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ミュンヘン映画祭(7)NAMME: 山中で聖なる水を守る父と娘の物語


ジョージアを舞台とした、村の泉を守る一族の物語。長年その役をになってきた父は老い、息子たちは都会へ出てゆく。末娘だけが父のもとで助手を務め、伝統と秘儀の継承に勤しんでいる。彼らは水の護り守であると同時に、病気の治癒者(ヒーラー)でもある。泉の源には一匹の魚が住んでいる。水と魚を通して、彼らは共同体の生命力そのものを護り、労わっているのかもしれない。

川の中腹に工場が出現する。機械の騒音に静寂が破られ、川の水が白く濁る。泉の魚は弱ってゆく。老父は水の品質分析を大学に勤める知人に依頼するがはっきりしたことは分からない。娘は父を支えながらも、「自分はどうして普通の女として暮らすことができないのだろう」という問いから逃れられない。

全編を通してセリフは少なく、音楽も控えめで、水の滴り流れる音だけが溢れてくる。画面にはしばしば霧や霞がかかっていて、水が空とが絶え間なく交わっていることを思い出させる。登場人物たちはともすればその霧の中に吸い込まれ、かと思えば不意に現れる。

その世界はヨーロッパよりも日本に近いように見える。かつては日本も水の国だった。良質の水に恵まれ、その味の微妙な違いを感知する能力を育んできた。だが今では、それも瀕死の危機に晒されている。この映画が、ジョージアから日本を含むこの星全体に発された挽歌のように思えた。


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