仲間と共に ~ウルトラマンタイガ IFストーリー~

 グリムドとの戦い…トレギアとの決着。あれからまた少し時間が経った頃。俺(タイガ)は光の国に帰還し、クリスタルの都市を眺めていた。いつ見ても緑色のクリスタルが美しく煌いている。けどその美しさが、かえって今の俺の感性には物足りなく感じてしまっていた。

 相棒と過ごした13年間。ウルトラマンの時間の感覚からすれば、そう長い時間では無かったはずだった…。なのに、何でこんなにもあの時間を遠く感じてしまうのだろうか。

 あの幼いながらに心優しかったヒロユキが、今はE.G.I.S.のメンバーとして…そして共に戦う相棒として大きく成長していた。俺よりずっと子供だと思ってたあいつも、気づけば自分より大きくなっていた。不思議な感覚だ。1000年とか2000年とか、俺はそれだけ長い時間を掛けてきたのに…。

 あいつと別れて、改めて気付いた。短い時間の中だったけど、その限られた時間の中であいつがどれだけ大切な存在だったのか。けど、あれから地球ではどれだけ時間が経ってしまったのだろう…。そんな事も見当もつかない程、あの星と光の国の時間の尺度は不気味なまでの相違があった。

 

 気付けば俺はまた、あの遺物の倉庫に来ていた。過去の遺物…そんな物を見たって、今のこの気持ち悪いモヤモヤが晴れるわけじゃない。でも、ここなら少しは紛れる気がした。

 昔はわからなかった。こんなガラクタにしか見えない物に、御大層な価値があるのか。保管して何になるのか。でも、今の俺なら少しだけわかるような気がしていた。

「おや、随分と久しぶりな顔ですね。息子くん。」

 懐かしい声が、奥から聞こえてきた。ブルー族のその青年は白衣に身を包み、以前と同じように何かをチェックしている様子だった。

「久しぶり…だけど、やっぱりその呼び方はちょっとなぁ…。」

「フフッ。つい癖っていうか、久しぶりにちょっとからかいたくなっただけですよ。立派になりましたね、タイガ。」

「全く勘弁してくれよな…。ただいま、フィリス。」

 俺は嫌そうな表情を見せながら、内心懐かしく感じていた。前は父さんと比べられてばかりだった事に嫌気がさしていた。でも今は、それすらも自分の個性だと思っている。ウルトラの父が居る。ウルトラマンタロウが居る。そして、タイガがここに居る。今はむしろ誇りたいくらいだ。

「地球での活躍は私も聞いていますよ。まさか、あのトレギアを…。」

 フィリスがそう嬉しそうに話してくれる。父さんを通じてなのか、俺の地球での事は広まりつつあるらしい。嬉しいような、少し恥ずかしいような感じだ。全く父さんは…厳しいんだか親バカなんだか。

「まあな…でも、仲間が居なきゃ勝てなかった。ニュージェネレーションの先輩方、タイタスとフーマ…それに、地球人のヒロユキも。俺一人の力じゃないよ。」

 俺はそう言って、照れ隠しをしてみる。フィリスはそんな俺の腹を見抜いてか、少しニヤけていた。

「そうですか…あれだけ自分の名声に拘っていた君が、そんな事を言うようにねぇ…?」

「な…何だよそれ!俺そんなにがっついてないぞ?!」

「フフフ…意外と、君も謙虚になったんですね。」

「酷いなフィリス!確かに…前は言ってたかもしんないけど…。」

 俺は恥ずかしさに声が細くなる。確かに昔は、自分の名前だけを人々の記憶に刻み込みたいと思ってた。でも今となっては、その隣に仲間が居て欲しいと思ってる。俺も変わってたんだな…。


「…ところで、今日はどうしてここに?思い出話をしに来たって顔じゃないですよ。」

 見抜かれてたか…。作業の手を止める事は基本的にない。それでいて会話も流暢にこなす。その上、俺の心まで読めるなんて…。本当にフィリスは器用というか、それ以上の得体の知れない凄さを感じる。

「言わなくてもわかりますよ。君と私の仲じゃないですか。さあ、話してごらん。」

 俺はフィリスに言われるがまま、自分の思いの丈を話し始めた。

「地球を離れてからさ…結構色んな事を思い出すんだ。あそこに居た時の事。本当はもっと居たかったのかなって。それ以上に…ヒロユキと別れたくなかったのかなって。そう思ったら、時々妙に寝付けない時とかがあってさ…。虚しさなのか、寂しさなのか…。何て言うか、心に穴が開いた感じになるんだよな…。」

 俺の言葉に、手を止める事無く頷くフィリス。どこか遠い目をしながら、俺の話を聞いてくれていた。

「なるほどね…あの頃の君からはとても聞けそうになかった言葉だ。君がそんな事で悩むようになってたとはね…。」

「そんな事とは失礼だな!これでも真面目に不眠症なんだぞ?!」

「失礼…そういう意味じゃないですよ。かつては絆についてあまり関心の無かった君の口から、今度はあの時の話の主人公に近い悩みを抱えるようになるとはね。数奇な運命を感じますよ。」

 あの時の主人公…メビウスの事だな。俺の兄弟子のメビウス。父さんの教えを受けた、兄にも近しい頼れる先輩。彼についての話も、以前ここで聞いたんだったっけ…。

「確かにそうだよな…。仲間との寿命に悩んでた彼と同じだ。俺もさ…人間との時間の感じ方の違いとかを感じて、もしかして今頃もうヒロユキは居ないんじゃないかとかって考えちゃってさ…。こんな言い方するとメビウスに失礼かもしれないけど、こんな事で悩むなんて情けないよ…。」

「…情けなくなんかない。」

 フィリスが小さく呟く。いつもと違う、いつにも増して真剣な口調で。

「久々に、あれ聞いてみます?」

 そう言いながら、フィリスはどこからともなく例のカプセルを取り出した。トライガーショットと呼ばれる、メビウスの宝物だ。

「…せっかくだし、頼むよ。」

 フィリスはその俺の言葉に頷いて、カプセルを操作して音源を再生する。あの時聞いた声と同じ声たちが、変わらずそこにあった。

「…メビウスはね、これがあったから再び立ち上がれたんです。あの一件を乗り越えるまでには、計り知れないくらいに苦悩を続けた。彼はその前までは声が擦れる程に涙を流し続け、でもその度に再び立ち上がろうと彼は努力し続けた。何度も何度も現実に打ちのめされて、でもその度に独り苦悩と向き合い続けた。このトライガーショットは、まるでそんな彼の心に応えるように届いたんですよ。永い時を経て…ね。」

 フィリスの言葉が、俺の何かを揺すぶる。今になって、ようやく兄弟子の心を知ったような気持ちになれた…気がする。彼のように長く悩んではまだいないけど、いずれは同じ道を辿るのだろうか…。

「俺は…乗り越えられるのかな…。こんな辛い試練、俺には…。」

「そう気負うものでもありませんよ。かえって辛いだけです。『乗り越えられるか』じゃなく、『乗り切って彼を安心させる』くらいの気概でいなくては。」

 案外スパルタな事を言うフィリスに、俺は苦笑いするしかなかった。でも、確かにそうかもな。こんな事じゃ、ヒロユキに笑われちまう。


「…そうだ、君にもう一つ話しておいた方が良い話を思い出しました。」

「ん?何だよフィリス?」

 フィリスはそう言って、手元の端末を操作してモニターに映像を映し出す。そこには、地球のものと思われる写真が並んでいた。

 兄弟子の人間態…と思われる地球人を中心に笑顔で並んでいる、10人の男女の写真。白いボロボロの板に刻まれた、名前と思しき地球の文字。それ以外にも、何枚もの思い出がそこに並んでいる。

「これは…?」

「これは、トライガーショットの起動キーとして一緒に送られてきた通信用多目的デバイスに入っていた画像のデータです。まぁ、メビウスが自宅で保管したいってダダをこねたからコッチに保管できているのはトライガーショットだけなんですけどね…。デバイスのデータのコピーは取らせてもらいましたけど。」

 俺の脳裏には、モノクロの三面怪人をお菓子の生地の如くこねくり回す…もとい、そのデバイスを頑固に手放そうとしない兄弟子の様子が容易に想像できた。兄弟子は優しいけどそういうところあるからなぁ…。

「…そして、この写真なんですけどね…。よく見て下さい。」

「ん?」

 フィリスに言われて、モニターに目を凝らす。並んだ写真のうちのフィリスが注目した一枚には、さっきの写真の人達の手が映っていた。そして皆、その手の中に何かを持っている。お守り…それも手作りだろうか?

