【論文】小山球場はHRが出やすいのか

大学生の卒論シーズンに入ってきたと思われるので、
今回は論文っぽい形式で書いてみます。

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1.問題提起

独立リーグでは、全国各県のあらゆる地方球場で試合が行われる。
大半のチームは明確なホーム球場というものは持たずに、県内を転々としているが、
例外として栃木ゴールデンブレーブスは、ホームゲームの多くが小山総合運動公園野球場(以下、小山球場)で開催される。

私が1シーズンにわたりプレーした主観として、
小山球場の試合は得点が入り合うゲームが多く、特にホームランがよく出ると感じた。

そこで今回は、「小山球場はホームランが出やすいのではないか」という仮説を、
セイバーメトリクス指標の1つである、パークファクター(以下、PF)を用いて検証した。

先に簡単な結論をまとめると、
小山球場における2019年シーズンの
得点PFは1.22、ホームランPFは2.17 であり、
他球場と比較すると得点が入りやすく、また非常にホームランが出やすい球場であることが分かった。

以下、詳細を述べていく。

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2.パークファクターとは

まずは今回扱うPFという指標について説明する。

球場は大きさや形状・形態、立地条件などが異なることから、各球場ごとに各種成績には偏りが出ることが考えられる。
ある球場での特定の項目の数値が他の球場よりどの程度偏っているかを判断するための指標がPFである。

チームごとではなく球場ごとの成績で算出するため、
(例えば本塁打PFを調べる場合において)ある球場のホームチームが強打者ばかりであったとしても、その影響を極力排して評価することができる。

つまり、本拠地チームの打撃力に依存することなく、あくまで球場そのものの特性を評価している。

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【算出方法】

例えば、A球場(B球団本拠地球場)の本塁打PFの場合は、

本塁打PF={(A球場でのB球団本塁打+A球場でのB球団被本塁打)/A球場での試合数}/{(A球場以外の球場でのB球団本塁打+A球場以外の球場でのB球団被本塁打)/A球場以外の球場での試合数}

となる。

(今回の場合は、A球場=小山球場、B球団=栃木ゴールデンブレーブスとなる。)
(得点PFの場合は、本塁打を得点、被本塁打を失点に置き換える。)


つまり、対象球場の1試合当たり本塁打数と、それ以外の球場の球場の1試合当たり本塁打数の比を求めるものであることから、
算出された数値が、1より大きい場合は他の球場よりも本塁打の出やすい球場、1より小さい場合は他の球場よりも本塁打の出にくい球場となる。

なお、NPBの2018シーズンにおける、得点PF、本塁打PFのそれぞれ上位・下位3球場は以下となっている。

[得点PF]
・ 1位… 明治神宮野球場 (1.41)
・ 2位… メットライフドーム (1.24)
・ 3位… 横浜スタジアム (1.11)

・10位… 福岡ヤフオクドーム (0.88)
・11位… 阪神甲子園球場 (0.82)
・12位… ナゴヤドーム (0.77)

[本塁打PF]
・ 1位… 明治神宮野球場 (1.78)
・ 2位… メットライフドーム (1.30)
・ 3位… 横浜スタジアム (1.24)

・10位… 札幌ドーム (0.64)
・11位… 阪神甲子園球場 (0.60)
・12位… ナゴヤドーム (0.49)

このように、球場によって得点やホームランの発生確率は大きく変わってくる。

福岡ヤフオクドームは、非常に広く、フェンスも高いために得点PF・本塁打PFともに2014年までは低い数値だったが、ホームランテラスを設置したことで、両者の数値、特に本塁打PFが大きく向上した。

テラス設置前の2014年は本塁打PF0.84だったが、設置後の2015年は1.52となった。
2018年を見ても、得点PFでは12球団中10位だが、本塁打PFは6位となっている。

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また、PFは単純に両翼・センターの広さ、フェンスの高さだけに依存せず、

・ファールゾーンの広さ
・照明の明るさ
・土および芝の種類
・マウンドの高さ
・フェンスの色
・風(強さ、向き)
・気温、気圧

などの影響も受け、複雑な要素が絡み合ってる点は注意すべき点である。

さらに、サンプル数を確保するためPFは通常、過去3年分のデータが必要とも言われている。
シーズンによりバラツキが大きくなりやすい指標でもあるため、短絡的に判断せずに十分に考察が必要である。

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3.結果

今回、2019シーズン(前期・後期・地区王者決定戦)の72戦の栃木ゴールデンブレーブスの試合結果を対象とした。

うち、小山球場で行われた試合数は20、小山球場以外での試合数は52であった。

小山球場での得点数は145、小山球場以外での得点数は259だった。

小山球場での失点数は89、小山球場以外での失点数は241だった。

小山球場での本塁打数は19、小山球場以外での本塁打数は19だった。

小山球場での被本塁打数は20、小山球場以外での被本塁打数は28だった。

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以上の集計結果から、得点PF、本塁打PFを計算すると、

得点PF = { (145 + 89) / 20 } / { ( 259 + 241 ) / 52 } = 1.22

・本塁打PF = { (19 + 20) / 20 } / { ( 19 + 28 ) / 52 } = 2.17

となった。

つまり、小山球場は他の球場と比較し、

1.22倍、得点が入りやすく、
2.17倍、ホームランが出やすい

という結果が得られた。

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4.考察

今回の結果を、
小山球場が持つ球場特性から考察していく。

PFは先にも述べだが、

・両翼およびセンターまでの距離
・ファールゾーンの広さ
・照明の明るさ
・土および芝の種類
・マウンドの高さ
・フェンスの色および高さ
・風(強さ、向き)
・気温、気圧

