見出し画像

雲散霧消 220916

古いパスポートの顔写真にはっとした。

寝起きでぱんぱんの肌
半分閉じた目
だるだるの服

これが僕なんだ

新しいパスポートには顎鬚をたくわえた、目つきの鋭い精悍な青年がいた。けれどこれは僕じゃない。

道徳を知っているつもりだった。けれど気づけばエゴな頭でっかちがここにいた。優しい声色で人を見下してるような人間だ。そうじゃないと思いたいけれど、たぶんそうだ。

混み合った新幹線の車内で、声をかけても返さない同年代を見下した。五感を失った都会人め、耳にイヤホンが接着されて、目にスマホの画面がめり込んで、人間味を捨てた獣になってしまえと思った。けれどイヤホンをはめてスマホと睨めっこしてる獣は僕のほうだった。


ずいぶん遠いところまで来てしまった。


それは僕がいま旅の途中だから言うのではない。ー半目のままのほうがよっぽど幸せだったのかもしれないよ、誰かが僕にそうやって言うけれど、一度落ちたコインは二度と帰らないとチャゲアスも歌うじゃないかと反論してみる。もうこの目に映るのは純粋な世界でない。20年の文脈によって解釈され、汚らわしいイデオロギーと主義主張を感じざるを得ない。

儚さに包まれて
切なさに酔いしれて
影も形もない僕は
素敵な物が欲しいけど
あんまり売ってないから
好きな歌を歌う

とある早熟な中学生(つまり僕だが)のお気に入りだった古いバンドの歌詞だ。自分も、自分の目に映る世界も、どちらにも対処しようにできなくて、仕方ないから叫ぶ。そんな日々だった。叫びは声を伴わないこともあった。それは破壊的な自慰だった。

もうすぐ特急も目的地に着く。数年ぶりにカラオケにでも行くか。かすかな希望を頼りに精神を慰めよう。

この記事が参加している募集

#私は私のここがすき

15,626件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?