「これ、かつてメビウスが一度地球を去らないといけなくなった時がありましてね。その時にメビウスが地球の仲間達に手渡ししたものなんですよ。この炎の模様…ファイヤーシンボルがその特徴です。」

 フィリスの言う通り、皆の手のお守りには炎が描かれている。何故だろう…その炎を見つめていると、自然とこちらの心まで暖かくなっていくような気がした。

「このファイヤーシンボル、メビウスが居た防衛チームの…」

「覚えてるよ。CREW GUYS…だったっけ?」

「そう。GUYSにとってのシンボルマークのようにもなっている、大切な紋様なんです。ほら、写真の中にもいくつか映っていますよ?」

 そう言われてみると、他にも戦闘機の機体などにも確認できる。まるで地球人の絆を象徴するかのように、至る所にこの紋様が使われていた。

「…あれ、でもこの模様…。俺、前にもどっかで見た気がするぞ…?」

「気付きましたか?そう、これはメビウスの『あの姿』の元になっていた紋様なんです。」

 あの姿…メビウスの強化形態、バーニングブレイブの事だな。『燃える勇者』の二つ名を持つ、紅蓮の戦士の姿。直接見たことはまだ無いけど、候補生の時に授業で見たことはあった。メビウス本人からも、組手の時に話にだけは聞いた事があったっけ…。

「メビウスにとって、この姿で居られるという事は、GUYSのメンバーとの絆が繋がっている事そのものだったそうです。だから地球に居た時は、例え近くに仲間が居なくてもこの姿になれた。『例え離れていても、心は繋がっている』。そう信じて、地球での任務を最後までやり遂げました。」

 フィリスはまるで、自分の事のように嬉々と話す。メビウスと仲が良いのか、彼がメビウスの話…それも地球での事を話している時はいつも上機嫌だ。いつもはクールな彼だが、この時ばかりは熱が入っている。

「…でも、それ以降の彼は…。以前にも話したように、仲間たちとの寿命の違いに悩むようになってしまいました。ちょうど、今の君のようにね。そして彼の心には埋まらない孔が開いてしまった。その影響で、彼はバーニングブレイブになれなくなった時期があったんです。」

「…そんな?!だって…あの姿は思い出の…」

「だからですよ…。メビウスは地球に居た当時、『心が繋がっている』と感じられていたからあの姿でいられた。でも地球を去って以降の悩んでいた時期は、彼の心からそれが消えてしまった。覆しようもない厳しい現実を思い知らされて、絆という概念を感じられなくなった…。そのせいで、彼の心から炎が一時的に消えてしまった事があったんです。」

 そんな…。まさか兄弟子がそこまで追い込まれていたなんて、知らなかった。誰からも聞いた事がなかったし、兄弟子本人もそんな背景は顔にも出したことはなかった。常に笑顔を保っていた彼が、あの微笑みの裏でそんな事を抱えていたなんて…。似た経験をしている今、その辛さはより一層俺の心をも掻いた。

「じゃあ…どうやってそんな辛い事から立ち直ったんだよ…?やっぱり、このトライガーショットが届いたから解決したのか?」

「いえ、それも大きいですが…単にそうという訳ではありませんよ。彼はただ待っていた訳ではありません。これが届くまでの間、彼は再びその胸に炎を浮かび上がらせる為の修練を続けていました。レオの元で格闘技術を磨き上げ、ヒカリと共に剣術の特訓を重ね、時にはタロウ教官に再び教えを乞うていた時もあったんだとか。」

 父さんに…。メビウスはもうとっくに卒業していたはずなのに…そこまでしたんだな…。

「そして戦いの修練以上に、彼は『絆』という物そのものを改めて学び直していたそうです。光の国の文献を読み漁り、ウルトラマンと地球人の関わりについてを再び学んでいたんだとか。…けど、他の誰よりも地球人と深い関わりを持っていた彼にとっては余り心に響き切らないものがあった。勉強にはなっても、心の孔は埋まらなかった。それでも彼は、あの姿を思い出す為のヒントを探し続けたそうです。」

 そこまでしてたのか…。優等生気質な兄弟子と違って、俺はそういう地道な学問というのは得意ではない。改めて、メビウスの…兄弟子の凄さを思い知らされた。彼がよく口にする『最後まで諦めず、不可能を可能にする』という言葉…まさに彼の人柄そのものを表しているような気がした。

「その後…メビウスはどうなったんだ?バーニングブレイブにはなれたのか?」

「いえ…彼の戦闘スキルの上昇には大きく貢献したものの、彼一人の力では不可能でした。いくらウルトラ兄弟の享受を受け取ったとしても、あの姿の鍵は地球人との絆。それを彼が再認識できない限りは余りにも困難だったようです。」

 そうなのか…。俺はますます不安が増してしまった。同じ様な現状になった今、この心のモヤモヤは晴らせるのだろうか。もしかしたら、このまま一生この苦しみを抱えて生きていくのだろうか。

 メテオールという超技術はヒロユキの居た地球には無い。だから、メビウスのように贈り物が届くとは到底思えない。あのメビウスでさえ自力で乗り越えられなかったのに、俺には…。

「…でも、何もそんなメビウスを放っておけない人もいた。その彼もまた、メビウスと同じ地球で過ごしたウルトラマンでしたよ。」

「え…それってヒカリのことか?」

「そう。見兼ねたヒカリはついにメビウスと本気で戦うと言い出しましてね…。もっとも大っぴらに言えた事ではないので、これを知ってる者は少ないですがね。」

 今のヒカリからは想像もできないな…。科学者としてのイメージが強い彼が、そんな愚直な事をするなんて…想像できない。

「その時のヒカリは、まるで悪鬼の様でした。とても私たちの知るウルトラマンヒカリではない、まるで復讐に餓えた…そう、かつてのハンターナイトツルギの様な。」

 ツルギ…。かつて惑星アーブを滅ぼされ、その星の怨念が作り出した鎧を身に纏っていた時期のヒカリの姿。でもメビウスや地球の人々との交流を経て心を取り戻したと聞いている。

「ヒカリはその時、言っていましたよ。

『誰がこんな俺を変えてくれた?誰のお陰で今俺はこうして居られる!?お前達が居たからじゃないのか!? そのお前が!地球での事を忘れたとは言わせないぞ! お前はいつまでも〈ヒビノミライ〉…例え何億年と時間が流れようと、あのリュウ達と共に居た、GUYSの一員だろうが!!』

…ってね。あんなに熱いヒカリ、見た事なかったですよ。」

 フィリスの言葉に、俺は唖然とした。いつも物静かなあのヒカリが…?そんな熱い事を言う人だったんだな…。

「そのヒカリの言葉を聞いて、メビウスも黙ってはいられなかった。次第に体から炎を巻き上げながら、再びメビュームブレードを展開してヒカリに立ち向かいました。しかし剣術ではヒカリの方が一枚上手で、すぐにブレードをへし折られてしまった。それでも、メビウスは喰らいついていきましたよ。よほどヒカリの言葉が悔しかったのか、まるで地球に居た当時にようにガムシャラに…。」

「それで…決着はどうなったんだよ?」

「そうですね…戦いの勝敗としては、痛み分けに終わりました。お互いの長所をぶつけ合って戦いは長期化し、お互いの体力が切れるまで延々と続きましたからね。」

 改めて驚いた…。あのメビウスと全くの互角の戦いを繰り広げたなんて、ヒカリは科学者として過労するには勿体ない程に強い戦士だったのか。

「…でも、ある意味ヒカリの戦略勝ち…そしてメビウスも、求めていたものは手に入る形でもありましたよ。」

「…??? どういう事だ?」

 不思議そうな俺の顔を見て、フィリスは悪戯っぽく微笑む。

「…メビウスの胸に、ファイヤーシンボルが戻ってたんです。」

「え?! それじゃ…ヒカリとの戦いでバーニングブレイブに再び変身できるようになってたのか!?」

 驚く俺の反応を楽しむように、フィリスが言葉を紡ぐ。

「そう…メビウスはヒカリと心でぶつかり合った。そして、次第に思い出していました。初めて地球に来た時、リュウさんに罵倒された事。ボガールとの戦いの中で築いた、ツルギとの…今のヒカリとの友情。そして戦いに倒れた自分へ呼び掛ける仲間達の声。それ以降も、何度も何度も絆を試されて…その度に立ち上がり続けた事。」

 メビウスの地球での活躍…。俺も過去に話には聞いていた。でも今は、話として聞いているのではなく、心で聞いているような感覚だ。地球での経験を経て、彼と同じものを感じている今なら…。

「…そして再び思い出したんです。『離れていても心は繋がっている』ことを。綺麗事に聞こえるかもしれない、現実はそうじゃないかもしれない。それでも、仲間を信じていたい。信じる力が、勇気になるという事を。」