などに影響を受けるため、これらを考慮しながら解釈を進めていきたい。

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小山球場の両翼は95m、中堅は115mであり、他の地方球場と比較しても決して広いとは言えない。
フェンスの高さは、具体的な数値は不明であるが、平均より低いと思われるため、
打者有利となりやすい球場と言えるだろう。

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ファールゾーンの広さに関しても、具体的な数値が出せずに主観とはなるが、狭めだと感じる。
ファールゾーンが狭いということは、その分だけファールフライによるアウトの確率が減り、打者有利な球場になると言える。

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土や芝の質もPFに影響を与える。
外野が人工芝か天然芝か、内野が人工芝か土かによって、打球の転がり方やイレギュラーヒットの発生確率も変化する。

そのため、NPBでは球場ごとに差が出やすい部分と考えられる。
しかし独立リーグの場合は、内野が土・外野が天然芝という球場が大半のため、今回の結果を支持できるほどのものとは言い難い。

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マウンドの高さや硬さは投球に影響を与えやすい。
一般に硬くて高いマウンドのほうが、球速が出やすく、打者が角度を感じやすいため、投手有利となる。

しかしこの点においても、他の地方球場との明確な差はなく、主観としても特に投げにくさを感じたことはない。
よって、ここの考察は困難で、結果を支持するような見解は出し難い。

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フェンス(バックスクリーン)の色によって、打者のボールの見づらさは変わるようだ。
MLBでは、青・紺色系統のフェンスのスタジアムでは三振数が多く、投手有利になりやすいというデータもある。

小山球場のフェンスカラーは緑色なので、青・紺系統よりはボールが見やすいのかもしれない。

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球場内で吹く風の強さや向きも打球には大きく影響する。

ZOZOマリンスタジアムに吹き付ける浜風によってホームランが出づらいことは有名だが、小山球場において特徴的な風が吹いていた記憶はほとんどない。

小山市は盆地であることから、夏場に強い風が抜けてくることも少なく、風はむしろ弱い方ではないだろうか。

海風のような強い特徴を持つ風は分かりやすいが、
季節変動や小山球場の立地、向きなど考える要素が多くなるため、風による相関を見出すことも難しい。

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最後に考えたいのが、気温や気圧の影響である。

気温が高いほど、空気密度が小さくなるためボールが飛びやすくなる。
デーゲームの場合は、1日の中で最も気温が上がる時間帯での試合となる。

内陸・盆地に位置する小山市は、全国的に見ても気温が上がりやすく、少なからずボールの飛びやすさに影響を与えているかもしれない。

単純に暑いことは、投手の体力を奪うことにもなるので、それが打者有利に働くことは大いに考えられる。

とは言え、他県と比べて有意に気温が高いというデータはなく、また4月、5月といった気温の高くない時期の試合も多くあることから、はっきりとした考察を示すことは難しい。

気圧に関しては、標高が高くなるほど気圧が低くなるためボールが飛びやすい。

小山球場は標高が35mであり、この程度の変化が与える影響は微々たるものかもしれない。
しかし、新潟の悠久山球場もほぼ同様の標高であり、悠久山は両翼・センターが広い割には非常にホームランが出やすい印象がある。

少なからず打者に有利に働いている要素かもしれない。

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今回は1シーズンに限った集計であったことから、
サンプル数は少なく、この値がどこまでの価値を持つかは分からない。

また、すべて手動での集計のため、結果に多少の誤差が生じている可能性がある。

考察も一つ一つの見識が浅く、断定的なことは言えなかったため、得られた結果に対する明確な理由を見つけることは困難であった。

ただ、独立リーグの試合結果をもとにした地方球場のPF分析というものは、先行例が少なく、今後の研究材料の一助となることを期待したい。

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5.まとめ

2019シーズンの小山球場でのパークファクターを調べたところ、
得点PFが1.22、本塁打PFが2.17であった。

これは著者の「小山球場はホームランが出やすいのではないか」という仮説を支持するものとなった。

その理由としては、

小山球場の両翼・センターが狭いこと、
フェンスが低いこと、
ファールゾーンが狭いこと、
試合中の気温が高いこと、
標高が高いこと

などが考えられた。

以上。

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追記:

栃木さんは、応援に迫力や団結感があり、
また小山球場はファールゾーンが狭いため、マウンドに立っていると独特の圧を感じることがありました。

小山主催の試合は、球場の内外で盛り上がっている雰囲気があり、それが選手のモチベーションに与えている影響もかなり考えられます。

しかし、このような要素は定量化が難しく、データに基づく分析という点においては考察から排除させていただきました。

これからの西地区とのCS、四国とのGCSの結果もすごく楽しみです。
東地区の代表として勝ち進んでください!
応援しています!!!

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