「MOSCOT」だの「Jacques Marie Mage」だの「MAX PITTION」だのというブランドを紹介いただきました。ご丁寧に商品リンクまでいただいたので、僕はその辺の眼鏡をつぶさに確認することになります。なんですが——うーん! なんか違う! すごい個性があって格好良いんだけど……ち、違う! なんだろう!? 何が違うんだろう……俺が持つ眼鏡じゃねえというか。黒縁が太かったり、丸すぎたり、鼻当ての形が特徴的だったり、なんかしっくり来ない。そもそも、眼鏡の全面というのか表面というのか、丁番部分のレンズ側に装飾が入っているのもそんなに好きじゃない。ないんですが、ブランド品の眼鏡はオシャレが過ぎているので、装飾が多い。過度な装飾ではないんですけれども、なんかちょっと意匠が入っている。
 んー!!!!
 どうしたもんかなー!!!!
 そんな風に思いながら、その紹介頂いた中にあった唯一の日本メーカーと思しきブランドである『金子眼鏡』に一縷の望みを託してみたところ——なんか、良さそうだったんですよ、これが。ぱっと見だったんですけれども、なんか良さそうだと。で、色々調べて行くうちに、知人が同じく金子眼鏡を使っているだとか、公式サイトを見るとどーも僕の好きそうな信念に基づいた仕事をしていそうだとか、そういうところが気に入り始めるわけです。見た目も大事だけれど、僕は歴史や縁を結構重んじるタイプなのです。

 翌週。
 2023年7月22日のことである。
 兄が遊びに来ていて、何かの用事で大都会渋谷に行ったんですね。僕も兄貴も割と服とか靴とかが好きな人種なので、あの時も確か兄貴のバスケットシューズを見に行ったり、僕のジーパンを見に行ったり、Fenderというギターメーカーの旗艦店がオープンしたから見に行こうぜ! みたいな感じだったかと思います。僕はそれまでの1週間で、金子眼鏡の歴史やら何やらについて結構頭に入れていたんですけれども——お出かけの予定の中に、金子眼鏡は入っていなかったんですね。いつか買おう、くらいの気持ちで、長い計画をしていたのです。
 ただ、あれ? ……渋谷をうろうろしているときに、ハレ……? なんか、渋谷パルコ……渋谷パルコってなんか、なんかあったはずだぞ……みたいなのに襲われまして。渋谷パルコに用事のある人生なんか送っていないはずなんですけれど、あれ……最近どっかでこの字面を見た気がする……なんだっけ……思い出せない……でも気になる……ってんでパルコに入って店舗リストを眺めていると、そこに燦然と輝く『金子眼鏡』の文字。ああそうだと。ここに行きたかったのだと。
 何の思惑もないままとりあえず店舗に入ってみる。と、凄まじい量のフレームが陳列してある。なんか雰囲気もお洒落だ。店舗入り口付近にあるケースに入ったフレームを見てみる。なんか豪華そうだ。値段を見てみる。90万円。
 きゅ、きゅうじゅうまんえん……。
 時給90万円の仕事を1時間しないといけないくらい高価です。えへー! すごいところに迷い混んでしまった……しかしながら、眼鏡が欲しいという気持ちは本物である。僕は意を決して店内に押し入り、いくつかの黒縁眼鏡を試着してみる。うん。どれも格好良いが、やっぱりちょっと装飾があったり、特徴がある。そう……これは僕の道具選びにありがちなことなのだが、僕は『特徴』を求めていない。いやもちろん、格好良いものが好きだ。ギターなんかは、真っ赤で王道という感じのギターである『ES-355』という機種を愛用しているけれども、これはなんと言うか……『王道』なのだ。キーボードに関しても、HHKBの雪モデルを使っているけれど——これにしたって、『洗練』なのである。要は、無駄な装飾も、無用な特徴も必要としていない。欲しいと決めたら、それ以外は許容出来ないのだ。
 まあ完全に個人の趣味の話なわけだが、うーん……僕の中では「黒縁眼鏡」って言ったら「黒縁眼鏡」なのだ。「縁の太い黒縁眼鏡」は、あくまでも「縁の太い黒縁眼鏡」なのだ。「銀色の装飾が付いた黒縁眼鏡」は、どうしたって「銀色の装飾が付いた黒縁眼鏡」なのである。どういうことかって言うと、僕は「最強剣」が欲しいのであって、「打撃属性&火属性付与済の最強剣+29」が欲しいわけじゃないのだ。シンプルでいい。他に何も欲しくない。「黒縁眼鏡」より先に他の特徴が顔を出すようなものは欲しくないのである。だけどやはり差別化を図る必要があるんだろうし、色々特徴を付けたがるのは世の常である。だけどどこかにはあるはずなのだ、僕が求める黒縁眼鏡が。