「信じる力が、勇気になる…か。」

「かつてウルトラ兄弟から教わった言葉でしたが、これは単に『自分を信じろ』という意味だけじゃなかった…あの時の彼は、忘れかけていた大切な物を…つまり『仲間との絆を信じろ』と解釈した事になりますね。自分ひとりを信じるのではない、例え時間も距離も遠く離れていても、忘れない限りは思い出は消えない。絆は決して途切れない。それをヒカリの言葉で思い出していったようです。」

 何故だろう。これはあくまで兄弟子の話のはずだ。しかも他の人から又聞きする形なのに。なのに…俺の心にまで、彼の熱が届いているような…。俺の心にも炎が再び灯ったような感じがした。


「…さて、今度は君がどうするか…ですね。」

 フィリスがいつものクールさを取り戻し、俺に語り掛ける。そうだ…話に夢中で、自分が悩みを吐き出したくてここへ来たという事を忘れそうになっていた。

「俺もか…。でも、俺はメビウスのようにはできないよ…。トライストリウムの強化には、ヒロユキが必要不可欠だからさ…。」

 俺はそう言って俯く。普通に考えれば無理な話だ。あの姿は『トライスクワッド』じゃダメなんだ。『クワトロスクワッド』だからこそなれる姿だから。あいつの存在は欠かす事は、絶対にできない。

「確かに、彼が…ヒロユキ君が居たからなれた姿だったのは私だって承知しています。彼を忘れてのトライストリウムはあり得ない…それは重々わかっています。」

「だったら…」

「だからこそ、彼を忘れない為にあの姿が必要じゃないんですか?」

 俺の反論をピシャリと切るフィリス。彼の目は真剣そのもので、単に無理難題を押し付けているわけでもない…ように見えるのは何故なんだろう。

「かつてメビウスがした様に、ヒロユキ君と生きた証を残すべきだと思います。彼が居たからこそのあの姿…それを残す事そのものに大きな意義があるはず。メビウスが絆の炎をその身に刻んだ様に、君もまたヒロユキ君との絆の証をその身に刻み続けておくべきだと思います。」

 フィリスはそう熱弁する。でも…無茶を言うよな。

「いやでも…この場にヒロユキも居ないのに、なれっこないよ…。」

「メビウスにできた事です、君にできないわけありません。君も彼と同じウルトラマンでしょ?…それに私の見立てでは、その為の術は既に君の手の中にあると考えています。」

「俺の…手の中?」

 そう言って、俺は自分の両手を見つめる。でも掌の中には何もない。手ぶらで来たから、あるはずもない。

「手の中…別に何も無いんだけど…?」

「肝心な事は、常に目に見えるとは限らない。大切な物は、常に裏側に潜んでいるものですよ。」

 裏側…その言葉に釣られ、何の気なしに俺は掌を返す。…そう言う事か、と俺は手の甲のそれを見て納得した。

「そうか…タイガスパーク…!」

「そう。そのアイテムはそもそも、ウルトラマンが他の星の生命体と一体化する為のアイテム。例え生まれた星が違う相手とも絆を結べるようにと、君の父上の友人が開発したものですからね。」

「そうか…そういえば父さんから聞いたっけ。今思うと心底意外だけど…。」

 あのトレギアが、絆に関するアイテムを作ってた。あれだけ絆や光を否定していた彼も、かつては父さんと絆を結んでこのアイテムを作ったんだな…。

 結果論だけど、彼が居なければ俺達の成長は無かったのだと思ってしまう。タイガスパークにしてもそう。地球に居た時も、彼が仕組んだせいでフォトンアースの力を手に入れたし、怪獣リングを意図的に配ってたせいで闇堕ちして、そのお陰でトライストリウムになれた。認めたくは無いけど、彼が居なければ今の俺もないんだよな…。

「そのタイガスパークというアイテム、その真価が試されるのは今なんじゃないですか? ヒロユキ君と距離ができてしまった今こそ、彼と築いた確かな物を形にできる…その為のアイテムと言っても差し支えないと思いますよ?」

 フィリスの言葉に、俺は頷いて見せた。つまりこれは、極端に言ってしまえば俺達がトライストリウムになる為のアイテム…そう、この日の為の物だったんだ。

「タイガスパークがある限り、そしてヒロユキを忘れない限り…俺達は、例え離れていてもヒロユキと一緒に居られるって事か…?」

「そう言う事です。さすが息子くん、物分かりが良い。」

 息子くん、か…。父さんが居たから、今のメビウスが居る。そのメビウスが前例を見せてくれたから、俺も前に進めるんだ。父さんにも感謝しなきゃなんだな…。

「…あれ、嫌がらないんですね。てっきりまた『息子って言うな!』って言われるかと思いましたけど。」

「わかってるなら言うなよな!…でも、俺は紛れもなくタロウの息子だし。だから俺は、今こうして生きてる。これで良いんだ。」

「…大きくなりましたね。タイガ。」

 フィリスは嬉しそうに、俺の名を呼んだ。


「あ…俺そろそろ行かなきゃだ。二人を待たせちゃってた。」

「そうですか。まあ帰省も良いですけど、こんな所にばっかり来てないで、ちゃんと親孝行してあげて下さいよ。」

「おう!また来るな!」

 フィリスは口ではああ言ってるが、本当は満更でもないのを知ってる。だから俺は、彼をからかう様にそう言ってやった。

「全く…底抜けに明るいのも教官譲り…なのかな。フフッ。」

 そう言って、彼の銀色の目が俺を見つめているような気がした。白衣の下の…菱形のカラータイマーを輝かせて。


 M78星雲の惑星の一つ・惑星クラインで待っていたタイタスとフーマ。随分待たせちゃったのか、フーマはタイタスの無茶な筋トレに付き合わされていた。

「悪い!遅くなった!」

「ったく…遅ぇよタイガ!どんだけ待たせるんだよ全くよぉ!」

 タイタスと長時間居させたせいか、筋トレのし過ぎで気が立っているらしい。俺もお前の立場だったら同じ事を言うと思うよ…。

「悪い…ちょっと友達と久々に話してたからさ。」

「そうか…それは水入らずで話せて良かったではないか!私とフーマは、ご覧の通り時間を有効的に使っていたし、問題は無いぞ!」

「いや大ありだよ旦那ァ!きつ過ぎて死ぬかと思ったぜ…。」

「ム、そうか…だが健全な身体を作り上げるのにはあれぐらいがちょうど良…」

「旦那のはやり過ぎなんだよ!大体、俺がそんな体になっちまったら『風の覇者』のスピードが出せねぇんだよぉ!」

 見慣れた喧嘩を俺は見つめている。もしここにヒロユキが居れば、この喧嘩を止めに掛かってただろうなぁ…。

「あぁ…ごめんって…。二人とも落ち着けよ…。」

 

 飛び立った俺達3人は、次のミッションに赴くべく宇宙を駆け巡っていた。昨今、宇宙を騒がせているデビルスプリンター。その調査をするべく、怪獣墓場を目指して。

「…さてと、到着~っと。でも、見た感じ異常なんてどこにも無さそうだけどな。」

「いや、そうとも限らん。土の中に埋まっている怪獣がいつ目を覚ますかわからないからな。用心を怠るな!」

 俺の言葉に、タイタスが注意を呼び掛ける。だが、本当に見ただけでは静寂そのもの。いくら倒された怪獣の墓場とは言え、とてもじゃないが復活の兆しなんて見受けられない。

「…おいおい、何だよアレ!」

 驚くフーマの声。目線の先を追うと、さっきまで何も無かった筈の場所に一本の棒らしきものが突き刺さっている。だが、あの禍々しい形…それを認識した時、俺も冷静ではいられなくなってしまった。

「あれ…ギガバトルナイザーか!?確かジードとベリアルの戦いで破壊された筈じゃ…?」

 100体もの怪獣を同時に操る事ができる魔のアイテム。そんな物がどうして…これもデビルスプリンターの影響なのか…?

