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アルバムを繰るように鳥貴族へ行く

緊急事態宣言が延長されたが、この外出自粛下で多くの人に「○○したい」「○○に行きたい」欲が生まれたことだろう。何を隠そう私も、誰かと鳥貴族に行ってわちゃわちゃしたい。今回は鳥貴族への想いをここに書き出し、このムラムラ?を発散させていく。

「とりあえずキャベツ頼んで」


誰もが鳥貴族の席に着くや否や、メニューも見ずに唱える安定の台詞である。全品298円均一を貫く鳥貴族だが、その中でもおかわり自由のキャベツは桁違いのコスパの良さ。公式サイトによれば

鳥貴族で使用されるキャベツは現在、約8県、約18業者にて供給頂いています。(中略)お客様に食べられている量は、1ヶ月で約12トン(2017年3月実績)、これを玉数にすると約11,000玉が使用されています。

とのこと。日本人全員、ウサギか?っていうくらい、このキャベツを食べる。醤油ベースのあっさりだれも、ごま油がかかっているのも、美味しい。これを皆でつつきながら、後半戦は残った芯をいつもより多めに咀嚼しながらいただく。

そのうちに、串や逸品料理が揃い始め、盛り上がりのピークへと我々を誘う。キャベツは云わば、プロローグ。仮に食べないまま終えて、結局割り勘になっても、あんまりなんとも思わない。春夏秋冬、ちょっとくらいキャベツが高騰しても、いつも同じ値段で私たちの前に現れる、それがこの「キャベツ盛り」なのである。

「つくねチーズ焼いこう」


時々、トリッキーなやつが「もちもちチーズ焼」をセレクトするが、そういう時はほかの誰かがすかさず「つくねチーズ焼」も注文してくれる。パレートの法則や働きアリの法則のごとく、私が言わなくても必ず誰かがつくねチーズの名を口に出す。

こちらは序盤でも中盤でも、また、ちょっとだけ食べ足りないけどデザートじゃないんだよなあ、の終盤にも持って来いのオールラウンダー。1皿に対し3つくね(単位不明)×2本。串から外すと6つくねに分かれるため、まあまあの人数でも不公平さが出ない。

ノーマルな焼き鳥タイプだと大きさの違いがあるため、均等に分配できない可能性がある。それに比べてつくねチーズの公平さ。少し冷めるとチーズが固まるため、そこだけうまくセパレートできない場合もあるが、そこで不満の声が上がるようなら298円に甘えて、もう1皿頼んだってかまわない。鳥貴族は我々を寛大な気持ちにさせてくれるのだ(ただ単に上機嫌に酔って財布の紐が緩くなっているだけ)。

「山芋の鉄板焼いい?」


“鳥”貴族に来たのに、鶏肉を食べないことに若干の引け目を感じるのか、Would you mind?の謙虚な態度で注文の許可が取られるのがこの一品。手元に届いた後は、同じように「卵割っていい?」と聞かれるので、こちらもsure,why not?のテンションで返すのが正解である。

恋愛に初心(うぶ)な頃、ちょっと気になっていた殿方が「これ好きなんだよね」と、私が見ていたメニュー(当時はタッチパネル式ではなかった)を覗き込むように体を前のめりにし、骨ばった指先でとんとん、と「ふんわり山芋の鉄板焼」写真を叩いたので、急に身体的距離が縮まって、ドキッとしたのも良い思い出である。

ちなみに、山芋の鉄板焼には決まってスプーンが1本もしくは2本しか来ないので、それ以上の人数で訪れた場合には「すみません、スプーンもらっていいですか?…あ、はい2本で」のやり取りを含め、この注文である。

私の鳥貴族欲が内包するものは


ここまで書いて気付いたことがある。私はただ瞬間的に、安くいっぱい飲み食いしたいわけではないのだ。それだけで私の心が満たされるならば、1人でいくらでも宅飲みする。鳥貴族でなされたコミュニケーションや出来事を含め、あそこが好きなのである。空間や商品それぞれが個人的な特別なストーリーを孕み、私は足を運ぶことでアルバムを繰るようにあの頃の経験をなぞりに行くのだ。

人と人とのディープなコミュニケーションに焦がれているのは言うまでもないが、あの頃に思いを馳せることで、今の私にはない何か(意欲、焦燥感、執着、好奇心、願望などのプラスマイナスを問わない“熱量”)を求めているのかもしれない。

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