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解説/ ユング心理学


精神科医の「ユング」は臨床心理学で活躍し、その後の心理学の分野に大きな影響を与えた偉人である。

当初、ユングはフロイトの精神分析学に心を惹かれ、フロイトを支持し、共に研究を進めていた。

しかし、その後、二人は意見が対立し、決別することになった。

今回は、フロイトとの違いも含め、ユング心理学について解説したいと思う。


〈目次〉
1.ユング心理学とは?
2.ユングにとっての無意識とは?
3.ユングにとっての「人の心の動き」
4.ユング心理学の代表的な思想
(1)集合的無意識
(2)タイプ論
(3)元型論
(4)ペルソナ
(5)コンプレックス  
(6)影(シャドウ)
5.ユングとフロイトの違いについて
(1)無意識に対する解釈の違い
(2)リビドーに対する考えの違い
(3)診療者・治療のやり方の違い

6.まとめ


1.ユング心理学とは?
ユング心理学とは、スイスの精神科医・心理学者のカール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung)が提唱した心理学のことを指す。

ユングは、『分析心理学』の創始者でフロイトと共に精神分析学を発展させてきた。しかし、フロイトとは「無意識」についての意見が相違したことで距離を置くようになった。

ユングは、「集合的無意識」といった新しい概念を生み出し、「無意識」の領域を明らかにした。

人の心の働きは意識のコントロールや認識を超えた「無意識」の働きが大きく影響する。

このように、自分自身でも意識ができない部分が大半を占めているという考え方に基づく心理学、それがユング心理学である。


2.ユングにとっての無意識とは?

ユングにとっての無意識とは、「個人的無意識」と「集合的無意識(普遍的無意識)」の2つの要素に区別している。

まず、人の心の構造を「意識」「無意識」の2つの領域に分類することができると考え、その2つの領域が対になることで『心』のバランスを保つことができると説いている。

ユングは、意識(自分の知り得る意識)と知り得ない意識(無意識)のバランスが崩れた際に、精神疾患が生じると考えた。


3.ユングにとっての「人の心の動き」
ユングにとっての「人の心の動き」は、「思考」「感情」「感覚」「直観」の4つの機能があると示している。


4つの機能で「どれが最も働くか?」で人の心の動きをタイプ別に分けている。

人の心の動き
①思考
物事を理に適った捉え方をする心の機能。
理屈で考えようとするタイプ。
■具体的に
「それを証明する根拠は?」
「この作品はいつ・どんな意図で作られた作品なんだろう?」

②感情
好きか嫌いかで判断する心の機能。
快・不快で物事を捉えるタイプ。 
■具体的に
「この仕事はそもそも好きなことか?」
「思考」と正反対の機能をしている。

③感覚
物事を「そのまま」捉える心の機能。
あるがままで感じ取るタイプ。 
■具体的に
「このギターのニュアンスは○○の曲と似ているかな」
「〇〇の味付けのおかげで〇〇の料理が美味しいと感じる」

④ 直観
物事を思いつきで判断する心の機能。
ひらめきで物事を捉えるタイプ。
■具体的に
「この出来事は〇〇を予知している」
「感覚」と正反対の機能をしている。

人は、「なんとなく好き・嫌い」で付き合う人を選別したり、「〇〇がこうだから好き」などのこだわりで食事を選んだり、「今でなければ後悔する」という勘で行動をする人と、さまざまである。

