曲分析~『Pretender』Official髭男dism
今回は、今年のロングヒット曲『Pretender』を分析していく。
言わずと知れたOfficial髭男dismの人気作だ。
では、まず理論的に見ていこう。
①キー=A♭メジャー
全体としては明るいコンセプトの曲調であることが分かる。
また、このキーは♭が多くピアノの場合は黒鍵を多く弾く必要があり、ほかのキーよりも演奏の難易度が増す。
②構成
イントロ→Aメロ→Aメロ→Bメロ→Bメロ→サビ
Aメロ→Bメロ→Bメロ→サビ(1/2)→間奏
サビ→大サビ→後メロ→アウトロ
構成としては特徴的だ。
1番はかなりスタンダートでAメロとBメロを2回繰り返す形。
これによって、聴き手はメロディーラインを完全にインプットさせられる。
そして、2番は極端に短く作られていて、サビも1番の半分の長さしかない。これによって、間延びせずに間奏までの流れがスムーズになっている。間奏は眺めでカッコいいメロディーがあるためそこを強調したのかもしれない。
後メロが特徴的。大サビで『君は綺麗だ~』と終わらせるのではなく、コーラス隊がそれを引き継ぎながら言葉を紡いでいくことで、最後のボーカルのみでの『とても綺麗だ~(2回目)』が引き立つような作りになっている。
アウトロはイントロと同じフレーズを繰り返し、原点に帰着する型。
③コード進行
Aメロ・・・A♭→E♭/G→C7→Fm→B♭→B♭m→D♭→E♭(A♭)
Bメロ・・・D♭maj7→C7→Fm→Em7→E♭m7→Ddim
サビ・・・A♭→E♭/G→C7/E→Fm→E♭m7→A♭→D♭maj7→Cm7→B♭m→E♭→A♭
(↑文字ばっかででわかりにくかったらすみません。。。
曲を構成している響きがアルファベットで示されている、くらいに思っていただければ。。。)
Aメロやサビはトニック(A♭)から入っているので落ち着いた王道の響き。
Bメロはサブドミナント(Dmaj7)から入るので少し浮遊感がある。
また、この中で特徴的なコード(響き)はC7,B♭,Em7,Ddimの4つ。
ただし、Em7とDdimは繋ぎの役目なので説明は割愛。
・C7はAメロの「それはいつも通り」の"いつも"の部分にかかっている。
効果として、一瞬変化球を投げられた気持ちになるけど、次の「通り~」で
また落ち着いた響きを取り戻すので、良いアクセントになっている。
・B♭は「一人芝居だ~」、「悪くはないけど~」の部分で出てくる。
ここを注意して聴くと、一瞬解放されたような気持ちになる。
その後の「ずっとそばにいたって~」でB♭mに戻り、元のキーに落ち着くところが”一瞬夢をみていたけど、すぐに我に返る"ような感覚を生み出している。
その絶妙な音の押し引きがこの曲の癖になる部分でもあると思う。
着地に関しては、Aメロ、サビはSD→D→Tの綺麗な終わり方になっている。
これによりセクションごとにスッキリした印象で終了するので、次のセクションは新しく場面が変わることを強調できている。
④各セクションのメロディの始まり方とコードチェンジ
Aメロはジャーンと和音が鳴った後に「君とのラブストーリ~」と入る。
これは、歌が"後"から入るパターン。
これにより、曲のメインとなる和音を紹介した後にどっしりと歌が入ってくるのでAメロだけで曲の雰囲気を伝えられる。
(ちなみにヒゲダンの曲でいうと『宿命』は同時に、『イエスタデイ』は後から、『異端なスター』は歌が先になっている。)
Bメロは歌と演奏が同時に入るのでしっかりタイミングを合わせている感じがかっこよく、リズムよく進んでいく。
サビは微妙に後から入っている。また、サビ前にサビスイッチ(サビが来ることを知らせるもの。この曲は「グッバイ」)が入るので、サビがスムーズに移行し、Bメロと高低差・雰囲気の違いを見事に繋げている。