「あのアイテムはベリアルが使用する事例がほとんどだった…恐らく、そのベリアルの欠片であるデビルスプリンターに反応しての事ではないだろうか…?」

 冷静に分析するタイタス。もし本当なら、かなり厄介だぞ…。

「しゃらくせぇ…一気にぶっ壊してやろうぜ!」

「待て!安易に触れるべきではない!いくらレイオニクスにしか使えないとは言え危険だぞ!」

「だからだよ!もしデビルスプリンターのせいで復活してそいつの手に渡ってみろ!どうなるかわかんねえぞ!」

「クッ…確かに…。」

 フーマの言葉を飲み込むタイタス。俺もフーマに頷き、予備動作として右腕を振り上げた。

「ストリウム…!ブラスタァァーッ!!!」

「プラ二ウムッ!バスタァーッ!!!」

「極星光波手裏剣ッ!!!」

 3人同時に必殺技を放ち、ギガバトルナイザーを破壊せんと三閃の光が飛び交う。

 …が、それがどこからともなく降ってきた何者かによって阻まれた。

「何…?」

 俺達が驚いている間に、そいつはギガバトルナイザーの方へと歩いて行く。そしてソレに手をかざし、何かを唱えていた。

「ウジュイカ…レエガミヨ…!」

 その言葉に反応するかの様に大地は揺れ、やがてその地を崩すように何かが這い上がって来る。

「おいおい…こいつはどういう了見だぁ…?」

「まさか奴は…!」

 二人の不安を煽るように地の底から姿を現したのは、三体の合体怪獣…そしてその奥で不敵な笑みを浮かべていたのは、かつてオーブやゼロが倒したと聞いた筈の亡霊魔導士・レイバトスだった。

「何で…まさか奴もデビルスプリンターで?! どんだけ便利で迷惑なんだよデビルスプリンターってのは!」

 俺の叫びも虚しく、レイバトスが掲げたギガバトルナイザーに従う様に怪獣達はこちらへと向かってくる。

「やるしかない!行くぞ二人とも!」

「おうよ!」

「あぁ…わかった!」

 タイタスの言葉に、俺達は三手に分かれた。


 タイタスと対峙している怪獣…いや、ベリアル融合獣のキングギャラクトロン。魔法陣を利用してタイタスの周りを取り囲み、目から放つ赤い光線を四方八方からタイタスへと浴びせ掛ける。タイタスはそれを自慢の筋肉で弾き返しつつ、キングギャラクトロンへと近づいて行く。

「この程度の光線技!私のウルトラマッスルの前では屁でも無いッ!」

 そう言って、額からアストロビームを発射して応戦しつつ右腕に緑色の光を滾らせる。

「愚かな悪の僕(しもべ)よ…賢者の拳を受けるがいいッ!ワイズマンズフィストォォォ!!!」

 執拗な攻撃に怯む事無く距離を詰めたタイタスは賢者の拳をキングギャラクトロンに打ち込み、その硬い装甲にヒビを入れながら転倒させた。

「力という物はな…振るうべき時というものがある!無闇に誇示する者を、決して許しては置けんッ!!」

 タイタスは馬乗りになり、胸の前でエネルギーを溜めていく。そしてそれを右手に纏わせ、キングギャラクトロンへと再び撃ち込んだ。

「プラ二ウム…!バスタァァーッ!!!」

 だが黙って食らう程、敵も脆弱ではない。右腕のランチャーからビーム砲で応戦し、プラ二ウムバスターを相殺する。その威力にタイタスは弾き飛ばされ、高く舞い上がり地面へ落下する。

「くっ…あくまでもタダでは折れんというわけか…良いだろう!」

 タイタスは再び立ち上がり、ファイティングポーズを取り直した。


 場面は変わり、フーマはスペースビーストの集合体・イズマエルと相対していた。そのおぞましい姿に屈する事無く、得意の高速ヒット&アウェイ戦法でイズマエルに攻撃を加える。

「逃げようったってそうはさせねぇぜ!正々堂々と来いよ!」

 イズマエルが全身から放つ攻撃をかわしつつ、光波手裏剣を打ち込んでいくフーマ。だが攻撃はお互いにぶつかり合い、一進一退のシーソーゲームが続く。

「あぁクソ…決め手に欠ける…。」

 フーマは地面に立ち直り、右腕のタイガスパークから一閃の光の刃を生成する。それをイズマエルに突き立てるように構えた。

「光波剣…大蛇ッ!!!」

 その掛け声と共に、光の如き速さでイズマエルに急接近し、まるで居合切りの様に斬り付けて過ぎ去った。だが、腹部のクトゥーラの顔を潰した以外にはまるでイズマエルにダメージを与えられた様子は無い…。

「効いてねぇってのか?! こいつ生きる屍みてぇな野郎だな…屍なら屍らしく、とっとと土に還りやがれ!セェーヤァッ!!」

 フーマは再び光波手裏剣を両手に構え、イズマエルに向かっていった。


 俺が相対しているのは、超合体怪獣・グランドキング。父さんもかつて戦った強敵だ。俺は距離を取りつつスワローバレットで牽制し、口から放たれる熱線をかわす。

「父さんから話には聞いている…けど俺だって一歩も引かない!俺はウルトラマンタロウの息子だ…!父さんにできたんだ!俺だって!」

 俺は自らを鼓舞し、体から溢れ出す光のエネルギーを右手に集中させる。それに左手をかざし、体を虹色に発光させながら両手を腰の前に構える。

「ストリウム…!ブラスタァァーッ!!!」

 俺は右手を突き立てながら両手をT字に構え、必殺光線をグランドキングの腹に向けて発射した。だがその硬い装甲に阻まれ、まるで効いている様子は無い。

「クッ…効かないか…。でも…それでも光は倒れない!限界なんて何度でもぶっ壊してやる!!」

 俺はさらに威力を上げるが、まさに最強の盾といったところか…装甲に穴が開く様子は全く無い。効くどころか、むしろグランドキングから熱線をこちらへ撃ってきた。

「あっぶねぇ…そう簡単にやられてたまるかよ…。」

 俺は再び構えを取り直し、グランドキングの動きを見つめる。奴が全身から放つ電撃を空中で錐揉み回転を繰り返しながら避け、時々ハンドビームで応戦するがそれも通用しない…。全身に武器を隠し持っている奴の動きを見切りつつ、避け続けるのが精一杯だった。

 やがてグランドキングは頭部にエネルギーを溜め始め、こちらへ向けて来る。グランレーザー…下手をすれば惑星を3つ同時に破壊するなど造作もないと聞いた。まともに食らえば命はない…。

「…俺だって…!父さんを越えられる…!俺一人ででもやってやる!」

「輝きの力を手に!」

 俺の掛け声に合わせ、黄金の鎧が俺の体を包んでいく。そしてウルトラホーンは金色に染まり、体の成長を表すかの如く大きく伸びた。

「ウルトラマンタイガ!フォトンアース!」

 黄金色の姿に変わった俺は、腰元の両拳を添えてエネルギーを込める。背景にオーロラが広がり、俺はそれを右腕に吸収させながら両腕をT字に組み直す。

「オーラム…ストリウム!!」

 グランレーザーに対抗すべく放ったオーラムストリウムだったが、空中でぶつかり合ったが一瞬の均衡の後にすぐに弾かれてしまった。俺は只ならぬ危険を感じ、間一髪で避けてみせる。ぶつかり所を失ったグランレーザーは、やがて怪獣墓場のグレイブゲートに大きな穴を開けてみせた。

「嘘だろ…いくら何でもこれは規格外じゃないか…?」

 驚く俺に構う事無く、全身からありったけの弾頭を解き放ち、俺に容赦なく降り掛かった。疲弊した俺は回避も追い付かず、ついには攻撃をモロに食らって膝を付いてしまった…。


「タイガ!大丈夫か!」

「おいタイガ!今そっちに行くぜ!」

 タイタスとフーマが俺を心配している。二人に迷惑をかけるわけにはいかない…俺も立たなきゃ。だがグランドキングの攻撃力は並みの怪獣のそれとは大きく違っていた。膝を立て直すどころか、体が起き上がらない…ついに地へと倒れ伏してしまった。


 暗闇の中に引き摺り込まれる感覚…まるで、あの時の…トレギアの策にはまり、闇堕ちしてしまった時の感覚に似ている。自我が次第に薄れていき、深い深い闇の底へと沈んでいくような感覚になっていく…。

「…ガ…。…イガ…!…タイガ!」

 誰かの声が聞こえる。よく聞き慣れた声…。自分と一心同体だった、あいつの声だ。

「君が居たから、僕は今こうして生きてる!君と一緒だったから戦ってこれた!上っ面だけの言葉じゃないんだ!僕達の『絆』は!確かにあるんだ…僕らの歩んできた日々そのものは、確かに存在する!何度も何度もぶつかり合って、その度に肩を組んで歩いてきた日々が!そしてその思い出は誰にも消せはしないんだ! だからもう一度!僕の手を取ってくれ!タイガ!」

 ヒロユキ…間違いなく聞こえた、相棒の声。その声の方向に、一筋の光が見えた。あれは…ヒロユキの光なのか…?

「僕が君で…!君が僕だ!いつまで経っても!どれだけ離れていても!僕らは変わらない!永遠の相棒〈バディー〉だ!叫べタイガ!僕らの合言葉を!」

 そうだな…ヒロユキ…!例えお前がどれだけ離れてても、俺はお前を絶対に忘れない…!覚えている限り…俺達はずっと…!

