見出し画像

ミュンヘン映画祭(2) Diamantino:現代ポルトガルの政治状況を風刺する知的な寓話

明らかにポルトガルサッカーのスーパースター、クリスチアーノ・ロナウドをモデルにした奇想天外な政治風刺劇。ポピュリズム政治と、難民問題と、欧州離脱と、マネーローンダリングと、クローン人間が入り乱れる。ポルトガルって、スペインとはまるっきり異なる不思議な想像力と知性に満ちた国なんですねえ。

彼がピッチに立ってゴールを狙う時、ふさふさした毛皮の可愛い(けれど巨大な)子犬たちが現れる。場面の設定はまさに今、ロシアで開かれている2018年W杯の優勝決定戦。残り時間一分、ポルトガルが0−1で負けている。彼はペナルティーキックのチャンスを得る。過去の成功率は95%だ。でも外してしまう。試合の前日、家族で出かけたクルーズの途中に遭遇した難民の女の記憶が、ふさふさの子犬たちの幻想をかき消してしまったからだ。

折しもこの映画を見た6月30日、欧州議会ではメルケル首相が連立政権崩壊の瀬戸際に追い詰められて、周縁の国々と難民受け入れの協議を重ねていた。映画の中のスーパースターは、栄光の座から引き摺り下ろされた後、EU離脱を目論む民族主義的政党の看板に祭り上げられる。

偶然その翌日、フラナリー・オコナーの中篇小説「Displaced Person」を読んで(というかAudibleで聴いて)びっくりする。なんと第二次世界大戦直後のアメリカ南部を舞台とした「難民」の物語なのだ。ここでの難民はホロコーストを生き延びて逃げて来たユダヤ系ポーランド人一家。農園で勤勉に働く彼らに対して、以前から雇われていた白人労働者が反感と憎悪を募らせる。そして訪れる悲劇。

決して昨日今日の問題ではない、むしろ人類の宿痾と言ってもいいような「難民問題」。それをこんなにも軽々と、知的に扱えるのだと教えてくれた一本である。ちなみにこの映画を観た日の夜、ポルトガルはウルグアイに破れて決勝リーグから敗退した。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?