見出し画像

断片の人間の断片

視線を横に向ける。
民家の軒下で伸びをしながら欠伸をする猫。
視線を後ろに向ける。
子どもと手を繋いで歩く女性。
視線を下に向けてみる。
なんの変哲もない石ころ。
一つ一つは何も印象がない1コマ。
そんな世界の断片は私に
何も感想をもたらすものではないけれど。
他の誰かにとっては
その人にとっての生活の一片で。
生活はその人にとって切り離せない一片で。
無造作にたたまれないままひっかけれた傘や、
放り投げる様に玄関に転がる靴も
その人に何かしら気に入られて買われて、
その人と歩いてきた過去がある。
それを巡って、
結婚前は靴も傘も整えて、
両親への挨拶の時は
トイレの蓋まで閉めていたあなた。
今では靴は放り投げるように脱ぎ、
傘は畳まないままノブにひっかけて。
旅行から帰ってくると
「やっぱり我が家が1番だ!くつろげるもんな!」って言うあなた。
そりゃ、そうでしょうよ?
くつろぎまくってるでしょ?
なんて、むくれる奥さんに苦笑する旦那さん。
なんてあるかもしれない断片に。
先ほどの石ころも子どもに蹴られた断片なのだろうか。
その断片は私が知らない声を発している。
世界の全てを集められるはずもない私は、
世界の片隅で、断片を集めながら、
日常の断片を繋いで、なにかを作っているような錯覚をみる。
私にとって、誰かにとって長い時間をかけても作りきれない空白のパズル。
瞬きをする刹那の黒も、
断片を連続にみることはできない自分の目を
これからも見続けるための人間の機能だという。

作られなかったパズル。
見つけられなかったパズル。
断片のピースをそっと撫でたい愛しさ。

お題『逸らした視線の先は?』雲の詩沫様
【後書き】
逸らした視線の先にも、目先にも日常の風景が広がっている方の方が多数かと思います。
人の愛とか、観念とか、平和とか大きなテーマは書けません。日常を愛おしく書ける人になりたいのです。
とある方の写真もネタに使いました 苦笑

【ボツ理由】
断片を強調したかったのですが、しつこすぎ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?