優しくも残酷な世界(映画すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコの感想ネタバレあり)

※ネタバレも書きますので、見たくない方はご注意ください。

先日、すみっコの映画を見てきました。感想と考察がツイッターでは収まりきらない量になってしまったのでこちらで書きます。

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簡単な感想はタイトルどおりです。悪い人(すみっコ)は誰一人おらず、みんな優しく善意で動いてるので、深く考えず見ればとても感動できるいい話です。ですが、ちょっとでも「あれ?これって・・・。」って考え出すと、とてもつらく、悲しい終わり方でした。

正直なところ、ネット上では期待値を上げまくるような感想が多かったので「流石に大げさだろ」と高を括っていたのですが、実際に見たら「これはきつい・・・。ネットでの感想ですら控えめだよ・・・。」と思いました。

よい話と捉えて終われる方には大変感動できるし、つらい話と捉える方にはとてつもなく心に刺さる、キツイ内容でした。年齢関係なく、誰であれ何かしら刺さるものがあるからここまで盛り上がっているのだと思います。


話の展開

最初は、すみっコたちが絵本の世界に吸い込まれてしまい、様々な世界を旅する話になります。

どのすみっコたちもときに優しく、時に勇気を出して行動し、ちょこちょこギャグも入り楽しませてもらえます。すみっコ以外のキャラクターには、物語を強引でも進行させようとするところはありましたが、基本的には優しいキャラたちばかりです。


話が展開するのは、ひよこ?がみにくいアヒルの子だと思ったらそうでなかったときから。

この辺りから、ひよこ?が少しずつ自分のことを思い出していき、自分は白紙のページに描かれた落書きであり、そのためにどの物語にも存在しない=居場所がないことに気づきます。

すみっコたちは「一緒に来る?」と誘ってくれますが、結局、絵本の外に出ることが出来ないとわかってしまい、自分は絵本の中に残りつつすみっコのみんなが脱出するのを助けて、絵本の世界の大冒険は幕を閉じます。

自分が何者なのかも分からなかったひよこが、すみっコたちと交流することで気づき、ずっと付いてくるだけだった子から、勇気を持って行動する子へと成長して別れるという、王道ながら大変よい話です。

この後、エンディングまでにもう一つのお話があるのですが、それはこの後に書きます。


では、何が残酷なのか?

たしかにひよこ?は成長しました。ですが、結局のところ一人だけ取り残されて終了です。単純なハッピーエンドにするなら、一緒に連れて帰ってめでたしめでたしでよかったはずです。

これは、すみっコの設定そのものにも言えることですが、あの世界のキャラクターは多少なりとも暗い過去を背負っています。食べ残されたり、生まれた場所が生き辛く逃げてきたり、正体を隠して生きていたり・・・。

私は、すみっコの世界には多少の心の傷などを持っていても、それでも頑張って生きていこうというメッセージ性があると考えています。あの子たちは楽しく暮らしてはいますが、自身の理想とは少し違う生き方を続けているのです。ですので、今回の映画についても、都合よくハッピーエンドという展開にはしたくなかった、上手くいかなくても生きていくところを見せてくれているのだと思っています。

ですがこれは、ある意味では残酷な現実を突きつける、とても悲しい終わり方でもあります。ひよこ?は初めて出来た仲間と一緒に生きることを否定されてしまっているのですから。


ひよこ?はすみっコたちとともに生きる選択はできず、最初と変わらずひとりぼっちです。先ほど記述しなかったエンディング前の展開ですが、すみっコたちは元の世界に戻ったあと、ひよこ?が寂しくないように白紙のページの空白部分に絵を描いてあげます。花が咲く仕掛けを作ったり、すみっコたちそっくりのひよこ?のキャラを描いてあげたりして、ほとんど白紙だったページは賑やかに埋め尽くされます。すみっコたちのとても優しい配慮ですね。

・・・よく考えてください、見方によっては何も解決していません。ネットゲームで言うところのアバターをあてがわれ、仲良くなったすみっコたちとよく似た別の何かと一緒にいるだけです。

たしかにひとりぼっちではなくなりましたし、エンディングを見る限りではひよこ?は満足しています。気づかないからこその幸せだって存在するので、決して悪い終わり方ではありません。

ですが、自分をひよこ?に投影してしまうと、本当にそれでよかったのか?張りぼての幸せじゃないのか?といろいろ考えてしまいとてもしんどい気持ちになってしまいました。私が同じ立場なら、これは偽物だと気づいてしまうからでしょうね。


なにより、当然のことですがすみっコたちは完全なる善意でこれらを行っています。無垢で純粋な行為が、時と場合によってはきわめて残酷なことになってしまいます。おそらく、大人たちが考え抜いた末に次善作として行ったのであれば「まぁそうなるよな」くらいで終わっていたと思います。

悪気が一切なく、まじりっけなしの優しさで行われてるからこそ、私はつらさを感じずにいられませんでした。

冒頭でも少し書きましたが、ネットでの評価も納得です。「実質奈須きのこ」「まるで攻殻機動隊」との評がありますが、この残酷さはそれらをはるかに上回るかもしれません。


映画が終わったときにはつらさで泣いていましたが、落ち着いてからパンフレットを見たときに、またうなだれてしまいました。

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どういうつもりでこのような装丁にしたのか、真意は製作者さんの心の中ですが、私には裏表紙にこのイラストを載せることが、最後まで結局はひとりぼっちで本の中から眺めるしか出来ないという暗示にしか見えませんでした。

もちろん一人でも生きていけるという意味かもしれないし、そこまで深い意味は無いかもしれません。あくまで私にはそう見えてしまい余計につらくなったというだけです。


最後に・・・

この映画は、今までの生き方の経験や見方によって、いい話として感動して終わるか、重くのしかかる作品として心を抉られるかは変わってくると思います。


ですが、どちらにしても心に残る名作であることは変わりません。ストーリー以外の部分も、すみっコたちの動きや、ナレーター制にすることで世界観を守って楽しませる努力、絵本という形式に即してちりばめられた工夫などなど、短めの映画ですがしっかりと作りこまれています。

最初は1時間ちょいで1900円は高いなーと思ってましたが、値段分の価値は十分にあります(大人限定上映をして欲しいとか、上映館数を増やして欲しいとか、夕方~夜の時間帯にも上映して欲しいとか、そういった不満はありますが)。


本当に良い作品だったので、ネットの評価に惑わされず、自分だけの感動・評価を見つけて欲しいです。

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