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ミュンヘン映画祭レポート(3) CARMEN & LOLA :ロマの少女たちの(同性)愛と自由の物語

49歳の女性監督が30年の下積み生活を経て、初めて撮った作品。登場するのは二人の少女をはじめとしてほとんどがジプシー(ロマ族かどうかは分からない)だが、プロの俳優は一人も使わず、全て普通の人たちだという。上の写真の左がカルメン、映画の中の設定は17歳だが実際に撮影した時は15歳だったそうだ。右がローラ。17歳を目前とした16歳という設定。

映画はカルメンの婚約が決まり、祝いのパーティが開かれるところから始まる。ジプシーの社会では未だに女の子は高校へは進まず、16・7ともなれば結婚して子供を産むのが何よりの勤め、家族の幸せであり、本人のためでもあると考える人が大半らしい。その背景にはジプシーに対する外の世界の偏見と差別がある。仲間同士で結束して、助け合って生きてゆくことが必要なのだ。自由を愛し、定住よりも移動を選んできた彼らが、今では逆に自らの閉鎖した共同体の虜となり、外部へ出てゆくことができないという悲しい現実。

さてこの時点ではまだカルメンは、自分が男の子の好きな「フツーの」女の子だと思っている。同じ年頃の婚約者に対する感情も決して否定的なものではない。だが偶然父親たちが働く市場でローラと出会い、こっそりタバコを吸いあったりしているうちに、二人は恋に落ちてしまう。烈しく、後戻りのできない、宿命的な愛の虜になるのだ。

映画はその過程を実に丹念に描いてゆく。監督によれば、ネットのチャットを利用して同性愛者の少女たちに取材を重ね、脚本を書き進めるたびに読んでもらったとか。だが彼女たちは最後まで匿名性の背後に身を隠し、ついに対面することはできなかった。ジプシー社会では同性愛は未だにタブーであり、自分が同性愛者であることがバレてしまったら、村八分になるか、追放される定めにあるからだ。実際この映画を上映したマドリッドの映画館には保守的なジプシーが詰めかけ、上映中止に追い込んだという。

だからカルメンとローラの役を演じた二人の少女はものすごく勇敢だったのです、と映画祭に参加した監督は語った。それだけに彼女たちを見つけ出すのは大変でした。街角で片っ端から声をかけ続けた末に、まずローラと出会い、千二百数十番目にしてようやくカルメンに辿りついたのです、と。

自らの内なる野性に正直であるということ、自由ということ。同性、異性を問わず他者を愛するということ。烈しく心を揺さぶられた一本、今年観た映画の中で最高の作品だった。

この作品については、こちらでも論じています↓







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