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Dear slave 親愛なる奴隷様 Loveですぅ! 第43話 スーパー琴音?

 バレンタインデーはもうすぐだ。そいとげは家の手伝いで忙しそうにしている。前日は日曜なので茉白ちゃんと佳さんも一緒に手伝う事になっている。

 久々に茉白ちゃんと駅カフェへやってきた。何か今までとは違う感覚になっている。二人で付き合う確認はしていないが、何となくそんな雰囲気だ。

「なんか駅カフェが少し懐かしい」茉白ちゃんが辺りを見渡す。

「そうだね」僕も見渡した。

「ねえ、星七君は私といて大丈夫?」恥ずかしそうに見ている。

「大丈夫?僕はとっても嬉しいけど」口角を上げた。

「よかった………」ホッとしたように微笑んだ。

「佳さんってなんか凄いパワーがあるね、初めは付いていけない気がしたけど、慣れてきたら良い人なんだと思ったよ」

「うん、あんな感じだけど私の頼れるお姉さんみたいな感じなの、でもイジって来るから面倒臭いの」口を窄めた。

「そうなんだ、なんか分かる気がする」

「えっ?」

「僕も琴音さんからよくイジられてるからね」

「そうなの?」

「でも、家庭教師してくれたり優しいところもあるんだけど………」

「けど?………」茉白ちゃんが僕を覗き込む。

「………茉白ちゃんとどうなってるとか、しつこく聞いてくるから面倒臭い………」

「そうなんだ………」何度も頷いている。

「イトコって、なんかよく分かんないよ」

「そうだね」

 久々の駅カフェで癒されて帰ってきた。マンションの前に一台の高級車が止まり、中からコートを着た女の人が出てくる。何となく後をついてエントランスを抜ける。エレベーターで二人になってしまった。

 サングラスをした女の人は僕を見ると突然抱きしめた。『え………誰?何?どうなってんの?』声も出ない。

「星七ちゃんでしょう?懐かしいわねえ、お久しぶり!」

「え………」

 サングラスを取った女の人は、琴音さんを何十倍も、いや何百倍もパワーアップした感じの人だ、もしかして………もしかして………琴音ママなのか〜!

「元気だった?琴音は帰ってるのかなあ」優しく微笑んだ。

うっ、微笑んでいるのに凄い圧迫感、僕はオシッコを漏らしそうになっている。『シュー』エレベーターのドアが開く。

「どうぞ、501です………」僕は上擦った声で案内した。

ドアを開ける。「ただいま………」

「お帰りなさい、星七ちん」ジャージ姿の琴音さんは立ちすくんだ。

「ママ………」

「何なの琴音、その格好は?」

「えっ、これはパジャマがわりだけど………何で来たの?」

「チョコを持って来てあげたんじゃない、ほら!」紙袋を差し出した。

「え〜!送ってくれたら良かったのに」呆れ果てている。

「それより喉が渇いたわ、お茶かワインないの?」

え〜!そんな選択肢が有りなんですか?僕は現状を認識できず立ちすくむ。琴音さんは冷蔵庫を開けて水を用意した。

「はい、お水!」

水を一気に飲み干した琴音ママは、少しだけホッとした表情になっている。

「二人とも元気にやってるみたいね、安心したわ」

「来るなら言ってよ」

「突然来た方が実態が分かるでしょう?」

「どうぞ、気の済むまで確認してください、しっかりやってますよ」唇に力が入っている。

「星七ちゃん、何か困ってない?大丈夫?」

「いえ、何も困ってません、家庭教師をして頂いたり、とても高価なプレゼントを頂いたりしていっぱい感謝しています」

「本当?」チラッと横目で僕を見た。

その顔は明らかにスーパー琴音さんという感じがした。

「食事は済ませたの?」

「まだだけど………」

「じゃあみんなで食事に行きましょう、支度して」

「星七は出かけても大丈夫?」琴音さんは心配そうに聞いてくる。

僕はスーパー琴音さんを見たので、普通の琴音さんが可愛く見えてしまった。

「僕は大丈夫ですけど………」

「じゃあ行きましょう」スーパー琴音さんの一言で全てが決定される。

琴音さんが部屋へ着替えに行くと、琴音ママは僕に近寄りささやいた。

「琴音のお守りをしてくれてありがとうね星七ちゃん」

「え………」

「昔、星七ちゃんが帰った後、琴音は何日も泣いていたのよ。今度東京に来ることが決まった時も、早く会いたいってソワソワしてたんだから」笑っている。

「えっ………僕は一緒にいた時の事を何も覚えていないんです………」俯く。

「無理ないわよ、まだ7歳だったんだもの。でも一人っ子でワガママだった琴音を目覚めさせてくれたのは星七ちゃんよ、感謝してるわ」そう言って僕の頭を撫でた。

「………………」僕は言葉を発することが出来ない。

『ガチャリ』琴音さんが着替えて出てきた。

「あっ!ママ、星七に何か変なこと言ってないでしょうね?」

「変なことって、どんな事?」余裕で首を傾げる。

 エントランスを抜けてマンションの前に来ると、さっき見た高級車が止まっている。近づくと男の人が降りてきてドアを開けた。その人は優しそうな表情で会釈する。

「お久しぶりです、琴音お嬢様」深々とお辞儀した。

「お久し、松田さんこそ元気だった?」

「おかげさまで元気にしています」

3人が後ろの席に乗り込むとドアが閉められ車は動き出す。

「今から食事に行くと伝えておいて」

「はい」

 松田さんは運転手さんへ場所を指示してレストランに連絡しているようだ。

「琴音、まだあのジャージを大切にしているの?」

「別に、もったいないからパジャマにしてるだけよ」

「そうかしら………」

「………………」琴音さんは窓の外を眺めた。

 僕は別世界に来たようでとても居心地が悪い。社会人になったらこんな事もあるのかなあ………ぼんやり考える。

 琴音ママの話だと、初めて琴音さんと会った時に大きく両手を広げて抱きしめようとした事が何となく分かる気がした。一体僕は7歳の頃どんな状況だったんだろう?謎は深まるばかりだ。

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