「『バディー…!ゴー!!』」


「起きろタイガ!来るぞ!」

「俺に掴まれ!飛ぶぞ!」

 現実世界のタイタスちとフーマの声も聞こえる。闇を抜け出し、ようやく意識が戻ってきた。

「俺は…一体…?」

「困るんだよ!倒れられちゃあな…!」

「今は議論している場合ではない!大丈夫かタイガ!」

 そうか…グランドキングの猛攻に倒れた俺を、二人がすくい上げてくれたのか。

「すまない…俺が不甲斐ないばっかりに…。」

「何を水臭い…私達の間でそういうのはナシだ!」

「そうだぜタイガ!一人で突っ走って、それでやられる方が困るんだよ!前みたいに一人に拘って、そのせいでやられたらどうするんだよ!大体チームワークを俺に教えてくれたのお前だろ?」

 そうだったな…。あの孤独な一匹狼だったフーマから逆に諭されてしまった。お前も変わったんだな…。

「君は少し休んでろ。ここは私達が引き受ける!」

「だったら…これを持って行ってくれ!」

 俺は金色の光をタイタスに、青色の光をフーマに渡す。せめて二人の力になれれば…と思って。

「これは…!フォトンアースの力か?」

「おいおい…こっちはゼロの腕輪じゃねえかよ!良いのか?」

「あぁ…戦えない代わりに、せめてもの俺からの気持ちだ!頼んだぜ!」

 二人は力強く頷き、再びそれぞれの敵の元へと飛び立っていった。俺は少しの間だけ、休息を取らせてもらうぜ…頼んだ、二人とも。


「さっきはよくも私の僧帽筋と三角筋と上腕二頭筋に傷をつけてくれたな!万死に値する!」

 キングギャラクトロンに激昂するタイタス。地面へ着地すると共に、右手のマッスルス〇-ク…もとい、タイガスパークを起動させる。

「輝きの力を手に!」

 その言葉と共に、右手に握り締めた黄金の光を全身に纏わせていく。タイタス版フォトンアース、ここに来てようやく誕生である。

「ウルトラマンタイタス!ストロングマッスル!…いや、バルクチョモランマもやはり捨てがたい…。なぁお前、どっちが良いと思う?」

 キングギャラクトロンにお茶目に問い掛けるタイタス。だがキングギャラクトロンはそれにお構いなしに砲撃を食らわせる。が、黄金の鎧の前にその砲撃も効果は薄かった。

「私の自慢のウルトラマッスル、そのうえこの鎧…そう簡単にこの牙城は崩せんぞ!」

 タイタスは攻撃を避ける事無く歩み続ける。攻撃をものともせずに距離を詰め、ついに右腕のランチャーに手を掛ける。

「いかんぞ…こんな物騒なものに頼っていてはな!」

 そう呟いたタイタスは右腕を締め上げ、そのまま背後に回ってキングギャラクトロンの巨体を軽々と持ち上げる。

「戦闘とはそもそもッ!身一つで行うべきであろう!!武器に頼れば隙が生じるとはまさにこの事だ!食らえ…ロンドン名物ッ!タワーブリッジッ!!」

 タイタスは肩で担いだキングギャラクトロンの腰をへし折らんと、両腕で敵の全身を締め上げる。

「フン…あまり紳士をバカにするなよ…!」

  タイタスはそう言いながら巨体を投げ飛ばし、地面に叩きつける。

「これで終わらせるッ!オーラムゥ…!プラ二ウムッ!!!」

 タイタスは胸の前で生成した黄金のエネルギー光球を右の拳に纏わせ、砲丸投げの如き力強さを以て解き放った。既にタイタスのウルトラマッスルに蹂躙されてボロボロだったキングギャラクトロンの装甲は砕け散り、ものの数秒でスクラップと化した。

「はいぃぃ…!!」

 ようやく強化形態を手に入れてご満悦なタイタスは、サイドチェストを強調するようにポージングをキメた。キレてるよー!


 イズマエルを一気加勢に責め立てるフーマ。ゼロスラッガーを思わせる二本の小刀を両手に携え、目にも止まらぬ速さで斬りかかる。

「こっちだってキレてるぜ!キレキレで斬ってんだよ旦那ァ!」

 タイタスの戦いぶりを見て、フーマも負けじとイズマエルに攻めかかる。全身のスペースビーストの部位を破壊していき、相手に攻撃の隙を一切与えない。

「もうこれは以上やらせねぇよ…!」

 フーマは二本のスラッガーを合成し、一つの双剣に生成する。

「光波剣・大蛇!そして…零式光波双剣!二刀流ってやつだぁ!!」

 右腕に鞭状の刃、左手にゼロツインソードを思わせる弓のような大剣を携えてイズマエルに斬りかかる。大蛇をしならせてイズマエルの体に巻き付けて体を固定し、双剣で右肩のノスフェルの爪を打ち砕く。そして大蛇を切り離し、全身に螺旋状の傷を入れる。

 だがイズマエルもタダでは退かない。残った部位から再び集中砲火を浴びせ、フーマを強襲する。

「あっぶねぇな!零式光波手裏剣!」

 フーマはスラッガー型の光波手裏剣を大量に撃ち出して攻撃を相殺する。ぶつかり合った衝撃でフーマの姿は煙に巻かれ、イズマエルの視界から消える…。

「…どこに目をつけてやがる!俺はここだァーッ!!」

 イズマエルは声のする頭上へと視界を移す。そこには先程の双剣を弓の様に構え、限界まで弾いてエネルギーを充填させるフーマの姿があった。

「散々色んな奴に色んな物を植え付けたって顔してやがるよな…お前ぇ! これ以上…もう誰も泣かせやしねぇ!!零式光波弓・八岐大蛇(ヤマタノオロチ)!!」

 フーマの右手の先から放たれた八本の矢がイズマエルの体の各部を貫く。光波剣・大蛇の切っ先の形をした刃が通って穴だらけになったイズマエルの肉体は、分子レベルで分解されるかのように青い光となって消えて行った。それを見届けたフーマは、地面にゆっくりと降り立ちながら静かに呟いた。

「…終わったな。もう二度と子供泣かすんじゃねえぞ。」


 二人の戦いを見つめる俺。さすがにそろそろ、俺も見てるだけってわけにはいかないな…!

 物陰から再びグランドキングの前へと飛び出し、スワローバレットを撃ちつつ距離を詰める。口からの熱線を避けつつ懐に入り込み、腹に連続でパンチを叩き込む。だが装甲の硬さは依然揺るがない。

「ハァァァァァッ…!タアッ!!シュワァッ!!」

 気合いを込めつつ拳を叩き込む。効くかどうかは問題じゃない…二人が頑張ってるのに、俺だけ休んではいられない。

「一人で無茶をするな!タイガ!」

「そうだぜ!俺達も居る!」

 それぞれの戦いを終えたタイタスとフーマの声。加勢してくれるのか…!

「フーマ、ゼロの力を私に!」

「オーケー、そんじゃ交換な!」

 タイタスとフーマはそれぞれのタイガキーホルダーを交換する。タイタスはプラズマゼロレットを左腕に装着し、フーマは金色の鎧…というより、鎧が変形した忍者装束のようなものを身に着けていた。

「こっちだグランドキング! アストロ・エメリウム!」

「光波手裏剣ッ!」

 二人はそれぞれの攻撃でグランドキングの気を引き、後方へと誘導する。俺は一度距離を取り、一息ついた。

「ったく…一人で無茶すんなって何度も言わせんなよ!」

「そうだぞ!我々だって居るのに何故そこまで拘る?」

「…俺は一人じゃない!お前らも居るし、ヒロユキだって一緒だ!」

 俺の言葉に、二人は不思議そうな顔をする。当たり前だよな…この場にヒロユキは居ない。変な事言っちゃったな…。

「あぁ…何でもない!忘れてくれ!」

「…お前もだったのだな。」

 …え?タイタスの言葉に耳を疑った。『お前も』ってどういう事だ…?

「へヘッ…旦那もかよ。実は俺もだ!」

 フーマまで…何が起きてるんだ…?

「実はな…たまにヒロユキの声…いや幻聴のようなものなのだろうが、たまに聞こえて来るのだ。戦いを激励する声がな。」

「俺も旦那も、さっきあんなに戦えてたのはその声のお陰ってわけだ!」

 二人は攻撃の手を緩める事無くそう打ち明ける。俺だけじゃない…同じ誓いを立て合った全員、その声が聞こえてたっていうのか…? じゃあ俺がさっき聞いたのも…?