 眼鏡屋で試着なんかしていれば店員さんが気を利かせて声を掛けてくれるので、「どんな眼鏡をお探しですかぁ?」
「あ、黒縁眼鏡が欲しいんです」
「こちらなんかどうですかぁ?」
「えっと……あ、黒縁眼鏡が欲しいんです。装飾とかなくて……あの、シンプルな……THE・クロブチという感じの……」
「こちらとか……」
「あー……その、変な形をしていないのがよくて……」
「こちら……とか……?」
「あ、で……装飾がない方がよくて……」
 というような面倒な会話をして、まあ結局店員さん的には「おいおい変な客が来ちゃったよ」という感じだったかとは思いますが、気に入る黒縁が見つけられず、僕は「金子眼鏡にもないのかもしれないな……」と意気消沈しかけていたのです。
 が。
 が!
 僕はそこで、「僕の欲しかった眼鏡」を見つけます。正確に言えば、「僕の欲しい黒縁眼鏡の黒じゃない色」の眼鏡です。ブラウンというのか、鼈甲というのかは分かりませんが——とにかく、「良い形」の色違いを見つけます。
 それが、『KC-04』という型番でした。
 わざわざTwitterにメモをするほどの衝撃だったようです。

 完璧だったんですが——黒じゃない。なのでまた店員さんに「すみません、この型の黒縁はありますか?」と尋ねると、存在はしているが、今は在庫がないという。まあ仕方のないことだ。取り寄せも出来ると言うが、確定で買うかは分からないのに取り寄せてもらうのも忍びない。というかそもそも、地元(地元?)の横浜近辺にも『金子眼鏡』はたくさん存在する。この『金子眼鏡』というブランド、「カネコガンキョウ」と読むらしいのだが——なんと実店舗販売しかしていないらしい。一部の商品ブランドを除いて、オンラインストアで購入出来ないのである。つまりどういうことか。
 足を使って探し回らなければならない、ということである。
 ————金子眼鏡行脚である。

 ◆

 アンギャー!!
 まあともあれ、僕の中でなんとなくイメージが付いたし、その『KC-04』という型番は良さそうである。後で調べた感じ、黒縁版のそのモデル——つまるところ『KC-04BK』なわけだが、インターネットで画像検索してみたところ、かなり自分の好みと合致する。過度な装飾がなく、特徴がなく、主張もない。で、どうやらこの手の眼鏡の形は『ウェリントン型』と言うらしい。ファッションに関しては無知の一級品である僕なので寡聞にして知らなかったのだけれども、眼鏡には基本的には『型』が存在しているらしい。へー……知らなかった。でも『ウェリントン』という響きは非常によろしい。見比べてみると、今まで僕が使っている安物の黒縁眼鏡も、ウェリントン型であった。へー。
 まあそんなこんなで欲しい眼鏡は決まったのだけれども、横浜の実店舗に行く前に、夏期休暇に入ってしまった。ので、実際に金子眼鏡行脚に出たのは3週間後、2023年8月20日のことであった。