・コードチェンジ(CC)のタイミングについて
この曲は少し変則的だが、4拍でCCして、2拍でCCして、次は4拍で・・・
と4拍→2拍→4拍→2拍の構成となっている。一これが気持ちよいテンポ感と曲が間延びしない要因だと思う。
また、Bメロはベースラインが1拍前のめりにコードチェンジするので、ノリの良さと場面の切替えを行えている。また、Bメロ終わりのクリシェ進行(ベース音がだんだん下がっていく部分)がピタリとハマっている。
サビはAメロ同様、4拍と2拍で交互にコードチェンジ(CC)が行われている。
注意すべきは「(君の運命の)人は僕じゃない~」で「人は僕(E♭)→じゃない~(C7)」と2拍で切り替わっているが、次の「辛いけど否めない~」はメロディーが同じなのに4拍Fmでコードは変わらない。
これは他のサビもすべてに共通している。
普通に作ろうとすると、「辛いけど否めない~」もCCしたくなるが、そこは一旦落ち着かせて、次の小節「でも~離~れ(E♭m7)難い~(A♭)のさ~(Dmaj7)」で2拍で次々にコードが切り替わっていき、彩りを加えている。
ここの3連続の細かいコードチェンジを見越して、「辛いけど否めない~」の部分は1つのコードだけで落ち着かせることを選んだようにも思う。
個人的にはB♭で外してB♭m7で戻ってくるとこがお気に入り。
⑤良いと思うメロディやコード
「いつも通り」、「予想通り」、の"通り"部分は1オクターブ音が下がってくるので、そこの高低差が言葉を宙に放っているようで印象に残る。
Bメロの「愛を伝えられたらいいな~」の部分はコードがクリシェ進行になっていて、下がっていくごとにだんだん色濃くなっていく感じが好き。それに反比例して、メロディは上に上がっていくのがサビの前にカチッとハマる。(やはり流れの中のディミニッシュ(dim)は盛り上がりに欠かせない。)
間奏部分のシンセサイザーのメロディーがカッコよい。上がって、下がって、トリルしてまた上がって、、と忙しいがまとまっている。この間奏を聴くだけでも満足できるほどの完成度。
最後のサビで「君は綺麗だ~」では終わらず、「それもこれもロマンスの~」とコーラスがさらに言葉を続け、2回目の「とても綺麗だ~」とボーカルのみに繋げる流れがあまりにも美しい。そして切なさ倍増。
アウトロでピアノのみでイントロと同じメロディーを繰り返すのもGOOD。
最後の8小節はドシラミーミラシーラシドシラ"ミ"ラー。最後から2番目の音をファからミ♭に変えているところが「新しい始まりを予感させる雰囲気」があってとても良いです。
全体を通しての感想
『Pretender』の分析、めちゃくちゃ時間かかったけれどめちゃくちゃ楽しかった。
初めて聴いたときから、曲の完成された感じとボーカルの洗練されたハイトーンボイスに魅了されていたけど、改めて細かく分析するとそこにはしっかりとした土台があった。
ピアノPOPバンドと自称している通り、この曲はピアノの"どしっとした和音の響き"と"切ない旋律の響き"が活かされていた。ベースラインの変化も彩りを加えている。
また、C7やB♭などのノンダイアトニックコードで一気に聴き手を引き込む術も完璧。
A→B→サビ→間奏など、セクションごとの場面の切替、終わり方、役割がハッキリしていて構成が綺麗。
歌詞の中で『いつも通り』『予想通り』『アイムソーリー』など、韻を踏むところがたくさんあり、そのすべてがナチュラルで、一度聴いたら癖になってしまう。
この曲はヒットすべくして、ヒットした。といえる一曲だ。
間違いなく来年も多くの人に聴かれていることだろう。
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