 二人はグランドキングを協力して投げ飛ばし、転倒させる。

「こいつで決めるぜ…金星光波手裏剣ッ!」

「私のビッグバンはもう止まらんぞ!ガルネイトォ…!プラ二ウムッッ!!」

 二人の攻撃がグランドキングの胴体に命中する。さっきまで俺が連続で殴り続けていた場所…その部分に、僅かな亀裂が入る。

「あそこだ!一気にガワを削り取って中身を拝んでやろうぜ!」

「「おお!」」

 フーマの言葉に頷き、俺達はそれぞれ攻撃の為に構えを取り直す。

「タイガ光輪!」

「アストロ・スラッガー!」

「金星光波手裏剣ッ!」

 3人の光輪が飛び交う。そしてそれぞれが空中で一つに合わさり、傷のついた一点を目掛けて飛んで行く。命中した光輪は高速回転を続け、やがて中の機械が剥き出しになる。

 グランドキングも予想外だったのか、それに対し驚くような素振りを見せる。そして奥の手であるグランレーザーを撃とうと、エネルギーを頭部に溜め始めた。

「最後は俺にやらせてくれ…助けてもらった分、今度は俺が!」

 俺の思いを理解してくれた二人は静かに頷き、さっきの二つの光を返してもらう。俺はその二つを同時に使用し、いつもより発光の強いフォトンアースへと変化する。

「熱くなれ太陽…!その輝きを以って鏡となれ!」

 俺はフォトンアースの半分である太陽の力をゼロレットにリンクさせ、シャイニングの力を一時的かつ疑似的に再現しようとした。

 俺は胸の前で作り出したシールドを構える。解き放たれるグランレーザーは迷うことなく真っ直ぐと俺に狙いを定めて飛んできた。

「最強の盾には最強の矛ってね!シャイニングリバース!!」

 シールドに当たった瞬間、レーザーはまるで時間が逆行しているかの様にグランドキングの方へと還っていく。そして先程つけた傷の方へとレーザーは飛んで行き、中の機械を抉るように傷口へと染み渡っていく。やがて耐久しきれなくなったグランドキングは、その硬い装甲を爆散させた。


 力を使い果たしたかの様に、鎧とゼロレットは消失。あれだけの力の使い方をしたんだ、少し時間を空けないと使えないらしい。元の姿に戻った俺は、残ったレイバトスの方へと目を見やった。

「あとはお前だけだ!レイバトス!」

 俺の声に反応して振り返るレイバトス。だが顔色一つ変えず、再び後ろを向いて歩き出そうとする。

「あっ…おい待て!」

 俺達はレイバトスに掴みかかり、ギガバトルナイザーを引き剥がそうとする。だがレイバトスはそれを腕力だけで振り切り、逆に俺達を吹き飛ばす。

「邪魔をするな…お前らはこいつとでも相手をしておけばいい。」

 レイバトスはそう言ってギガバトルナイザーを地面に突き刺し、何かを形作っていく…。その形は限りなく俺達の物と酷似していた。

「ウジュイカ…レエガミヨ…。」

 その呪文と共に姿を現したのは、紛れもなく『彼』だった。俺達が眠らせたはずの…『彼』だ。

「久しぶりだなぁ…タイガァ…!」

「…トレギア!?」

 目の前に信じられない者が映っていた。あの日、確かに葬ったはずなのに…。

「フン…君達はまだそうやって寄り集まって仲良くやっているのだな。相も変わらず…。」

「黙れ!お前こそいい加減に帰るべき場所に帰ったらどうなんだよ!」

 俺は一人トレギアに走り寄る。そしてトレギアの胸倉に掴みかかり、拳を振り上げる。

「熱いねぇ…誰に似たんだろうなぁ!!ナイトアルティガイザー!!」

 トレギアは俺が殴り掛かる寸手の所で電撃を食らわせる。まるで…地球に来る前の時のように。

「うわあぁぁっっ?!ぐあぁぁっ…クッ…うァァァ…。」

「フフッ…苦しいか…?苦しそうだなぁタイガ!こいつはただの電撃じゃない…君の心の底を洗い出す為の刺激を与えてあげているのだよ…!ハッハハハハハ…!」

 そういう彼の指には、ナイトファングの怪獣リングがはまっていた。彼もこういう使い方をするのか…などと考える余裕もなく、心身共にその闇に蝕まれていく。

「見える…見えるぞタイガ!君の心の奥底が!君は工藤ヒロユキとの別れを経て後悔しているな…?こんな思いをするくらいなら出会わなければよかったと…!あれだけ絆 絆と煩かった君が…心の底では絆を否定しているではないか!!実に滑稽だ!ハハハっハハハハハハ…!!!」

「やめろ!タイガを放しやがれ!」

 たまらず駆け出すフーマ。

「おい待て!」

 それを追うタイタス。だが戦いで消費した体ゆえか、トレギアの指先から放たれる電撃に阻まれる。

「お行儀が悪いな…順番は守らなきゃあダメだよ、坊やたち…。」

 トレギアはそう言って妖しく笑う。二人は地に倒れ、カラータイマーも青から赤く色を変え点滅し始める。俺も同じ様にカラータイマーが鳴り始め、次第に意識が遠のきそうになる。

「さあ…脆弱な地球人の事なんて忘れて私と共に来い…。そして今度こそNO.6に…君の父親に復讐しようじゃないか…!」

 ……………………。


「素晴らしいぜトレギア…全て間違ってる!!!!」

 俺は首を掴むトレギアの手を握り返す。そして力任せにその手を引き剥がし、前蹴りでトレギアを後退させた。

「確かに今の俺はヒロユキとの別れについて悩んでるよ。でもそれは絆を否定してるわけじゃない…逆だ。あいつとの絆があったからこそだ!確かにヒロユキとの出会いが無ければ今こうして悩んでもいないだろう…だがな、俺がここまで強くもなれなかった!あいつがいたから今の俺が居る!そこに一片たりとも後悔なんて無い!」

「ほお…?あんな力のない地球人にそこまで心酔していたとはな…。」

「あとな…ヒロユキを弱い奴呼ばわりするのは許せないぜ…!あいつはな…あいつはな…!自分の命と引き換えに小さな命を守ろうとしたり!闇に堕ちた俺の心をぶん殴ったり…!俺達トライスクワッドの誰よりも『心』が強い奴だった! あいつは…ヒロユキは強い!訂正しろ!」

「君ぃ…そこまであの地球人に拘るか…。まるで呪いにでも掛かっているようだな。絆などと貞操の良いように言い換えたところで、所詮は過去にすがっているだけの不確かな幻覚に過ぎないだろう!?そんなものに何の意味がある…。あんなもの、ただのフィクションに過ぎない!」

 あぁ、確かにそうかもな…。不確かなものに縋る事…それを醜いと思う奴だって居るだろう。夢や希望、それにばかり目を向けて現実を見ようとしない…それは間違った事かもしれない。でもなぁ……!!

「父さんとかつて何があったか詳しくは知らないけど…それでもあんたは、俺と一緒じゃないか。」

「…なに?私と貴様の何が同じだと言うのだ…宇宙警備隊筆頭教官を父に持ち、何不自由なくスクスクと育ってきた貴様と…。タっ…タロウの愛情を惜しみなく感じて生きてきた貴様とォ!!」

「それはあんたも同じじゃないか…父さんの親友としてずっと傍に居た。そしてそのせいで父さんとの違いに悩まされてた!!ウルトラマンタロウにできて、何故それが自分にできないのかって!…俺も同じだ。」

 トレギアの動きが止まる。言葉を詰まらせた様に呻くトレギアに、俺はそっと近づいていく。

「辛いよな…俺には分かるよ。父さんが偉大すぎるから…だから辛かった。その影に居なきゃ、自分の存在意義を見出せない…俺だってそうだった。父さんの…タロウの息子って肩書でしか生きていけないのが辛かった!」

「黙れ…それ以上言うな…!」

「だから俺は…仲間を作る事でしかそれを乗り越えられなかった。自分を自分として…『タイガ』として見てくれる仲間が欲しかった。そして巡り合えたんだ。こいつらに…そしてヒロユキに。お前と俺に違いがあるとしたら、その一点だ。お前は居なかったんだよな…そういう仲間が。だから闇に堕ちた。可哀想な奴だ。」

「黙れ!知ったような口を聞くんじゃない!共通点があるから何だと言うんだ…そもそもお前と私は根本的に何もかも違うんだよ!」

 トレギアは激昂し、トレラアルティガイザーを俺に向けて放つ。痺れと痛みに襲われる…だが、俺は歩みを止めない。

「俺は…確かにそうだ…お前の気持ちを完全に理解することはできない…でも…クッ……! それでも俺は…!」

 電撃をその身に受け、声を漏らしながらも俺はトレギアに近づく。彼はそんな俺の姿にたじろぎながら、尚も手を緩めない。

「とにかく俺はあんたを止める。絆が呪い…それは確かにそうかもしれないな。俺の兄弟子でさえ、そのせいで一度絆の炎を絶やしてしまいそうになったと聞いた。だがな…それを呪いから力に…光に変える事だってできるんだよ!それが出来るのが仲間…!呪いを光に…不可能を可能に変える、大切な仲間との絆の力だ!」