 あまりの暑さの中、眼鏡行脚をして気が狂っている様子が見受けられる。
 実際、最初に目を付けていた『そごう横浜店』の中にある『金子眼鏡』では、件の『KC-04BK』は見つからなかった。一応、在庫があるかもと思って店員さんに「すみません……黒縁眼鏡を探していて……」と尋ねてみると、「黒縁はこちらです」と案内される。もう既に見ているコーナーだったし、そこにないことは確認している。なので「実は欲しい型番があって……」と言う。「はい」「KC-04という型番なんですが、在庫ありますか?」「お調べします」と言って、どうやらあまり型番で把握しているタイプの店員さんじゃなかったのか、奥にいる偉そうな人と何やら会話をして、結局は「ありません」ということになった。まあそうだろう。仕方がない。結構小さめの店舗だったし。
 しかして諦めず、近郊にあるもう一店舗に向かった。『JOINUS』という、なんかよく分からんショッピングセンターである。横浜駅は様々なショッピングセンターに直結しているので自分が今どの店の範囲にいるのかがなかなか分からないのだが、とにかくそこは『JOINUS』であった。どちらかと言えば店舗と言うよりは「通路の端々に店がある」という雰囲気である。人混みに巻き込まれながらうろうろと練り歩いて、目当ての『金子眼鏡』を発見。すぐに黒縁眼鏡——特に『KCシリーズ』と呼ばれる眼鏡が陳列されているコーナーへ向かう。余談だが、KCシリーズとは、『金子セルロイド』の略称であるらしい。つまりセルロイド製の眼鏡である。セルロイドと言えばギターピックの材料に使われているでお馴染みなので、昔から馴染みがある。余談であった。
 とにかく片っ端からテンプルの位置に書かれている型番を確認する。KC-35、KC-18、KC-95……色々見るに、やはり04がない。まあ型番を見れば分かる通り、かなり初期モデルということになる。だが、驚くくらい、1桁番台のモデルが置いていないのである。
 ここにもない。
 どこにもない。
 もはや、新品はこの世に存在しないのか……?
 中古のフレームを買うしかないのか……?
 でも実店舗で買いたい……僕はそういう男だ……。
 別に中古品が嫌いなわけじゃないんだが、気に入ったものは実店舗で買いたい。何故なら……そのブランドに存続して欲しいからだ……。
 色々悩んでいると、一見しただけで出来ると思わせる風格を漂わせた店員さんに声を掛けられる。「よかったらお気軽にご試着ください」と、声の掛け方もスマートである。僕はその一言と、声を掛けてきたタイミングでピンと来た。
「何かお探しですか」ではない。
「よかったらお気軽にご試着ください」である。
 この世界に稀によく居る、出来る風格のある店員さんは、無闇矢鱈と接客をしないのだ。特に僕は、結構値の張るタイプの道具を買いに実店舗に行くタイプの人間なので、こういう機微に敏感である。大抵の場合において、出来る店員さんは往々にして無意味な接客をしない。逆に言えば、声を掛ける前から、無言の接客が始まっている。
 もはやこれは、熟練の武士同士の間合いの取り合いに近い。
 この声かけの意図を妄想すると、次のようになる。
「客が来たな。見たことのない顔だ。あ、こいつどうやら何かを探しているっぽいぞ。あのコーナーにしかいないのに、試着もせずにテンプルばかり確認している。ということは目当ての型番があるんじゃないか? ……なるほど、とは言え、いきなり『何シリーズをお探しですか』と聞いて相手が萎縮したらまずいから、無難に声を掛けて、客側から声を掛けやすい状況を作り出してやるか——」
 意外とこういう出来る店員さんは多い。で、大抵が店長クラスである。
 声を掛けられた僕はここぞとばかりに「すみません、あの……KC-04BKという型番を探しているんですが……」と尋ねる。ここで僕は間合いを詰めた。相手が僕より手練れであることを感じ取ったからだ。「黒縁眼鏡を探している」などという前置きは不要と判断したのである。一気である。
 そこからの店員さん(恐らく店長)の動きは早かった。「あー、04……ちょっと待ってくださいね、確かあったはずです」と言って、一瞬僕の前から姿を消し、少し離れた陳列棚の下にある抽斗を漁る。一直線である。どこに何が置いてあるか把握しているのだろう。在庫数も恐らく把握している。数分待って、店員さんが袋に入ったフレームを持って戻ってくる。「良かったです、ひとつだけ残ってました」と言って、僕にフレームを手渡してくれる。
 KC-04BKとの初邂逅であった。

