北欧旅③【チボリ公園】
ルイジアナ近代美術館からコペンハーゲンに戻り、遅い夕食は、”Hereford Beefstoruw"でスペアリブ。支払いを済ませ、通りに出ると、すぐ脇のチボリ公園入り口になにやら黒山の人だかり。入場券のチェックを受けゲートを越えるなり、次々と若者たちが歓声を上げて我先に駆け出していく。
「こんな時間に?遊園地に?若者たちが?なんで?」と、日本から来たばかりのオジさんも好奇心に背を押され、流れに身を任せるようにゲートをくぐり抜け入園。
すると、公園中央の広場で午後10時から地元で人気のヒップホップミュージシャンのライブが開かれるとのこと。ライブ開始までに芝生の上には次々と若者たちが集結してくる。野外ステージの両サイドに設置された巨大ディスプレイには、スマホを使ったカウントダウンゲームが次々と表示され、盛り上げ役のDJのテンポのいい進行でオーディエンスを飽きさせない。芝生広場の周囲にはカールスバーグ・ビールを出すワゴンが並び、ビールを片手にライブ開始時間までの時間を楽しむ若者たち。
途中で、コペンハーゲン中央駅裏のホテルに帰還したが、ライブは深夜11時過ぎまでつづき、ホテルの部屋にもトリプルサッシの窓ガラスを伝わって、アーティストの歌声と重低音が響き渡っていた。
しかも、ほとんど毎夜のようにジャズやロック、ヒップホップと年代に合わせて様々なライブが開催されるそうだ。毎回定刻に始まりライブの時間も決まっており、ちょうどこの夜は、時間も遅くはじまる特別ゲストライブで若干割高になるらしいが、基本安い公園の入場料金だけで、市民、旅行者、誰もが屋外ライブを満喫できる。
かのウォルト・ディズニーが、ディズニーランド建設の際に参考にしたという19世紀からある世界最古のテーマパーク。「たかが駅前の古くて小さな遊園地だろ?」というアジアからのオヤジ観光客の歪んだ先入観は、ものの見事に粉砕された。
「若者たちよ、青春は短い!週末は、都心のど真ん中の広場を開放するから、しっかり酒と音楽を楽しめ!クレームは、すべて大人が対応する」これほどまでに若者たち向けにわかりやすいラブコールを伝える施策は、ほかにはちょっとかんがえられない。市民生活の中にしっかりと息づいて機能している「広場」。
かたや、都市計画の無策により、宅地居住区域とターミナル都心商業地区が混在する日本の都心。しかも昨今は、風営法改正によりダンスさえもが禁止の危機にさらされた記憶も新しい。本気で現状を打破しよういう気概の感じられない、どこかでみたような付け焼き刃な若者定住促進策ばかりが、散見される横ならびの地方都市。
真夜中の都心爆音ライブ。午後に過ごした郊外のルイジアナ近代美術館の静謐な空気とは、正反対だが、この鮮明なコントラストにも、デンマークのしなやかな知恵を垣間見た気がした。