 俺はトレギアに手が届く距離にまで近付く。そして両手首を掴み、上に向けて電撃を退ける。

「手が届いたぞトレギア…お前の心に!」

 俺はその言葉と共に、彼の胸に拳を打ち込む。トレギアはよろけるが、すぐに体勢を直す。

「心だと…貴様にわかるものか…!!わかってたまるか!!」

 トレギアはそう言いながら俺に殴り掛かる。だが俺は逃げない。避ける事無く、彼の拳を受け止めた。

「クッ…この殴られた痛み…これがお前の痛みか…?こんなものか…もっとだろ?! 言葉じゃ理解できないお前の痛み…俺にぶつけてみせろよ!息子の俺に!!」

「うるさい…っ!!うるさァァァいッ!!」

 これがトレギアの痛みか…。彼の拳が何発も何発も俺の体を痛めつける。そこから伝わってくる、彼の痛みや苦しみ、悲しみや憎しみが…。抽象的だが、痛みだけは確かに伝わってくる。具体的に彼が何を経験して何を感じてきたのか…恐らくその全てを理解する事は一生掛かってもできないと思う。だからせめて知りたかったんだ。彼の痛みを。俺も、少しだけならわかるかもしれないから。

「もうやめるんだタイガ!君の体が壊れてしまうぞ!」

「そうだぜ!さっきまであんなにボロボロだったのに!」

 タイタスとフーマの声が聞こえる。だが、これで良いんだ。父さんでも、他の誰でもトレギアの心を受け止める事なんてできない。俺がやらないといけないんだ。少なからず似た様なものを味わってきた俺が。


「ウルトラマントレギア…いつまでグダグダやっている。…もう良い。消えろ。」

 痺れを切らしたレイバトスがそう呟く。そしてギガバトルナイザーを一閃、斬撃をトレギアの背中に加えた。

「グアァッッ!?…アァ…!邪魔をするな…私はまだ終われない…全てを吐き出すまではァ!!」

 トレギアは振り返りながらレイバトスに十字に組んだ腕を向け、おおよそウルトラマンらしい光線技を放つ。だがそれをレイバトスは軽く回避し、一気に距離を詰める。

「タイガ達が相手ならば有効的な相手と考えて呼び出してみたが…所詮はウルトラマンだったという事か。つまらん。」

 レイバトスは冷酷にもそう言い捨てながら、ギガバトルナイザーでトレギアの腹を貫く。トレギアの体を貫通したギガバトルナイザーの先端部が、俺の目からも見えた。

「ウゥ…私は…私はまだ死にたくない…!やっと…やっと吐き出せると思えた…ようやく私の気持ちを理解しようとしてくれた者が目の前に居たというのに…まだ死ねない…死にたくないんだ!!私は生きる…生きてもう一度…タロウと…タイガと…」

 トレギアが言い終わる前に、レイバトスはギガバトルナイザーを引き抜く。そして先程のような斬撃を、トレギアの体に刻み込んだ。

「トレギアァァ!!しっかりしろトレギア!お前…まだ気が済んでないだろ!?もう一発…もう一発でも良いから殴ってみろよ!俺の知ってるお前は…陰湿で粘着質でしぶとくて…!少なくともこんな所で死ぬ奴じゃないだろ?!」

 俺はトレギアの体を抱えながら、そう訴えかける。だがトレギアはそれを嘲笑するように顔をそっぽ向かせた。

「フッ…君は本当に父親そっくりだな…その眩しさ、私との根本的な違いはそれだよ…。父親譲りのその光が、とても疎ましかった…。だからこそ、君をモノにしたかった…。だが私は…やはりタロウには勝てないんだな…。」

「何を言ってるんだよ!アンタが作ったこのタイガスパーク!これがあったから俺達は今まで戦ってこれた!俺達が成長して来られたのは、全部あんたのお陰だ!父さんと形は違うかもしれないけど、あんたはあんたでやれることをやってたんじゃないか!?」

 トレギアの仮面が割れ、地面に落ちる。顔を背けているから素顔は見えないが、仮面と一緒に光のようなものが流れているように見えた気がした。

「やめてくれよ…私は…ただの…」

 そう言い掛けた刹那、トレギアの体が赤い光となって溶けていく。言葉の続きを聞き取る間も無く、一瞬で消えて行った…。

「トレギア…?おい…おいおいトレギア…。せめて最期の一言くらい…満足に遺しとけよ…!」

 俺はそう呟きながら、さっきまで温もりを感じていた自分の両手を強く握り締める…。トレギア…父さん…。

「レイバトス…半端な事やってくれてんじゃねぇぞ…!!」

 俺はレイバトスに殴り掛かろうとするが、トレギアに刻み込まれた全身の傷が疼いて動けない…。俺は立ち上がろうとするが、痛みの余りにすぐ膝を付いてしまった。

「おいおいタイガ!大丈夫かよ…?」

 フーマが俺の肩を担ぐ。だがフーマとて無傷ではない。タイタスも同様だ。レイバトスとまともにやり合おうなんて、今の俺達じゃ無茶だ…。

「どれだけ寄り集まろうと無駄だ。私はコレを回収する事が目的…そしてこれからの計画に貴様らは邪魔だ。消えろ。」

 レイバトスはギガバトルナイザーを掲げ、先端から電撃を…ベリアルジェノサンダーを発射する。あぁ、これでもう終わりだ…この攻撃で、俺達は死ぬんだ…。

 …いや、『俺達』じゃない…『俺』ひとりで犠牲は十分だ…!

「許してくれ…二人とも!」

 俺はフーマの腕を振り払い、レイバトスの電撃を一人で受けた。

「何をしているんだタイガ!? 君独りで死ぬつもりか?!」

「あぁ…悪いなタイタス…。でもさ…そのつもりで飛び出してみたけどな…!!」

 俺は電撃を受けながら、レイバトスの方へと歩み始める。

「そんなもんかよレイバトス…確かに痛いし苦しいけどなぁ…トレギアはこんなもんじゃなかったぞ…!あいつのに比べたらお前のコレなんて静電気くらいにしか感じねぇよ!!」

 そう言い放ち、距離を詰めた俺は右手でギガバトルナイザーを掴み返す。

「何…?貴様…どこからそんな力が…?」

「さあな…だが少なくとも、お前には何億年経っても理解できないだろうさ!血も涙も無いお前には!!」

 俺はそう言いながらギガバトルナイザーを押しのけ、炎を上げて燃え盛る左の拳でレイバトスの顔面を殴り打ち砕く。

「何故だ…貴様のその強さは…?まさか私と同じ不死身の肉体を持っているとでも言うのか?」

 顔面の砕けたレイバトスはその部位を修復しながら俺に問い掛ける。

「そうじゃない…俺達はお前みたいに不死身じゃない。完璧な奴なんて、何処にだって居やしない…。だから俺達は…!仲間と絆を繋ぎ合って一緒に戦ってきた!そして今ようやくわかったよ…誰かを想う事で得られる強さ…!これが『絆の真価』なんだってな…!」

 だが、まさかこれをあのトレギアのせいで自覚するなんてな…。どこまでもアイツは悲しい道化師だったんだ。

「理解不能だ…死人を想う事のどこが絆だ?貴様の言う妄言がまるで理解できん!」

 そう言ってレイバトスは俺の頭上にギガバトルナイザーを振り下ろす。まずい…と俺が反射的に左手で庇った。その時だった。

 左の手首が突然光り始め、ギガバトルナイザーを受け止める。その強い光はギガバトルナイザーをついには押し返し、レイバトスの手から弾き飛んだ。

「これは…?」

 俺は自分の左腕を眩しさを堪えながら眺める。光が収縮されるように『それ』は形を成していき、ついにはその姿を現した…。

「これ…父さんのブレスレットか…?」

 いや、そんなはずはない。タロウレットはタイガスパークの発現する前の姿。俺達3人とも着けてるし、ヒロユキのは確か父さんに返したはず…。

 …ヒロユキの?いやまさか…そういう事なのか…?

「タイガ!それはもしや…ヒロユキのタイガスパークではないのか?! 君の思いに応えてここに発現したのではないだろうか!」

「あぁ…きっとそうだ!俺には聞こえて来るぜ…ヒロユキの声が!お前を…いや、俺達を励ます声が!」

 ヒロユキのタイガスパーク…そうか…。例えこの場に来れなくっても、お前は遠くから俺達を想ってくれてるって事なんだな…!だったら俺達も、その想いに応えるだけだ!

