日記を送り合うLINEグループで書くことに困って送った文章

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さざめく音に目を覚ますと、静寂に覆われた部屋が冷えていた。あのさざめく音は?見渡しても普段と違うものは見当たらない。1つだけ、この部屋に馴染みのないものを除いて。一昨日から机に置かれている花瓶を除いて、十数年を過ごしルーティンの決まった部屋に異常は認められない。夢だったのだろう。寝たまま見た景色に、草原が広がっていたに違いない。自分を納得させ、体を起こす。花瓶は中に何も入っていない。謙虚な花も、路傍の草も、カルキ塗れの水すらなく、ただ滞留して淀んだ空気をその身に湛えている。この沈んだ部屋に彩りでもと買ったはいいが、結局こうして身一つで佇んでいる。自分ではさほど気にしていなかったが、虚ろな花瓶が居座ると途端に部屋が寂寥の気配を滲ませる。それ自身に彩色はされておらず、口に向けて細くなった造形は、飾られた花を邪魔することなく引き立てるはずだ。だが、引き立て役しか存在しないことのなんと侘しいことか。輝かせる相手もいないのにただひっそりと自らを潜ませ、いつか生けられるであろう麗しい花を待ち望んでいる。きっとこの部屋も、この花瓶のようにいつか自分で幸せな日々が送られることを夢見ているのだろう。こんな灰色の生活ではなく、弾んだ話し声で彩られた日々の営みを送られることを、車窓から見る田園風景に目を細めるように夢想しているのだろう。いや、十年以上も続いた起伏のない生活に辟易してそんな夢も抱かなくなっているだろうか。

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