ユングは、人の心の動きに注目したことにより、人間の心の特徴について認識を深めた。このことを治療や研究に役立てていた。


4.ユング心理学の代表的な思想
以降、ユング心理学の代表的な思想について解説していく。

(1)集合的無意識
ユング心理学の代表的な思想の一つ目として「集合的無意識」がある。

集合的無意識は、普遍的無意識とも呼ばれていて、昔から現代まで変わらない、人間の無意識の根底となる心理構造のことを指す。

例えば、「ふくよかな体型の女性を象った土偶」があったとします。

この土偶を見たときに「優しい母親的なものを感じる」とイメージが浮かぶ場合、古代から伝わる神話・伝説、芸術、個人が見てきた夢などが影響している。

ユングは、物事を捉えるとき『人類の心の中で脈々と受け継がれてきた“何か”がある』と説いている。

このように、想像力の原点となる無意識の領域のことを『集合的無意識』という。

(2)タイプ論
ユング心理学の代表的な思想2つ目は、タイプ論である。

タイプ論とは、人間の気質を「外向的な人間(外向型)」「内向的な人間(内向型)」に分類する思想のことを指す。

・外向型
意識(心のエネルギー)が外側に向いている人。

・内向型
意識(心のエネルギー)が内側に向いている人。

外向型の人は、とても社交的で世の中の流行に敏感であり人々の動きに左右されやすい傾向がある。

一方、内向型の人は控えめで我慢強く自身の気分に左右されやすい傾向がある。

あくまで気質なので、必ず上記のような性格になるという訳ではない。

また、どちらが「良い・悪い」などはなく、人の性格を定義するものではない。

但し、タイプ論を理解することで、相手がどっちのタイプかを見極めることができれば、人付き合いに役立てることができる。

(3)元型論
ユング心理学の代表的な思想3つ目は、元型論である。

集合的無意識で「根底に想像力の原点となる出来事がある」と解説したように、それにより人間の無意識が従うこと(パターンがあること)を「元型(アーキタイプ)※」という。

※「元型」(アーカタイプ)とは、人間に生まれ持ってそなわる集合的無意識で働く「人類に共通する心の動き方のパターン」のことである。

■代表的な元型
①『グレートマザー』・『老賢人(オールド・ワイズ・マン)』

『グレートマザー』『老賢人(オールド・ワイズ・マン)』は、日本の縄文土器、世界の古代文明の遺跡などで表現されている。

このような土偶は、形はさまざまもので表現されていたとしても、「命を生みだす母親」「権威性があり男の成長の最終点」という共通するイメージがある。

人によってイメージはさまざまだが、人類の心の中は「母親元型」「父親元型」が存在していることをユングは論じた。

②アニマ・アニムス

「アニマ」は、男性の集合的無意識のなかの一人の女性が影響されていて、「アニムス」は、女性の集合的無意識のなかの一人の男性が影響されている思想のことである。

例えば、普段の日常のなかで、とても穏やかで大人しい男性が意外にロマンチックに憧れていたり、反対に可愛らしい顔立ちの女性が男前な発言をするといった人を見たことがあるだろう。

ユングは、このような人間には「アニマ」と「アニムス」の元型があると論じている。

アニマ:男性のなかの「女性像」「女性的」な部分のこと。
アニムス:女性のなかの「男性像」「男性的」な部分のこと。

(4)ペルソナ

ユング心理学の代表的な思想4つ目は、ペルソナである。

ペルソナとは、人間の外的側面の心理的な「仮面(顔)」のことを指す。

自分達が生活していくうえで、「職場での顔」「家族といる時の顔」「商談の時の顔」「〇〇会社の営業担当の顔」と場面や地位など、人によってさまざまな仮面がある。

ユングが論じたペルソナは、「人間は仮面を被って日常を暮らしている」という思想である。

(5)コンプレックス  
ユング心理学の代表的な思想5つ目は、コンプレックスである。

現在の心理学・精神医学用語で「コンプレックス」とは、記憶・衝動・欲求などのさまざまな心理的な感情が複雑に絡み合ってできた劣等感(観念)のことを指す。

ユングが論じたコンプレックスは、「感情に色をつけた心的複合体」である。

簡単に解説すると、「自分は〇〇が劣っている」という劣等感を通り越して、さらなる複雑ないろんな感情が入り混じることで生じる感情のことを指している。

なぜか自分自身でも感情をコントロールできないほど怒りが生じたり、感情的になってしまったりする複雑な心のことを、ユングが論じた「コンプレックス」の概念に含まれている。

(6)影(シャドウ)

