見出し画像

トレイルデザイン-Appendix M

Mountain Club

Appendix A(Association)でも触れましたが、トレイルを管理している団体に「○○ Mountain Club」という組織があります。日本語に直訳すると「○○山岳会」といったところですが、日本の山岳会とはだいぶ毛色が違うように感じます。ということで、アメリカの山岳会についてちょっと考えてみます。


AMC

アメリカで一番最初に設立された山岳会は AMC(Appalachian Mountain Club)です。AMCが設立されたのは1876年のこと。なんと、あの Sierra Club(1898年)よりも長い歴史を誇ります。AMCはその名の通り、アメリカ東部の南北に連なるアパラチアン山脈の一部、マサチューセッツ州のボストンで誕生しました。

■時代
当時のアメリカがどういう時代だったかというと、ヨーロッパから移り住んだ人々がアメリカ大陸を東から西へ西へとどんどん開拓を広げていき、1800年代後半にはついに「フロンティアは消滅した」と言われるようになっていました。フロンティアを失うと同時に、失われていく”自然を守ろう”という精神が強くなっていました。開発が広がるニューヨーク北部のアディロンダック山地の保護が始まったのもこの頃です。

■AMC設立
そんな中、自然を守り・楽しみ・理解するために、アメリカで最初のマウンテンクラブとなるAMCが誕生したのです。AMCは設立当初からトレイルビルドやメンテナンス、小屋の建設など、トレイルの管理や保全に携わり、トレイルビルドに関する本も出版しています。その130年の経験やノウハウが詰まった『AMC's Complete Guide to Trail Building & Maintenace』は定期的に改訂を重ね、2021年には5th Editionが出版されます。

また、保全活動だけでなく自然を「賢く利用」するための教育や普及活動、ガイドツアーなどのイベントの主催も行っています。

■AMC設立後
AMCが設立された後、アメリカ各地で山岳会が誕生します。1898年にはカリフォルニア州で「Sierra Club」、1894年にはオレゴン州で「Mazams」、1902年には「American Alpine Club」、1906年にはシアトルに 「The Mounteneers」などが次つぎに誕生し、これらの団体は100年以上経った今でも活動を続けています。

■他の国
ちなみに他の国ではどうでしょうか。ヨーロッパで最初の山岳会「The Alpine Club 」(英国山岳会)が設立されたのは1857年のことで、アメリカより。カナダでは1906年に「Alpien Club of Canada」 が設立されました。


日本山岳会

では日本の場合はどうでしょう。アメリカで山岳関連コミュニティが誕生し始めていた頃、ウォルター・ウェストンの勧めで日本にも山岳会が誕生します。それが「日本山岳会」、1905年のことです。山岳の研究を進めることと、日本全国に登山の気風広めるために作られた。

その活動は日本国内にとどまらず、日本人によるマナスル初登頂を成し遂げるなど、日本の登山文化の発展に大きな役割を果たしました。


山岳会の四象限

ここまで各山岳会のホームページなどを眺めていると、「山岳会」の活動や方向性は大きく2つに分けることができる気がします。分かりやすくするために、AMCと日本山岳会を比べてみます。


日本山岳会とは 5つの特色(日本山岳会HPより

1.日本で最初にでき、最も会員数が多い
 登山文化を日本に広め、マナスル初登頂などをはじめ数々の偉業を成し遂げ、山仲間が集う場所として、いまに至っています
2.オールラウンドな山登りをしている
 それぞれの会員がさまざまなスタイル、あるいは自分の技術や体力などに合わせて山を楽しんでいます
3.活動はボランティアで成り立っている
 会は、会員の会費によって維持され、運営は役員をはじめとする会員の無償ボランティアでおこなわれています
4.公益活動を行っている
 2012年から公益社団法人となり、山登りをするだけではなく、公益の活動も数多くおこなっています
5.クラブライフとは?
 日本山岳会は山好きの会員によって構成されたクラブライフを楽しむ会です


AMC'S VISION 2020 Five Strategic Initiatives(AMC HPより

1. Expanding the Size, Breadth, and Strength of the AMC Community
 
AMC has always been about connecting people to the outdoors and actively engaging them in a way that encourages the stewardship and understanding of our natural resources
2. Getting Kids Outdoors
 
AMC’s goal is to make these kinds of transformative outdoor experiences available to as many young people as possible
3. Leading Regional Conservation Action
 
AMC’s long experience in promoting landscape level conservation from Maine to Washington DC
4. Realizing the Larger Opportunity in Maine’s 100-Mile Wilderness through AMC’s Maine Woods Initiative
 
AMC has invested heavily in protecting one of the last great wildernesses in the East
5. Advancing Excellence in Outdoor Recreation and Leadership Training
 AMC has been providing quality outdoor leadership training for well over a century, and is a recognized leader in providing safe and high quality outdoor experiences throughout the Northeast


■地域性
まずは主とする活動の地域です。AMCの場合、活動範囲は広いですが基本的にアパラチアン山脈の範囲が主となります。一方、日本山岳会の場合、各地域の支部はありますが、活動は全国さらに海外にまで渡っています。

AMC  = conservation from Maine to Washington DC
日本山岳会 = マナスル初登頂などをはじめ数々の偉業を成し遂げ

つまり活動の地域が”ローカル”か”非ローカル”かに分けられます。

■目的・活動
次に会の目的や活動の主体です。AMCの場合はどちらかというと、トレイルのマネジメントなど保全活動に主軸が置かれているように感じます。一方、日本山岳会の場合は海外遠征やクラブライフといった登山そのもの追求に重きが置かれていると感じます。

AMC  = the stewardship and understanding of our natural resources、
      protecting one of the last great wildernesses
日本山岳会 = オールラウンドな山登り、クラブライフを楽しむ会

つまり、活動の主軸が”保全”か”登山”かに分けられます。

■四象限
この2つの要素を軸にして四象限とすると次の図のようになります。

山岳会の四象限.001

もちろんこれらは、明確に分けられるものではありませんし、一つの会のなかでも両方の活動が行われていることがほとんどだと思います。これらを便宜的に、ローカルで保全に力を入れている山岳会をAMCからとって「マウンテンクラブ的山岳会」、非ローカルに登山に力を入れている山岳会を The Alipne Club からとって「アルパインクラブ的山岳会」と呼びたいと思います。

アメリカには「山岳会」にかぎらず、この「マウンテンクラブ的山岳会」なコミュニティが多いのではないかと感じます。そして、そういった人たちがアメリカ各地のトレイルに愛着と誇りを持ち、管理し続けているからこそ、アメリカのトレイルが魅力的なものになっているのではないでしょうか。


参考


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?