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メタバースな未来。

メタバースという言葉を耳にするようになって、何だかよく分からないけどゲームみたいで面白そうだなと思って、この本を読んでみました。

バーチャル美少女ねむという名前は、かなりいかがわしく感じますが(失礼)、300ページほどのこの本はライトな表紙とは裏腹になかなか骨太な内容です。

名前の由来である「ねむ」とは、仮想通過NEMから取ったもので、世界最古の個人Vtuberであり、現実世界の仕事が終わると、腰と両足首にセンサーを巻きつけ、両手にコントローラーを握り、メタバースの住人として過ごすそうです。

もちろんアバターの姿は美少女であり、声はボイスチェンジャーでかわいい女性のものに置き換わっています。

この本はそんなメタバースの住人であるねむさんの、内側から見た外側への解説本です。

本によると、メタ(超)バース(universe=世界)とは、リアルタイムに大規模多数の人が参加できるオンラインの三次元仮想空間のことです。

メタと聞いて真っ先に浮かぶのは、ビックテックのIT企業の総称GAFAの一つであり、マーク・ザッカーバーグが創業したfacebookが社名をMetaに変更したニュースでしょう。

これから先の新しい世界として注目されているわけです。

本の中では、2011年に日本バーチャル学会が刊行した『バーチャルリアリティ学』で当時話題となっていたセカンドライフを前提として考察したオンライン仮想空間の4要件を基に、7つの要件として定義づけています。

メタバースの7つの要件

①空間性:三次元の空間の広がりのある世界

②自己同一性:自分のアイデンティティを投影した唯一無二の自由なアバターの姿で存在できる世界

③大規模同時接続性:大量ユーザーがリアルタイムに同じ場所に集まることのできる世界

④創造性:プラットフォームによりコンテンツが提供されるだけでなく、ユーザー自身が自由にコンテンツを持ち込んだり想像できる世界

⑤経済性:ユーザー同士でコンテンツ・サービス・お金を交換でき、現実と同じように経済活動をして暮らしていける世界

⑥アクセス性:スマートフォン・PC・AR/VRなど、目的に応じて最適なアクセス手段を選ぶことができ、物理現実と仮想現実が垣根なくつながる世界

⑦没入性:アクセス手段の一つとしてAR/VRなどの没入手段が用意されており、まるで実際にその世界にいるかのような没入感のある充実した体験ができる世界

その意味において、しばしば誤解されるSNS、オンラインゲーム、AR/VR、NFT、ブロックチェーンは、どれもメタバースを構成する要素に過ぎず、またそれぞれをメインとして活動されている人も互いに混同されたくない傾向にあります。

メタバースは何が新しいのか?

人により、定義づけは異なることを前提に僕が本書を読んで抱いたイメージを語るなら、

メタバースとは、

移動に時間を要しない、いつでも出入り自由な生活仮想空間です。

この「生活」という部分が特に重要で、

よくイメージされるドラクエXやファイナルファンタジー14、あつまれどうぶつの森といった仮想空間は、クローズドなメタバースと言われます。

というのも、そういった仮想空間は、運営しているゲーム会社が中央集権的な管理者であり、ユーザーはあくまで用意されたツール、キャラクターを選択して、手順こそ違えど基本的には決められた世界観、ストーリーを体験するものに過ぎません。

もっと簡単に言えば、ゲームの中でいくら稼いだとしても合法的手段の範囲で現実のお金に換金することはできません。つまり、食べていくことはできないのです。

もちろん近年はeスポーツという分野もありますし、ゲーム実況のYouTuberやPLAY TO EARNといったゲームをプレイすることで実際に生活することのできる職業も登場しています。

しかし、それらはあくまで現実世界に生活の基盤があるのであって、メタバースの世界の中で生活して稼ぐものとは異なります。

現在は、まだ技術的な問題で高性能なPCやVRゴーグルでいかにもゲームのような、しかも簡素な風景の世界を散策するレベルでしかありませんが、人間の肉眼と同じ情報量を持つ32Kの解像度まで上がることはそう遠くないでしょう。

それ以外にも視覚、聴覚に加えて五感につながるデバイスがまるで眼鏡をかけるような気軽さで抵抗なく利用できる時代になれば、スマホやテレビを見るようにメタバースの世界へ出かけることもありえます。

