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インターネットジャーゴン科:「88888」

「それ以上のジャーゴンの検索、および収集はウェブ透明性を担保しないため罰金刑の対象となります」

 古代インターネットウェブサイトを閲覧していたら「thing」の声がスピーカーから聞こえて、驚いて手を止めた。本物の警告音声を聴くのは初めてだった。通りすがったテンネンさんが、画面を指さして笑った。

「アイエッ! バカ! ウカツ!」

 意味が分からない。俺はテンネンさんを無視した。

「…………ハツユさぁん」

「ジャーゴン掘りの初期症状だよ。放っておきたまえ。そのうち我に返る」

 電子ボード上で大量のデジタル付箋を太極拳みたいな動きで分類していたハツユさんが、手を止めず答えた。俺が転籍してきた時からのメンターで、頼れる女性だ。今日も、ぼさぼさの長髪を縄のような三つ編みにしている。

「テンネンくんの動画(ログ)は残してあるから、発表前の追い込み時期に見せて精神を殺そう。それで、ドヨウビくん、どうしたね」

「thingの警告が出ちゃって」

「引き出しに入っている、赤い正方形の板を読み込ませたかい? あ、差し込むときは向きに注意したまえ。文字が書いてある方が上だ」

 机の引き出しを開けると、なるほど「禁帯出」と書かれた赤いプラスチックの四角い板があった。何かが書かれていたと思しい白いテープも貼られている。デバイスの、それっぽい読み込み口に「禁帯出」を上に差し込むと、ジャーっという音がして、画面に「インターネットジャーゴン研究用ブラウザ」というウィンドウが開いた。

「これか」

 thingは静かになった。

 監視AIのthingによるコンプライアンス管理とウェブ透明性が保たれてからすっかり消滅したインターネットジャーゴン。俺が転籍してきたのは、それを掘り返し、言語学的研究を行う学部だった。

 俺は専用ブラウザで「8 並べる 理由」で再度検索を始めた。

【つづく】