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2019/9/7 金子勝@ブックスキューブリック

       

 今年6月東京四谷、ISEP総会に出席した際に、スマホで、ファイスブックをスクロールして見つけた一枚の画像を金子勝先生に見ていただいた。それは、書店に山積みされた先生の最新著書「平成経済 衰退の本質」で、短いキャプションが添えられていた。

「社会を、時代を切り拓くために具体的な提案を行う著者の痛烈な総括。未来を良くしたいと願うなら、過去を振り返り、現在を見つめ、点と点が線で結ばれるように考えたいものです。その時、本は力になる。好評発売中。」

【書籍紹介】 『平成経済 衰退の本質』 金子勝 岩波書店...

Posted by BOOKSKUBRICK(ブックスキューブリック) on Saturday, June 22, 2019


 スマホ画面から顔を上げた瞬間、相好を崩し「うれしいなぁオレ、この本屋、行くよ。どこ?」。春に自宅の階段から転倒して肋骨を骨折された金子先生は、このときはまだコルセットがはずれて間もない時期で、ステッキを突いて来場だったが、すっかりそんなことは忘れられているようだった。

 というわけで、先週土曜の夜、福岡市箱崎のブックスキューブリックに金子勝先生が、デンマーク行の飛行機搭乗前夜の飯田哲也さんと共に現れた。

「点と点を線で結ぶ」ために。

 当日会場は、満員御礼。顔見知りの面々もチラホラ。

 西南学院大学の田村元彦先生から提起された、韓国との外交問題への問いかけに応じる形でトークライブは始まり、金子先生は、経済産業”妨害”省が主導する現政権の愚劣さが引き起こしたことを指摘し、未来世代にまで禍根を残す悪しき所業であると断罪。明確な解説と歯切れの良さに自然と聴衆も頷く。

 最新刊「平成経済 衰退の本質」は、あえて従来の狭義の「経済「史」」とせず、政治、外交、先端工学、安全保障、農水産業そしてエネルギーの分野を横断的に取り込むことで、現代日本の栄枯盛衰を「平家物語」如く、一大叙事詩として一気に描かれたストーリーテーラー金子勝の真骨頂といえる「新”平成”物語」。

 ケインジアンだろうが、マルクス経済学者であろうが、過去にさまざまな好不況の周期理論を当てはめるだけの「評論家経済学」に現実を変える力はない。眼前にある「現実」を出発点に経済を分析し、どこにも未だセオリーなき「未来」に起こりうるリスクについて予測し、警告を発しながら、違う未来を創造できる「活きた経済学」こそが重要である。

 ライブならでは、テレビ、ラジオなどのメディアでは触れられない事実もあげ、内部情報が集積する「金子ライン」ともいうべき、独自の情報ソースをもち、昨今の経済的臨界点もいえる重大な転回点をこれまでいくつも予言的中することができたカラクリも垣間見せてくれた。

 来場された地元国立大学の研究者が、現代の若者への不安を口にしたが、金子先生は、あえて生ぬるい希望で論点を誤魔化すことなく、まず率直に危機感を共有。そして、現状は確かに悲観的であることを隠さないが、同時に新しい現実を若者らに「体感させる」ことの重要性を指摘された。

 その姿勢は、金子光晴の詩を挙げ、足もとの「哀しみを見つめる」ことから逃げない大切さを語った劇作家の平田オリザさんにも通じる。

 どんなに辛い現実でもそれを受け止める「度量」が、政治家や行政、産業界の上層部には必要であり、現実逃避と仮想敵を作り妄想に走る愚劣さが、大手を振って闊歩しはじめた社会は、モラル崩壊する。

 後半トークに参加した飯田さんは、「再生可能エネルギーの飯田」というレッテル張りをされるが、現実には、むしろ「新たな価値を創造できる社会の実現」に使命感をもっている率直な心情を語られた。 

 今回は、来場者に思いのほか若い世代が多かった。金子先生と飯田さんの話を身を乗り出すように聞いている。こんなふうに著者と直接インタラクティブに言葉を交わせる「地域の書店」という「ライブ・メディア」の重要性を改めて再認識。

 ウェブ全盛の時代だからこそ、逆に見え辛くなった様々な現実。永遠に活字化されない、調理されていない「生」のファクトに触れることで、むしろ読者が、文字通り「行間を読む」、つまりは現実に対する社会的コンテクストを読み込む力を養うには不可欠の空間である。

 「地域の書店」とは、地域分散型ネットワーク社会のコアであり、住民にとって、ときには「劇場」であり「教会」でもあり、ときに「パーティー会場」にもなる。それは、変化自在な「公共哲学の広場」以外の何物でもない。

「たしかに現実は絶望的かもしれないし、やがてまた焼け野原を迎えることになるだろう。そのとき、凜として、咲き誇る小さな花を俺たちは育てなくてはならないんだよ」

サイン会と懇親会を終えた、打ち上げの筥崎宮前の屋台で金子先生は、ニヤリと笑いながら語られた。

 そう、この灯を消すわけにはいけない。