アルセーヌ・ルパンを語りたい〜アルセーヌ・ルパンの逮捕〜

突然だが私の中でアルセーヌ・ルパンが再熱し、Amazonで初期作品の訳本を一気に買い揃えてしまった。そこで、勝手ながらアルセーヌ・ルパンシリーズについて1作品ずつ語っていきたい(こういった趣旨のサイトとしては徹夜城さんのルパンの館が圧倒的に面白いのでそちらも見て頂きたい)。

まずは第1作品目。アルセーヌ・ルパンの逮捕。

「ジュ・セ・トゥ(私は何でも知っている)」に急きょ掲載されたモーリス・ルブランの短編作品。友人に頼まれて1作限りのつもりで書いたこの作品なのだが読めば読むほどアルセーヌ・ルパンというキャラクターが既に完成されている事が分かる。ちなみに、初出版の今作品は「ルパン最後の恋」の付録として掲載されているのでこちらを見るとよりそれが分かる。

この作品の時点でルパンは数ヶ月前から新聞をにぎわせ、パリ警視庁のガニマール警部と対決したり変装の達人であることが既に有名になっていたりする。もちろん作者ルブランは今回きりのキャラのつもりなので泥棒を逮捕させるにあたって過去に犯罪をしていたことにしているのだが、ショルマン男爵邸に名刺だけ残して何も盗まないなんて怪盗紳士としてのキャラ付けが既に完成してる。何よりここで描かれた「変装」という要素がいきなり逮捕されたこのシリーズを存続させてくれることになる…というのは「脱獄」で。

それにしても、女性とのロマンスからの最後のルパンのセリフ「まっとうに生きられないのもつらいことさ…」というセリフ。シリーズにおいてルパンは何度も「まっとうな人間」になろうとしてやはり彼の天性の泥棒の才能、自負、なにより彼の運命がそれを許さない。ルパンがまっとうな人間になれるか否か、というのはシリーズ全体に連なる課題とも言っていいわけだがそれが1作品目のラストで語られているというのはなんとも示唆を感じる。(しかもヒロインとの別れの後のセリフだ。)

さて、この作品の時代考証をしてみたい。「カリオストロ伯爵夫人」によれば結婚生活は5年続き、6年目の初めに悲劇があった。つまり、20歳〜24歳の5年間結婚生活、25歳の年のはじめに悲劇とも取れる。続く獄中の日付と曜日から25歳の時と断定できるのでほぼ確実かなと思う。一方で脱獄の際の裁判のシーンでルパンは3年前に突然あらわれた、と言われている。今作ではルパンは数ヶ月前に現れたはずだが…?これについては、3年前はまだルパンと名乗っていなかったということだと私は解釈している。(妻に隠して活動しているため)ルパンと名乗らず泥棒活動を3年前から開始。妻の死後、つまり数ヶ月前からはアルセーヌ・ルパンを自称して泥棒を始めたというところだ。ということで、今作品は1899年、ルパン25歳の年…と断定したい。細かいことを言うとプロヴァンス号の初めての航海は1906年なのだが……(つまり、この作品だけだと、作者は近未来を舞台にしたことになるわけだ)。

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