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成都詩祭レポート その4:ショータと沈没する

(恐ろしいことにまだ9月12日、詩祭は始まってもいませんが……)

ビールと非キンカリ的存在を食した後、ショータとふたりでまた歩き始める。

うだるような暑さだ。

腹を出して歩きたくなる気持ちもよく分かる。

「孟徳成鼻煙」という看板を掲げた店がある。何だろう?ふらふらと入ってゆく。ショータはおっかなそうに後ろから付いてくる。

狭い店の中には古い肖像画や肖像写真、なにやら有り難そうな漢字の列、印籠めいた小さな缶やガラス瓶。わかった!嗅ぎタバコの店だよ、ショータ。この人形見てごらんよ。ヤク、やってるよ。

お姉さんがガラス瓶から金属製の耳掻きみたいな匙で少量の(それこそ耳垢ほどの)煙草を取り出し、僕の指先に載せてくれる。人形を真似て鼻の穴に近づけ、勢いよく吸い込んでみる。映画でみるコカインの吸入にそっくりだ。

キュイーン!という脳への衝撃。酔いがいっぺんに吹っ飛んで、くわっと瞠目。能書きを読むと、疲労回復だの意識明瞭だのと書いている。やっぱり覚醒剤じゃないか?ショータもいそいそと指を差し出す。

僕は30グラム入りの缶、ショータは60グラム入りのを買って、頭スッキリ、シャキシャキと店を出てゆく。

寛窄巷子(Kuan Zahi Alley)のすぐ南側にある琴台休閑園(Qintai Recreation Zone)というところに行ってみよう、ということになる。

人民公園の前を抜けて。人民は休息をとっているようだ。

地図を手に裏道に入ってゆく。僕は基本的に観光地よりも普通の路地を歩く方が好きなのだが、ショータは汚らしいところだなどとぶつぶつ文句を言っている。

あ、雀荘と美脚。

一部の人民は勤労している。

再び大通りへ出る。門をくぐって賑やかな商店街へ。

チャイナドレスの店。ショータが珍しく自発性を発揮して、自ら入ってゆく。値段を見てすぐに出てしまう。「娘の土産に思ったんだが……」と言いながら首を振っている。そうか、娘がいたのか。彼にも家族があったんだ。

京劇の芝居小屋が並んでいる。

通りを渡ると……

……男が路上で扇風機を回していて、公園の入口が見えてくる。上野の不忍池みたいな佇まい。

別の男はひとりで笛を吹いている。

角を曲がる。

どこからともなく、何かを掻き混ぜるような、乾いた、それでいて柔らかな音が響いていくる。

麻雀だ!

あたり一面に雀卓。

池の向こうでも……!

それぞれに飲み物やスナックを持ち寄って、寛いで、それでいて真珠の首飾りなんかかけてお洒落もして。ここで何世紀ものあいだずっとこうしてたんじゃないかって思えてくる、泰然として悠々たる感じだ。

池のほとりに陣取って、勝手知ったる雪花ビールを頼む。

おばさんが全然冷えていないビールを持ってくる。ショータは憤懣遣る方ないという顔をする。そこで敢然として冷えたビールを要求するかと言えば、もちろんそんなことはなくて、悄然と生温いビールを啜るのだ。

僕はゴクゴクと呑んでみせる。いやあ、実に不味い。あまりにも不味すぎて、むしろ爽快ですらある。

空には厚い雲………

……はっと目を覚ます。いつの間にか眠っていたらしい。隣のショータも首を垂れ、目を閉じている。

寝息をついているのかどうかも分からない、まるで死顔のような静かな寝顔だ。

胸の中で僕は笑う。僕らはここで何をしているのだろう?

そしてまた目を瞑る。

(この項、取り敢えず終わりにします)


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