消えゆくバルビツレート:ALS嘱託事件

この国の司法にはもはや一片も期待していないが、
今回の判決を見るに日本での安楽死法制化は予想よりずっと遅れそうだ。
肉体的な難病や身体障害に限っての限定的な自死幇助でさえ、
成立までに30年はかかるだろう。

なぜ此度の判決がかように重いのか、思い当たる節はいくつかある。

一つは、利権団体や政府の意向として、
精神障害者は飼い殺しにしておきたいということ。
時の権力者のモットーは常に「生かさず殺さず」だが、
今回の事件はまさにその聖域にメスを入れるものだった。
それも医療者側からのアプローチだ。
これが支配層の逆鱗に触れたことは想像に難くない。

支配者と奴隷から成るピラミッドを維持するための礎として、
精神障害者という弱者の存在は欠かせない。
草食動物が絶滅すれば肉食動物も滅ぶように、
土台がぬかるめばピラミッドなど容易く瓦解してしまう。
為政者にはこの事実が骨身に染みており、だからこその見せしめなのだ。
出口を塞ぎ、逃げ道を絶ち、抗う者には重罪を科す。
いつの世も支配者の行動原理は変わらない。

二つ目は、事件に使用された薬物がペントバルビタールであったこと。
ペントバルビタールは安楽死の要であり、奴隷解放の鍵でもある。
支配層にとっては不倶戴天の敵だろう。
此度の事件を足がかりにしてペントバルビタールを根絶したいという
為政者の思惑が、常軌を逸した量刑の重さから透けて見える。

ペントバルビタールの姉妹薬であるアモバルビタール(イソミタール)は
先んじて販売中止が決定されており、
2023年の9月以降はもう永久に入手できない。


日本で唯一のペントバルビタール含有製剤であるラボナが消え去る日も
そう遠くない。