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1015 BYD90万人のカエル跳び ポスト分業時代の製造業は

メモ。こんな記事があった。

BYD90万人のカエル跳び ポスト分業時代の製造業は


多様な観点からニュースを考える

深尾三四郎さんの投稿

鴻海グループのiPhone生産拠点(中国の河南省鄭州市)

アップルのスマートフォン「iPhone」は、9月中旬に発売された最新型の上位機種が一部インド製なのだそうだ。中国に集中していた生産拠点を第三国に分散していく。そんな道筋が見える動きの一つだ。

アップル製品の組み立てを多く担う台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の子会社、富士康科技集団(フォックスコン)は100万人を超える従業員を一時抱えていた。「フラット化した世界」といわれたポスト冷戦時代を象徴するビジネスモデルの担い手だったが、最近は米中関係の悪化で中国での従業員数が伸び悩んでいると聞く。

だが、アップルの戦略が変わっても、中国が圧倒的な工業生産国からただちに脱落するとは考えにくい。9月11日付の日本経済新聞によれば、太陽光パネルや風力発電機、車載用リチウムイオン電池の世界シェアは中国勢の合計がいずれも4〜6割に達し、成長余地もまだあるらしい。

二酸化炭素(CO2)の最大排出国である中国が再生可能エネルギー分野で最大の受益者だという事実には困惑させられる部分もある。一方で、中国が国際分業の一翼を担うだけでなく、伝統的序列の破壊者にまでなっているのも現実だ。

垂直統合モデルによる急成長

例えば、電気自動車(EV)で急成長する比亜迪(BYD)だ。自社ブランドのEVやプラグインハイブリッド車、車載用電池が世界市場で存在感を高める一方、創業30年に満たないなかで従業員数が中国を中心に90万人にも達しているというから驚く。自動車最大手のトヨタ自動車(38万人)の2倍以上だ。

技術者だけで数万人単位という。祖業の蓄電池は本来、人手がかかる事業とされるが、日本企業など競争相手の電池や車を分解して解析し、内製化しながらコストと性能で同業との比較優位を広げる役割の人材も多い。リバースエンジニアリング(分解・解析)と呼ばれる手法だ。

BYDがタイで立ち上げたEV工場(24年7月)=ロイター

その結果としての躍進だろう。EV需要の伸びは世界的に減速しているが、手頃なプラグイン車にも強い同社の世界販売はすでに米フォード・モーターホンダ日産自動車と肩を並べるところまで来ている。

日本の金型大手オギハラから製造拠点を買収したことでもBYDは知られる。足りない事業のパーツをM&A(合併・買収)でも補い、「付加価値を中に閉じ込める経営」を粛々と突き詰めていく。鴻海は地球規模で進んだ水平分業型ビジネスモデルの申し子だったが、BYDは中国による垂直統合モデルの先兵といえるのかもしれない。

不規則に繰り返した「水平か、垂直か」

英歴史学者のニーアル・ファーガソン氏が著書「スクエア・アンド・タワー」で「ネットワーク化が優位な時代と階層構造が優位な時代が、不規則に繰り返されたのが過去500年の歴史だった」と書いているのが興味深い。

やや飛躍するが、欧州では中世後期に活版印刷技術が発明され、書物の普及や学問の大衆化が進んで宗教改革や科学技術発展への下地をつくった。フランスでは絶対王政が18世紀末に倒され、共和政が始まるが、ナポレオンの専制政治がまた取って代わった。

現在、勢いがあるのはIT(情報技術)企業や草の根運動などがもたらした世界規模のネットワーク化だという。米「GAFAM」の台頭がその象徴だろうが、ネットワーク化を水平分業、階層構造を垂直統合と置き換えれば、本の出た2018年以後は、垂直統合の逆襲が中国企業の手によって始まっているといえないか。

製造業では、米欧企業の苦境が相次いで表面化している。独フォルクスワーゲンはコスト競争力で中国車メーカーとの開きが拡大し、15年のデータ不正事件に続いて、欧州での工場閉鎖を含む深刻な危機に直面する。

米国ではインテルやボーイング、USスチールが高コスト体質やリーダーシップの弱さ、複雑な労使関係を解消できず、政治の影響が強まる場面も増えた。中国企業と直接対決した結果ではないにせよ、冷戦終結後に進めようとした国際分業体制が行き詰まる一方、「ポストグローバル(地球儀)」時代の経営がなかなか見えてこない現実がある。

デジタル化でも後れの目立つ日本勢

日本企業も対岸の火事ではない。自動車は中国で苦戦し、独壇場だった東南アジアでもBYDなどの攻勢で防戦に追われている。

中国企業は日本から学ぶ立場にあったが、ここにきて日本企業が押され気味にみえるのは、デジタル化の成否による部分もあるだろう。BYDでいえば垂直統合の強みを支えるのは開発から生産、販売までを貫く統一された情報システムだといわれている。

日本企業は部門ごとに長い時間をかけ、システムをばらばらに構築してきた歴史があり、非効率さがめだつ。顧客の声を素早く共有できなければ、アジャイル(俊敏)と呼ばれる短期かつ効率的な開発も難しい。

中国市場での明暗はその差が表れた形であり、歴史の短さゆえにしがらみなくIT時代にリープフロッグ(カエル跳び)できたBYDには有利な状況がしばらく続くかもしれない。

もちろん、競争はこれからだ。成功体験で打ち手が狭まったり、組織が硬直化したりする「イノベーションのジレンマ」にBYDも陥る可能性はある。垂直か、水平かの流れも見つつ、逆襲する日本企業の姿を見てみたい。


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