 非の打ち所がない。
 僕が想像する上で、最も完璧な『黒縁眼鏡』である。
 まあ、後で色々調べた感じ、実は『KC-02BK』もかなり理想に近い形をしている。ただ今のところ、04の方がフレームに堅牢性があり、縁のラインも存在感があることから、こちらに軍配が上がっている。素晴らしい。完璧である。ここまで自分の理想を詰め込んだ眼鏡がかつてこの世にあっただろうか? いやそりゃあったんだろう。僕が知らないだけで。想像は現実を超えないのだから。
『金子眼鏡』は1958年(昭和33年)に眼鏡卸問屋として創業し、1987年(昭和62年)頃に自社ブランドの眼鏡を開発したと公式サイトに記述があります。となると、少なくともKCシリーズは平成初期に生まれたシリーズかと思われる。歴史あるシリーズとは言いがたいものの、既に最新が『KC-96』となっているので、かなり初期から作られ続けているモデルということになりそうです。
 ともあれ。
 そんなこんなで試着してみて、掛け心地を確かめたり、鏡に映る平凡なおっさんを確認した感じ、これで良さそうである。「型番で探してらっしゃるなんて珍しいですね」「別店舗で色違いを見て」「あー、なるほど。初期型なので入荷が少ないんですよ、実は」「やっぱり数字はカウント方式なんですね」なんて会話をしながら、最終的には「これ買います」と決断をした。ほぼ即決に近い。大抵、実店舗に行く前に調べまくってから足を運ぶので、店で悩むことはほぼない。
 すぐにレンズの度を計測してもらって、フレームの微調整をしてもらう。他にも、セルロイドという素材についての注意事項などを聞いたり、保管方法、手入れ方法についても充分に知識を得た。その店にはフレームはあるけれどレンズの在庫が基本的にはない、ということだったので、先に支払いだけ済ませ、1週間後にお渡しということになった。金額にして、44,000円である。眼鏡の値段として、高いのか安いのかの判断も付かないが——まあ、個人的には4万程度で済んで助かった、というところである。

 そして2023年8月27日、ついに引き取りに向かった。
 前回と同じ店員さんに引換券を渡し、整備してもらった眼鏡を受け取る。今もその眼鏡を掛けて打鍵をしているが、今のところは問題はなさそうに思われる。僕という人間の頭がでかすぎる問題で、眼鏡の調整にはいつも面倒をお掛けすることになるのだが——熱処理でそれなりに大きなサイズに合わせてもらったので、現状普通に使える、という状態だ。使っているうちに違和感が生まれる可能性もあるが、店舗に持ち込めば調整は可能とのことである。
 また、2〜3年経った頃にはオーバーホールを依頼するのが一般的であるらしい。セルロイドは熱や汗に弱いので、日々手入れが必要なのは明白なのだが——少なくとも日々手入れを怠らずに使っていれば、基本的には一生物として使えるそうだ。まあ、気に入ったモデルが出ればそれに鞍替えする可能性もあるが、今のところはこの『KC-04BK』を使い続ける予定である。「最近視力が落ちてきた」とか「フレームが古くなってきたから買い換えるか」とか今までもたまに思ってきたのだけれど、「新しい眼鏡を選ぶ」という行為が大嫌いな僕は、かなりの回数見送ってきた。しかし、一度「このフレーム!」というのが決まってしまえば、あとはそれを大切に使えば良いだけなので、精神衛生上、非常によろしい。僕はとかく、選択をするのが嫌いなのだ。新しく何かを選ぶ、それを今後一生繰り返す、という行為が苦手である。そもそもにおいて、「気に入った物」以外は気に入らない人間なのだ。35年近く生きていれば流石に自分がどういう人間かは分かってくる。僕は色々考えた挙げ句、これしかねえ、という物を選んで、それを大切にし続けるという方が性に合っているのだ。なので今回の『金子眼鏡行脚』は大成功を収めたのである。素晴らしい買い物だった。これで向こう10〜20年近く、僕は眼鏡について悩む必要がなくなったのだ。なんと素晴らしいことか。祝砲でも撃ちたい気分だ。

 ◆

 まあそんな感じで、眼鏡を買いました、という日記でした。
 長い。相変わらず話が長い。
 まあでも——最近そういう風に、色々と使い続ける道具というものを揃えている節があるので、人生が上り調子という感覚がある。靴は買った、眼鏡を買った、キーボードを買った、フォントを買った、ギターを買った。パソコンや服は消耗品なのでこれについては日々気に入ったものを選択するしかないが、それ以外に関してはもう選択する必要がないので、嬉しい限りである。
 あとは椅子と……ジャケットかな。これについて考える必要がある。
 最近、ギターの分割支払いが終わったり、収入が上がったり、飲み歩かなくなったりと、余剰金の発生が多々あるので、これを機にもう一段階、自分の身の回りの道具選びを最適化していきたいところだ。目星を付けているジャケットは実は40万円くらいするのでこれは検討の余地があるわけだが……まあそれはそれ、40歳くらいまでには身の回りの選択を終えて、緩やかな老後を迎えたいところである。
 というわけで以上、金子眼鏡を買いました日記でした。
 次回はオーバーホール編でお目に掛かりましょう。さようなら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?