時代の流れから、リモートワークというものを経験した人も多いと思いますが、たとえPCの画面の向こうが仮想空間のオフィスであっても、話す相手がアバターであっても慣れれば問題ないのではないでしょうか。

むしろ、何かの商品を案内する時に暗い顔つきのおじさんが説明するよりも、キレイなお姉さんやイケメンのお兄さんの方が(実際に操作している人はかけ離れた人だとしても)セールスにつながるかもしれません。

実際、AIが応対するようなサービスに違和感を感じる人は少なくなってきているでしょう。

自分の操作するキャラクターに課金することも珍しいことではありませんし、もしもそのキャラクターが何かの不具合で消滅してしまったら、その人の現実世界に対する影響は無視できないものかもしれません。

たとえば、ある日コンビニで電子マネーが使えなくなってしまったら不便を感じるのではないでしょうか。

つまり、すでにメタバースを構成する要素となるものは、知らず知らずのうちに我々の日常生活に溶け込み始めているのです。

その意味で、メタバースは新しいもののようでありながら、すでに我々の日常生活の延長線上にあるものと言えるでしょう。

メタバースの住人である著者の考察は、アバターで出会った人がどういう影響を与えあうかという深い部分にも及んでおり、類書における単に技術や表層的な解説で終わっていない読み応えのあるものでした。

それはまるで原始時代にもどった人類の歴史や倫理感を辿るようでもあり、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリさんの著書を想起させる面もあります。

僕は音声配信の中でこの本を紹介した時に、デジタルツールを持ったDr.ストーンとたとえてみました。興味がある方は、少し長いですがお付き合いくださいね。

中でも僕が面白いなと思ったのは、現実の世界を仮想空間上にそっくりそのまま再現する「都市のデジタルツイン化」プロジェクトです。

デジタルツイン化構想とは?

これは、バーチャル渋谷に代表されるような、物理現実で取得したリアルな情報を基に双子のような仮想空間を構築することで、互いにメリットを生み出すものです。

ゲームにおいても『龍が如く』などで現実にある都会を疑似体験できるものを想像すると分かりやすいと思います。

さらに進めて、メタバースと地方創生という構想もあります。

実際の事例としては、やむなく中止となった第72回のさっぽろ雪まつりがバーチャル雪まつりとして当初は有志のボランティア企画であったものが公認のイベントとして開催され、来場者数が1万人を超えました。

本来のイベント動員数から見れば小規模なものではありますが、これまで行ってみたいけど体験できなかった人達がその魅力の一端でも垣間見ることで、実際のイベントに足を運ぶきっかけになるものと思われます。

オンラインのライブイベントでは物足りなさを感じる感覚に近いですね。

これまでは平面的なHPで地方の魅力を伝えるしかなかったものが、メタバースの世界で五感を刺激し、実体験に価値を生み出すことで、経済が発生すれば新たなビジネスモデルとなることは容易に想像できます。

ここまで読めば、メタバースがただのゲームとは違うレベルのものであることが分かって頂けたのではないでしょうか。

現実世界と仮想世界で過ごす時間の比率が、まるで家庭と仕事の時間のようになっていくことも考えられます。

もちろん、現実には先の要件を最小限度備えたメタバースも複数存在し、それぞれ一長一短のあるサービスであることから、利用者もごく少数であるのが現状です。

また、それらの世界を一つに統合し、個人情報をブロックチェーンの技術を用いて厳格なセキュリティで確保した上で、中央集権の社会から解放することは簡単なことではありません。

これは言わば、もう一つの(あるいは複数の)新しい地球そのものを創るという壮大な話であり、そこには様々な人類史の問題をはらんでいます。

しかしながら、国境や宗教の無い経済圏である仮想空間は、宇宙に新しい住居を求めるよりも身近であり、今後ますます我々の生活、価値観に変容を与えるものではないでしょうか。

メタバースをもっと知りたくなった方は、『メタバースとは何か』を書かれた岡嶋さんがゲスト出演された有料の音声配信「ラジオ版学問ノススメ」もありますので合わせて聴いてみてください。


読書好きの僕の理想はメタバースの世界に大きな書斎を持ち、自動翻訳された世界各国の書物を実際に手に取る感覚で読めるようになることです。

それはそんなに遠い未来ではないと思っています。最後まで読んで頂いてありがとうございました。

改めてこの本の魅力を短く語ってみました↓


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