ユング心理学の代表的な思想6つ目は、影(シャドウ)である。

影(シャドウ)とは、無意識の領域のなかに歪んだ形で存在するものを指す。

例えば、下記のように思っている人がいたとする。

・お金に執着がある人は汚い
・稼いでる人は、なにか裏がある
・お金持ちは性格が悪い

このように思っている人は「お金」に対して、なんらかの「影(シャドウ)」があると考えられる。

実際には「お金が大好き」「経営を成功させてお金を稼ぎたい」など、本当の望み(本当は生きたかったもう1人の自分)が隠れているかもしれない。

このように、ユングは無意識のなかに隠れている不健全な「心の暗部」が日常のなかで影響を及してしまうと論じている。


5.ユングとフロイトの違いについて
ユングとフロイトは、人が行動する時は無意識の力によって決定されるといった「精神分析学」の考え方に共通点があり緊密な関係を結んでいた。

ユングは、精神分析学の創始者のフロイトから教えを受けていたが、考え方に違いが生まれたことでフロイトから離れたと言われている。

以降、同じ心理学(無意識)の研究をしていたユングとフロイトの違いについて解説する。

(1)無意識に対する解釈の違い
「無意識」に対する解釈に違いがあること。

ユングにとっての無意識は、「個人的無意識」と「集合的無意識(人類が普遍的に持つ無意識の領域)」の2つの領域が存在すると言う。

一方、フロイトにとっての無意識は、「個人の持つ領域」だけだと言う。

このように、ユングとフロイトは無意識に対する考え方が異なっている。

■ユング
・意識と無意識は互いを補っている関係。
・無意識には意識とは正反対の別の自分が隠れている。
■フロイト
・意識と無意識は対立的な関係。
・無意識は過去の記憶や衝動を入れる領域。

(2)リビドーに対する考えの違い
リビドーに対する考えに違いがあること。

リビドーとは、精神分析学で用いられる用語で簡単に言えば「性欲」の衝動を生む本能的なエネルギーのことを指している。

ユングはリビドーを「一般的な生命の一部」として使用しているが、フロイトは「人間の行動エネルギーの動機は、すべてリビドーから来ている」と説いている。

例えば、恋愛のパートナーを選ぶ際にユングは「人間は性生活も重要視しているが価値観や話し方、経済面も含めて選ぶ」と言う。一方、フロイトは「人間は性生活の観点のみで選んでいる」と言う。

このように、精神分析を行う時に「性」に対する考え方、重点の置き方に違いがある。

■ユング
・『性』は生きていくうえでの1部に過ぎない。
・ポジティブなもの。
■フロイト
・リビドーは、ただの性的なものに過ぎない。
・ネガティブなもの。

(3)診療者・治療のやり方の違い
診療・治療のやり方の違いがある。

同じ精神分析学を研究していたが、診療していた患者に違いがあったと言われている。

ユングは主に「統合失調症」を患っている患者を診療していました。一方フロイトは、「神経症患者」を多く診療していた。

そのことによって、2人の治療のやり方に大きな違いが生まれた。

ユング「夢分析」、フロイト「自由連想法」

ユングが用いていた「夢分析」とは、日ごろ眠っている時に見た夢を語ってもらい分析していく方法のことである。

夢分析は「無意識」の領域にある情報を把握することができ、患者が「何を考え」「どんなことを伝えたいのか」。患者の心や意識を把握していく技法のことを指す。

フロイトが用いていた「自由連想法」とは、無意識の領域を把握するために、心に浮かんだ感情や事柄を言葉にするように促す技法のことを指す。

■ユング
・夢こそが未知なものを伝えてくれる。
■フロイト
・夢はただの願望充足である。


6.まとめ

ユングは、無意識には「個人的無意識」と「集合的無意識」の二つの層があると論じた。

ユング心理学は、「集合的無意識」といった新しい概念を生み出し、「無意識」の領域を明らかにしています。

人間の無意識こそが、意識や心を分析するためには重要な要素だと主張し、「意識」と「無意識」のバランスが崩れた際に、精神疾患が生じると考えた。

フロイトとユングは、決別することになったが、それぞれ独自の理論を提唱し、精神疾患の治療に役立てていった。

考えや主張に違いはあるが、両者は心理学の礎を築いた偉人であることは言うまでもないだろう。


参照元: 「ラーニングエッジ」Webサイト

以上

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