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隠れ家の不良美少女 07 座敷童

土曜の朝、新くんからメールが届く。
『朝早くから隠れ家の前で希和ちゃんが体操座りで待ってるらしい、千草さんが見たらしいよ』
『マジ!』
『出来ればでいいから早めに行ってあげてよ』
『恨むよ』
『いいよ』

今日は所沢の部屋を掃除したり、洗濯をしてからゆっくり行こうと思っていたのに。俺はイラついた気持ちを、キックレバーに八つ当たりするように踏み込んでバイクのエンジンを始動させた。
このSR400にはセル(エンジンスタートスイッチ)は付いていない、だからキックでエンジンをスタートさせる。その辺りが俺のこだわりでもあったりする。
ともかくバイクを走らせ秩父へ向かった。

ガレージハウスに到着すると、希和ちゃんが嬉しそうに手を振っている。
「おはよう……私も今来た所なの」
「嘘つけ!新くんからメールが来たぞ、早くから待ってるって」
「なんだ、バレちゃってた」希和ちゃんは笑って頭をかく。
「嘘つくヤツは嫌いだ!」そう言ってドアを開けると、すっと入ってきてリビングの隅でまた体操座りをした。
「だって……」
言いたい事はわかっている、気を遣って待ってなかったと言いたかったんだろう。
しかし、掃除や洗濯を出来なかったイラ立ちで、少しきつく当たってしまった。
希和ちゃんは少し寂しそうな顔をしてうつむいている。

「そうしてるとまるで座敷童だな」
「子供じゃないもん」
「その体操座りはやめろよ」
「これは体育座りって言うんだよ」唇を突き出した。
「ふーん、関東じゃあそう言うんだ」
「えっ?」
「どうでもいいけど、ずっとパンツが見えてるぞ」
「ええ!」慌てて立った。
「ほら、この椅子を希和ちゃん専用にしてやるから」折り畳みの木の椅子を出してやる。
「えっ!ホント」嬉しそうに座った。
とりあえず少し落ち着こうと思いコーヒーを入れていると、不思議そうに覗き込んだ。
「危ないぞ希和!火傷したらどうするんだよ」
「あっ!希和って呼び捨てにした…………」
「だって危ないだろ」
「嬉しい……とっても」子供のような顔でニッコリしている。
「何だそりゃ?」
「ずっと呼び捨てでいいよ」さらにニッコリした。
「そんなことを言うのは子供だぞ」
「うん、子供でいいよ」
「じゃあやっぱり座敷童だな」
「う………」

「お昼を食べに天空カフェへ行こうか」
「私……お金……あまり……」
「いいよ奢るから」
「本当?嬉しい」
バイクのエンジンをかけて「後ろに乗れよ」そう言うと、嬉しそうにヘルメットをかぶって背中に抱きついてくる。
「二人乗りだと、またここに一緒に帰ってこれるんだよね」
「えっ?なんだって」エンジンの音で何を言ったかよく聞こえない。
「何でもない」

カフェのテラス席に併設されたバイク駐車場にバイクを止める。
「おはようお二人さん、仲がいいねえ」新くんがニンマリ迎えてくれた。
「今俺は新くんの首を絞めたい気分」
「おお怖!」
新くんのいるテーブルに相席しようとすると「お二人の邪魔はしたくないからなあ」そう言った。
「本当に首締めるよ」
ふとキーボードを打つ手を見ると、いつもよりかなり早めに打っている。
どうやら邪魔して欲しくないのは新くんのようだ。
「じゃあ向こうの席で」そう言って少し離れた席に移動する。
新くんはニコッと口角を片方上げた。

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