アベノミクスと政治への無関心さ

 お金の話をしよう。
 アベノミクスといえば、2012年に安倍政権が始めた経済政策である。安倍総理はこういった言葉を生み出す能力に長けていることは認めるが(「一億総活躍社会」も例外ではない)、内容や効果が言葉に追いついていない気がする。アベノミクスの効果を見てみよう。なるほど、実質GDPや消費者物価指数、売上高経常利益率などの指標は右肩上がりだ。しかし、これらのデータは国民の実感に反映されていないことは多くの人が何度も指摘していることだ(注1)。また、それは朝日新聞による世論調査で示されている(注2)。
 アベノミクスはある意味で「すごい」政策であるかもしれない、アベノミクスが政治への無関心さを助長しているとしたら。
 ここから、仮定の話をする。多くの国民が日々の生活に必死で、政治に関心を向けている暇はない。なおかつ、現在の政治的な議論は「忖度」のモリカケ問題やセクハラ問題などに終始しており、このような議論が直接的に私たちの生活と結びついているかは疑問だ(公文書改竄については「民主主義の根幹を揺るがす」問題なので、比較的直接的に生活と関係していると思われる)。読売新聞が4月20~22日に実施した世論調査によると、「国会は、森友・加計学園、公文書管理の問題を、優先して議論すべきだと思うか」という質問に対し、回答者の46%が「優先して議論すべき」、46%が「そうは思わない」と回答した。セクハラ問題などは生活とはほぼ無関係なので、日々の生活に必死な人は経済について議論してほしいと思うのは当然だが、その人たちも政治的議論に参加する余裕はない。国民の政治的コミットメントの頻度は減り、経済政策の改善は一向に進まない。結局、アベノミクスという聞こえの良い(?)政策を続けることで、人々の政治的関心を薄れさせ、その間に政治的腐敗が暴露されたとしても最小限の被害にとどめ、安倍政権(というより総理)の悲願である憲法改正を達成させよう、ということだ。仮定の話終わり。
 しかし、以上はあくまでも仮定の話だ。所得が低いと、政治的関心も低くなるという因果関係は実証されておらず(実証されているとしても、私がそれを確認していない)(注3)、多少とも陰謀論的であることは認める。しかし、この状況を狙ってつくりだしているのであれば、アベノミクスは「すごい」政策だ。
 どちらにせよ、経済(カネ)と政治的関心との関係は興味深い。経済格差が顕在化するなか、もし所得が低いと、政治的関心も低くなるという因果関係があるとしたら、富裕層の意見が反映されるような政治になる。富裕層は彼らが得するような政策を進める代議士を選出し、その代議士を金銭的に支援するだろう。一方、貧困層は彼らの望んでいる政策(所得税制度における貧困層の優遇化、社会保障(特に生活保護)の改善など)は、富裕層に支援されている代議士の手ではなかなか実現されないだろう。
 4月2日、衆議院議員は法律に基づき、毎年所有している資産額を公開しているが、いま次期自民党総裁として目され、人気を集めている小泉進次郎議員の資産額は0円だという。あり得ない。からくりは、国会議員資産公開法(正式名称:政治倫理の確立のための国会議員の資産等の公開等に関する法律)にある。その法律によると、資産額から普通預貯金や本人以外の名義での土地・不動産などの額は除いてもよいとされている。意図的に資産額を少なく見せているとしか思えない。あなたがたの給料がどこから来ているのか考えて頂きたい。政治倫理のためなら、ぜひとも正確な数字を国民に公開して頂きたい。なにも恥ずかしいことはないのだから。


注1. 石破茂・元自民党幹事長もその一人だ。「石破氏『景気回復、実感どれだけ』 アベノミクスにチクリ​​​​​​」、日本経済新聞2018/1/19、http://www.nikkei.com/article/DGXMZO2590559019012018EA3000/、(アクセス日: 2018/4/24)
注2. 「景気回復『実感していない』82% 朝日新聞世論調査」 朝日新聞デジタル、2017/11/14、 http://www.asahi.com/articles/ASKCF5Q76KCFUZPS008.html、(アクセス日: 2018/4/30)
注3. 考えてみると、投票日は仕事休みと思われている日曜日に行われるが、最近では日曜日に出勤することは珍しくない。特に、いわゆる貧困層は日曜日に働く場合が多いと思われる(非正規雇用においては、平日に比べて時給が高い場合が多い)。となると、投票所に言って投票をするということが時間的に不可能である。であれば、投票の仕組みを変えればいい話だが(ネット投票など)。しかし、総務省「平成26年通信利用動向調査」によれば、所得とインターネットとの親和性の間に相関関係は見られる(あくまでも相関関係)。
注4. 「小泉進次郎氏ら70人『資産ゼロ』続出の怪」、東スポWeb、2018/4/4、http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/968566/ 、(アクセス日: 2018/4/30)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?