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電車で席を譲るタイミング

あなたならこんな時どうする?

タイミングって難しい。

自分の前に杖をついた人が立った時、人は大きく二分されるだろう。

席を譲る人と譲らない人。

できれば僕は前者でありたいと思う。

きっと誰しも似たような経験を何度もしているだろうけど。

二人連れの人が来た時に自分の両側が空いていたら詰めるとか、状況は様々だろう。

僕の場合、この問題は、知り合いと一緒の時だと格段に譲りやすくなる。

例えば、隣にいる友人に席を譲ろうかと相談し、会話の勢いのまま、どうぞ!と快く譲れる。

しかし、一人だとタイミングが難しい。

経験上、譲るなら早い方がいい。

譲ろうか迷っている分、心理的にも負担が増してくる。

仕事帰りで疲れてるし、何本か乗り過ごしてやっと並んで取った席なのにー

とか

誰か譲れよ

とか

このまま譲らなかったら、まるで自分が悪いことをしているみたいじゃないか

とか

ここはスマホに集中してて気づいてないフリをしよう

とか

狸寝入りでも決め込もう

など、グルグルといろんな感情に捉われてしんどくなる。

だから僕の場合は、いくら体が疲れていようとも、サッと譲って、できれば次の駅で別の車両に行く方が潔くてカッコいいし、いろんな思いに悩まなくて済む。

ところが、つい先ほど新しいパターンに出くわした。令和生まれの僕はまだまだ未体験のことが多いのだ。

僕の前には、例のごとく杖を持った人が足取り弱く立った。

一応説明しておくけども、当たり前だが優先座席ではない。

そこで、これは席を譲らねばー

の前にもう少し説明すると、時刻は朝である。

出勤前の電車の中だ。

朝は電車の中で読書をすることに決めている僕にとって、そこは大切な空間である。

悪しくも令和生まれの僕は、昨日なぜか起きた時に足がつってしまった。寒さと歳のせいだろうか、わりとよくあることだ。

幸い仕事は休みで、とりあえず湿布を貼っておく。腰痛持ちの僕は湿布を常備しているのだ。

しかし念のため、昨夜寝る前にも湿布を貼り直したのにも関わらず、起床するとまだちょっと痛い。

そんな状況など知る由もなく、現実には杖を持った人が前に来られた。しかも歳を召された女性である。

これは男として絶対に席を譲らねばならない。いくら令和生まれの僕でも中身は昭和の考えなので、たとえ古いと言われようと女性は守らなければ、外見がイケメンなだけの男と思われてしまう(かなり重症)

ただ、先ほどのデバフがかかった状態のイケメンである。

スマホで読書している僕は、それとなく周りを、念のためチラ見して見るとー

見るとー

少し斜め前に一つ席が空いているではないか!

えっ?

一瞬、声が出そうになるのをこらえつつ、心の声がつぶやく。

あの〜、席空いてるんですけどお気づきではないですか?

なので、前に立つのやめてもらっていいですか?

ひろゆきの登場である。

しかし、顔を上げてそれを言うほどの勇気は無い。

あいにく僕は嫌われたくない勇気しか持ち合わせていないのだ。

おそらく周りの人も同じ気持ちではないかなーと思う。

その証拠にしばらく止まっている車内の誰も席に座ろうとしない。

と思っていたら、一人の男性がドカッと腰を下ろした。

下ろしたぞ。

下ろしやがりましたぞ。

えっ、これってあの〜、僕が席を譲らなければ後から来た人に、

こいつイケメンだけど、中身は最低野郎だなと罵倒されてしまうシチュエーションではないだろうか??

それってあなたの感想ですよねー。別に杖を持ってるからと言ってもぉ、必ずしも座りたいと決まってるわけではないしぃ、人は人。気にしなきゃいいんですよ。

うん、確かにひろゆきさんならそう言うかもしれない。

でもね、それこそあなたの感想なんスよ。そりゃね、僕も腰痛持ちだから多少は身体が不自由な人の気持ちは分かるつもりですよ。座ってるより立ってる方が楽な場合もあるんですよ、例えば次の駅で降りる場合とか。

次の駅で降りる?

なるほど、そうかもしれない。

そもそも女性が席を気づく時間はわりとあった。あったにも関わらず所有権を放棄した。なぜか?

え〜、古畑ですぅ。

今回の事件は簡単でした。正解はCMの後で。

所有権を放棄すれば死神は離れ、記憶を無くす、確かnoteの条件にもそう書いてあったような気がする。

ここは、スマホに集中するイケメンを演じよう。たぶん、次の駅で降りるはずだ。

とか思っているうちに(時間にして数十秒)

その座席に座った男性が立ち上がってどこかへ行ってしまった。

すると、席がまたポッカリと空いてしまったのだ。

当たり前である。

さてー

来週のサザエさんは、

などと言ってる場合ではない。

事態はまた振り出しに戻ってしまったのである。

You、もう座っちゃいなよ。

てか、座ってくれませんか?

座ってくれよー
見逃してくれよ〜

僕の心はもはや文字をただ見つめているだけでスマホには無い。

どうする?
どうなる?

きっと男性はいたたまれない気持ちになったのではあるまいか?

日本人は同調圧に敏感だ。

ある意味、この状況でよく腰を下ろせましたね?

でも思ったより悪い人ではなかったのか。

ーと、電車は動き出した。

動いてくれないと遅刻する。

ごく自然な日常。

目の前にある非日常な精神状況。

それも次の駅に着けば終わる、はずだ。

それにしても、女性はすごくヨロヨロだし、明らかにヤバそうなんだがなぜ座らないのだろう?停車時間もわりとあったんだけど。

しかもちょっと体を動かして、周りを見てる素振りもあり、おそらく空席に気づいている。

考えてもみよう。

自分が職場でギックリ腰になり、ヨタヨタになりながら、駅でまず探したのはエレベーターだ。どうすれば体に負担無く歩けるのか。

まるでお盆の上に生卵をのせながら歩いている電流イライラ棒のような緊迫した状態で、バリアフリーをこれほど意識した時は無い。

一時的にせよ、僕でさえそうなのだから、ましてや、である。

こちらの方が、常に空席レーダーを張り巡らしていないわけがないではないか!

その察知能力の高さは常人の比ではない。おそらく二度「円」を実行したキメラ=アントの蟻の王よりも精度は高く、光子が付着した物の形態や性質、感情等の情報を精確に読み取っているに違いない。

席は依然として空いている。

目の前には老婆が吊革に掴まりつつ、杖を持ち不安定な動作を継続している。

車窓の景色は無情に流れる。

ああ、無常。

万物は流転し、一つとして同じ日は存在しない。

ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。

そろそろ出勤時間が迫って来たので、結果から書くとその女性は三つ先の駅で降りて行った。

電車が駅に止まる度に僕の心は揺さぶられ、かくして僕の出勤前の貴重な読書タイムはこのnoteを書くことで消えた。

今日はどんな一日になるだろうか。

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