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初夏示録①

「目には青葉」とは、古い予言書に記された終末への最初の兆しである。それが具体的にどういうものかは長年論争の的だった。例えば異常進化した植物が世界を覆い尽くすとか、破壊的な生物化学兵器の暗喩であるとか。葉のような形状のゴーグルをした宇宙人が襲来するなんて言い出す人もいた。でも実際はこれだった。予兆なく突如眼球から生えてくる角質状の突起。それは光を求めて天に向けて伸び、枝分かれして、やがて扁平な緑色の器官――「葉」を茂らせる。この、病気といっていいのか怪現象と表現すべきなのか、とにかく人類のみに発現したこの異変は、原因も突き止められないまま瞬く間に伝播し、今や全人口の三割が目から青葉を繁茂させるに至った。日光を求めて緩慢に歩行し続ける他は動物的反応を一切見せなくなった彼らの光合成によって二酸化炭素は大幅に減り、遠くない未来に温暖化の脅威は去るだろうという計算がなされている。ただしその時、今の人類が存続してるかは不明だ。「目に青葉」の広がりは勢いを増すばかりで、一向に止まる様子はない。

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