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隠れ家の不良美少女 139 アルバムの準備

俺は長谷川さんから渡されたオーディオのデータを再生した。

「キナコのニューアルバム用に上がって来た曲です」
「そう……」希和は目を閉じて聞き始めた。

10曲全て何度も聴く。
歌は入っていない、メロディーはサックスなど音源で入っていたり、ラララ〜と仮の声で入っている。
この中から気に入った曲を選び、作詞家に依頼するのだ。
曲先(きょくせん)と言うやり方だ。

アーティストに提供を依頼した曲はまだ来ていない。
もう少し時間がかかるようだ。

「この曲が良い」希和はその中から4曲を選んだ。
「そうね、私もそれが良いと思うわ」希美子さんも納得している。
「じゃあその4曲を長谷川さんにお願いして歌詞をつけてもらいます」
俺は曲の番号をメモした。

「和也さんの曲も楽しみだわ」
「そうだね、お父さん今度はどんな曲を作ってくれるのかなあ」
「そうですね、楽しみですね」俺も頷いた。

「ねえ友希さんは希和に曲を作ってくれないの?」
「ええ〜……それは無理だよ」
「だっていつも部屋でギター弾いて歌ってたってみかりんさんが言ってたじゃん」
「あらそうなの?友希さんってギター弾いて歌えるの?」希美子さんが驚く。
「随分昔の話ですよ、しかもブルースなんで時代に合ってませんよ」俺は手を横に振った。
「でも桜子さんは友希さんのブルースの歌で好きになったんでしょう?」希和が横目で見る。
「そうなの?」希美子さんはさらに驚いた。
「うん、この前結婚式で司会をしてた友里香さんから聞いたよ」希和は上目遣いで見てくる。

俺は一瞬固まった。
「ねえ友希さ〜ん、希和にも聞かせてよ」希和が言い寄った。
「そうね、私も聞きたいわ」希美子さんも頷いている。

「ギターが無いんでまたいつか」俺は誤魔化す。
「絶対よ!約束してね」希和は駄目押しして来た。

「友希さん、希和の歌にもっと深みを出すためにはどうしたら良いかと考えてたんだけど、希和にブルーノートを教えてくれないかしら」希美子さんが真剣な眼差しで見ている。
「お母さん、ブルーノートって何?」
「ブルースの旋律よ、それが頭に入ると一瞬のアドリブとかオシャレで官能的になるの、私も和也さんから教えてもらって音楽の捉え方が随分変ったわ」
「そうなの?お母さん…」希和はさらに不思議そうな顔をした。

「そうですか、しかし時代に合わない気がしますよ」
「そう?でも良いものはいつも生き残るわ」
「そうですね、では今度希和に教えます」
「ありがとう友希さん」希美子さんはニッコリ頭を下げた。
「やった、友希さんの歌が聞ける」希和は単純に喜んでいる。

夜、希和は布団の中でポツリと言った。
「音楽って知らない事がいっぱいだなあ」
「音楽をやってる人たちが皆んな全てを知ってる訳じゃないさ」
「でも音楽は好きだよ」
「それが一番大事さ」
「うん」納得したのかしばらくすると寝息が聞こえた。

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