6-2
小学校最後の年だった。
小学校のクラスでは新学期が始まると、クラス目標を立てる。
「なかよく楽しくすごす」だの、「落ち着いて生活しよう」だの、基本的にだらだら進んだ会議から適当な結論が出るのみであった。
「風林火山」
「え?」
「どう言う意味ですか」
「『素早く行動すること風の如し、授業中に静かにすること林の如し、元気なこと火の如し、落ち着いていること山の如し』です」
満場一致で採用された。
「クラスの旗はどうしようか」
「クラスを『風』『林』『火』『山』の四つに分けて、それぞれのグループが4色の手形をつければいいと思います」
採用された。
「真ん中になんか描いてよ」
僕は「信玄くん」という、全く史実にそぐわない兜をかぶった武士を一人、旗に描いた。
「クラスのキャラクターにしよう」
なんか勝手に決まった。
「クラスの歌を決めよう」
「セカオワのRPGを替え歌すればいい」
対抗意見も出なかった。
気がつくと、全部僕の意見で出来上がった、独裁政権みたいなクラスが出来上がっていた。
「クラスの集合写真をどこで撮るか決めましょう」
「体育館がいいと思います」
「サッカーゴールがいいと思います」
珍しく対抗意見が出てきたな、と思ったが、味方も多い。
今回も大丈夫だろう。
そのとき。
「俺もサッカーゴールがいいです」
先生だった。
僕はその刹那、あることを悟った。
コイツ、俺に勝たせない気だ。
普通なら先生が学級会に介入するなど言語道断である。
しかし、この先生なら絶対に、独裁政権を主導する僕を負かすだろうと直感していたし、事実そういう先生だった。
「まだ投票してない人いますか」…
そんな先生に負けてたまるか。
「投票締め切りまーす」…
頼む、勝ってくれ。
開票の時。
抜けるような空に、かすみがかった雲。
涼しい風が、その写真からも吹いてくるようだった。
『卒業アルバム』
6-2の集合写真には、風でめちゃくちゃになっているクラス旗と、白枠の中で笑う39人のクラスメイトと先生。
そして不機嫌な顔をした、1人の男子生徒が写っていた。
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