「行くぜ二人共…俺達…!『4人』で!」

「ああ!」

「おうよ!」

 俺の呼び掛けに応えた二人は、俺の両肩に手を置く。それに応える様に、タロウレットは炎を纏い…トライスクワッドレットへと姿を変えた。

 <トライスクワッドレット!コネクトオン!>

<トライスクワッドミラクル!>

 タイガスパークにリードされたトライスクワッドレットは再び炎を上げながら、俺達の聖火・タイガトライブレードへと姿を変えた。俺はそれを掴み、底面のボタンを押す。

「燃え上がれ!<仲間>と共に!!!!」

 仲間と共に…。その言葉と共に、俺はバーニングホイールを回転させた。

「「「バディィィィ…………!ゴーーーーッ!!!!」」」

 俺達は右手を天へと掲げる。そして俺達の体は三色の光の渦に包み込まれ、やがて光と溶け合うように一つに融合してゆく…。そしてその渦は炎へと変わり、その炎を吹き飛ばしたその中に…俺達が居た。

「ウルトラマンタイガ…!トライストリウム!」

 俺達はトライブレードを構え直しながら、炎を巻き上げてその熱気を解き放った。

「バカな…!その姿にはなれないと聞いていたが…何だその姿は!」

「これは…この炎はなぁ…!俺達とヒロユキとの絆そのものだ!この炎が消えない限りッ!ヒロユキとの絆は途切れやしないんだ!!」

 そう言って俺達は、レイバトスの方へと駆け出した。俺達の斬撃をレイバトスはギガバトルナイザーで受け止め、鍔迫り合いとなりながら攻撃の隙を伺う。

「絆だと…理解できぬ…。そんなものに価値など…!」

「さっきも言っただろ…死んだ者を自分の好き勝手に利用するお前には! 理解できないってな!」

 そう叫びながらレイバトスを体当たりで弾き飛ばし、さらに蹴りを叩き込んで距離を取る。そして例の最強必殺技を放つべく、底面のスイッチを長押しする…が、トライブレードは反応しない。

「クッ…やっぱりあの技はヒロユキ本人が居なきゃ流石にダメか…。だったら…!」

 今度はスイッチを4回押してみる。今度ばかりはちゃんと作動し、刃に光が灯る。俺はホイールを回転させ、聖火の炎を灯した。トリガーを押し、三角形を描く様に剣を振るう。その動きに合わせて、刃は三色に輝いた。

「「「トライストリウム…!バーストォォォ!!!!」」」

 俺達の叫びと共に剣先から放たれた虹色の光線はレイバトス目掛けて解き放たれ、レイバトスの手の中にあるギガバトルナイザーに直撃する。

「何だ…何なのだコレは…?! 解らぬ…!」

 ギガバトルナイザーを盾に光線に耐えていたレイバトスだったが、何秒…何十秒と浴びせ掛けられた光線についに耐久しきれず、形を残す事無く爆散。それを受けてレイバトス本人にも浴びせられた俺達の光が、奴の肉体を余すことなく破壊し、爆発四散させた。


「…ほう。奴等があの姿になれたとは誤算だった…。まぁ良い。こちらの軍勢はまだいくらでも居る。此奴も時間を掛ければ修復できよう…。レイバトスの能力を増幅させるギガバトルナイザーだけは惜しいが…レイバトス本人さえ居ればそう問題はない。さぁ、次は恐魔人の調教とするか…。」

 爆発の向こう側で、そんな声が聞こえた気がした。


 合体を解いた俺達は、皆ボロボロだった。よく生きてたな…と、自画自賛したくなる程には。

「やれやれ…マジでひでぇなコリャ…。」

「全くだ…タイガ、いくら何でもあれは無茶のし過ぎだ!誰に似たんだ…。」

 呆れる二人に、俺は苦笑いで返すのがやっとだった。自分でも不思議だよ。自分の身を挺してでも誰かを守ろうとするなんて…まるでアイツじゃないか。

「…でもさ、ああでもしないと俺達…またトライストリウムになれなかったと思うしさ…。結果オーライって事で、いいじゃん?」

「「良くないッ!!」」

 総ツッコミされてしまった…。

「…でもよ、短時間とはいえまたあの姿になれたって事は…。やっぱりあの声はヒロユキ本人の声が時空を超えて聞こえて来たって事なのか?」

「いや、現実的に考えてそれはあり得ない。悲しいが、空気もないこんな場所に届くわけが無かろう?」

「旦那は夢が無いねぇ…ま、俺も本当に信じちゃいねぇけどさ。もしかしてトレギアの野郎が言ってた『呪い』…。あれに近いもんなんじゃねえか?」

「いやそっちの方が怪しいだろう…?」

 二人の会話を俺は黙って聞いていた。『呪い』というトレギアの言葉もあながち間違いでは無いだろうし、それにタイタスの言う通りヒロユキの声が直接届いたわけでもないと思う。だが…確かなのは一つだ。

「どっちにしたってさ…俺達がヒロユキを忘れない限り、あいつの声は聞こえ続けると思うんだ。それが例え…未練や執着だとしても。そこから聞こえる幻聴だとしても。」

 俺が思うに…あの声は、俺達のヒロユキへの気持ちそのものだ。『絆』と言えば聞こえはいいが、その実態は結局…あいつへの未練や執着だ。別れという真実を受け入れきれない…割り切れない心の表れだ。ヒロユキにもう二度と会えない…その感情の負の面が生み出した幻聴だ。

 俺が闇の淵で聞いたあの声も例外じゃない。ヒロユキへの未練が奮い立たせた…そしてその気持ちは、あのゾンビみたいな俺の姿となって可視化された。何度でも立ち上がれた…そう、まるでゾンビみたいに。死にきれない、アイツへの未練そのものだ。

「…でもさ、悪いものばかりじゃない。もし本当に俺達の未練だけなんだとしたら、トライストリウムになれなかったと思うんだ。下手したら、闇堕ちして終わってたかもな。」

 俺の言葉に戦慄する二人。顔を見合わせ、驚きを隠せないようだった。

「じゃあ何故、再びあの姿に…?」

 タイタスの問いに、俺は笑顔で返した。

「…未練の先に残ってた、最後の残り火。…つまり、本当の意味での『絆』。…だと信じようぜ。」

 二人の強張った表情が、僅かに解けた気がした。

「…まあ要するにだ!ヒロユキを忘れない限り、俺達の絆は永遠って事だ! …そう信じようぜ。本当の理由なんて何だって良い。大切なのはさ、俺達が覚えててやるって事だと思う。覚えてる限り、ヒロユキは俺達の中で生きてる。…それでいいじゃん。」

 俺の言葉に、一瞬の間沈黙が続く。

「…そうだな!たまには無心になるのも、賢者の心構えだ!」

「ヘッ…俺もだ。こんな事でいちいち立ち止まってちゃあ、心の風も吹き止んじまう。そういう事にしとくかぁ!」

 ありがとな…二人共。こんな事を言っても、何の慰めにもならない気はしてた。でも、敢えて二人はそれを呑んでくれた。全員、そうでもしないと辛いから。堪えられないから。


「…んああぁッ!湿っぽいッ!景気づけに、いつものやつやっとこうぜ。」

 俺の言葉に、二人は頷く。そして俺たちは右手を合わせ、タイガスパークを一点に集める。

「生まれた星は違っていても!」

 フーマが、居る。

「共に進む場所は一つ!」

 タイタスが、居る。

「永遠の絆と共に!」

 目には見えないけど、ヒロユキの声も聞こえた。

 この声の正体…そんな事はどうだって良いんだ。

俺たちは…何万年経っても!何百光年も離れていようと!

「「「我ら!トライスクワッドッッッ!!!」」」



「…さて、ここに用事はなくなった!そろそろ行こうぜ!」

「なぁ…クワトロスクワッドブラスターはどうする? いざという時の切り札が必要じゃないか?」

「そうだなぁ…こうなったら新しく開発するか?」

「開発ったってよ…何をどうすんだよ? まさか修行でどうにかするとか根性論はよせよ?」

「あっフーマそれだ!一ヶ所心当たりがあるからそこに行こう!」

「おい待てタイガ!一人で行くんじゃない!」

「俺から逃げようったってそいつは無理な話だぜタイガ!」

 俺達は笑い合いながら、怪獣墓場を後にした。俺が向かおうとしてるのは、あの懐かしの惑星マイジー。俺達の心を合わせる特訓、そして心身の鍛錬にももってこいだ。

 俺達は立ち止まってなんか居られない。いちゃいけないんだ。例えどんなに現実が辛くても、俺達は前を向き続ける。前を向いてなきゃ、立ち止まってしまう。そんな事をしたら、余りにもツラすぎるから…。

だからさ…。

俺達は俺達で頑張るからさ…。

お前も…。

お前の人生を全うしてくれよな…。

そしていつか…。

何十万年掛かるかわかんないけど…。

また光の中で笑い合おうぜ…。


ヒロユキ………ッ!

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